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第108話 テーブルマウンテン

幾つもあるテーブルマウンテンの足元は針葉樹林の森だった。この地は北部であるのはもちろんのこと、樹林の種類から気候は疑問の余地なく亜寒帯である。しかも、ヘルナデス山脈の影響も間違いなく受けている。おそらくは狭い海からの湿った空気が山脈に遮断されて晴天の日が多く、四季のほとんどが冬と涼しい夏で占められている。


だが、最も大きいテーブルマウンテンの上にある森はというと針葉樹が見当たらない。全て広葉樹のようで、明らかにこの地の気候に反している。世界樹の森だ。目指す目的地、俺が会わなければならないドラゴンもそこにいる。


そのテーブルマウンテンを中心に大小様々なテーブルマウンテンがあった。一つ一つが断崖の岩肌が人為的に削られ、山全体でいうなら城のようだ。


おそらくは居住地で、世界樹のテーブルマウンテンとそれに最も近い居住地のみに吊り橋が渡されている。人々はそれを渡り、断崖の岩肌に削られた階段を使って、世界樹の森に入るのであろう。


ラキラは迷うことなく世界樹のテーブルマウンテンに向かっていた。頂上の平らな部分の大きさは直径が大体三キロぐらいか。切り立った断崖は、おそらく千メートルはある。


森の中心にひときわ大きな世界樹があった。葉張りは三百メートル前後。森の屋根から一本だけがこんもりと頭を出している。ヤドリギの大きさでそのドラゴンの力が分かるという。ジンシェンのヤドリギは下から見上げただけなので全体像が掴めず、葉張りの大きさも確認できなかった。


上空から見ると分かる。この里の主は化物だ。なにか情報を得られるかもしれない。


ラキラとジュールが先にドームの敷地に着地した。そこは森が開け、芝地が広がっていた。ラキラの帰りを待ちわびていたのか、すでに男が三人待っていた。一人は見覚えがあった。遠目でも分かる。デンゼル・サンダースだ。


アトゥラトゥルも続いて着陸する。ラキラはアーメットヘルムとマスクを取り、三人へと近付いて行く。二人の男は双子なのかそっくりで、両方とも白い髭を蓄えた小太りの老人だった。二人はラキラのことを姫様と呼んで駆け寄った。


ラキラはひとしきり二人の老人と抱擁すると、待てを食らわされた犬のようなデンゼル・サンダースに向けて手を広げた。デンゼル・サンダースは待ってましたとばかり、タイガーっと声を上げ、ラキラに飛びつく。


二人の老人たちはデンゼルに押し退けられた。負けじとラキラに食らい付く。ラキラを奪い合うように、四人仲良く抱き合っている。ふと、他に人の気配を感じた。ドームの方を見ると男が三人、俺の方に向かって来ている。


一番前を歩く男に見覚えがあった。ジンシェンの里に来ていたドラゴンライダーだ。


腰に差す剣も他の者と造りが違う。特別な魔導具なのだろう。大きな石の入った首飾りも首に掛けていた。


里長のお出ましって訳だ。後ろを付いて来る男らはこの里の政務官か、宰相みたいなやつらなのだろう。あるいは、護衛官か。いずれにしても、里長は俺に用があるようだ。騒ぐラキラらには目もくれず俺の前に立った。


「“転がる岩”にようこそ、キース殿下。いや、異世界の人」


異世界の人―――。そういやぁ、俺はジンシェンの里で異世界人だとカミングアウトしたんだっけ。


「お待ちしておりました。わたしはバーデン・ハザウェイ」


黒髪を後ろで束ねている。首は太く、肩の筋肉が盛り上がっていた。ブルーアイで、歳の頃は四十から五十の間か。


「お招き頂き痛み入る。貴殿はハザウェイ殿と申されましたか。確かジンシェンの里の時はラキラの隣に座っていた」


跫音空谷きょうおんくうこくの里ですな。光栄だ。覚えて貰っていたとは。どうです? ここではなんだし、積もる話もあろう。中で話でも。酒は用意してある」


バーデンは親指でドームを指した。


「光栄の限りだが、今は立て込んでいてな。すぐにでも帰らなくてはならないんだ」


「そうでしたな。ラース。ラース、」


そう言うとバーデンは口ごもり、手を胸元でかき回すような仕草を見せた。何か思い出したいようだ。後ろから男が、ラース・グレンと囁く。


「そうそう。ラース・グレンという男の報告は聞いたよ」 


名前を忘れていたな。しかも、報告? この口ぶりではラースに面識もなければ会ってもない。


「コウ・ユーハンとウマル・スライマンを倒したそうだな。魔法での戦いはここ百年行われていないが、歴史を見れば幾つかある。どれも同じ王族どうしの内輪もめだ。私の知る限り今回が初めてのことだよ。他王族間の、それも二対二の戦いは」


えらく興奮している。もしかして、俺と話をしたいのはそれが聞きたかっただけか。悪いやつではなさそうだが、リーダーとしてどうかと思うぜ。


「そのうえ殿下、あ、いや、異世界の人は魔法無しで、神の手アレクシス・チャドラーを倒したって聞く。アレクシス・チャドラーはシーカーの間でも知らない者はいない。わたしも昔は腕に覚えがあって、チャドラーとは一度手合わせしたいと思っていたんだ」


結局は立ち話となるか。ドームに席を設けるも設けないも関係ない。どうしてもその話がしたいようだ。これは長くなりそうだ。話を変えよう。俺に無駄話を続ける時間はない。


「ラース・グレンはここにいるのか?」


「ラース・グレン? ああ、そうだったな。在地の土民だったか。ここにはいない。やつらが来られるのは出城までだ。王都に帰れと伝えるよう部下に命じたから、おそらくは今頃、王都へ向かっていると思うが。王国からの情報が滞るのは問題だからな」


やはりな。ラースの報告は出城のシーカーがここにもたらしたって訳か。


「ところでハザウェイ殿、ローラムの竜王との契約の件だが、里のシーカーは護衛に出てくれないそうだな」


ハザウェイはチラリとラキラに目をやった。ラキラはデンゼルら四人で楽しそうに話している。ハザウェイの恨めしく見る目が、もう話したのかと言っている。めんどくさそうにため息を一つつく。そして、笑顔をつくった。



「面白かった!」


「続きが気になる。読みたい!」


「今後どうなるの!」


と思ったら☆、ブクマ、コメント、応援して頂けると幸いです。

どうぞよろしくお願いいたします。


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