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第102話 夜空

雨男と風小僧は骨折や怪我をしているものの命に別条はなかった。風小僧はなかなか気骨のある男だ。気を失っても魔法のバリアは一定時間保たれたようだ。


風の属性が効果を発揮したのだろう。稲妻は空気の薄いところを選んで進んで行くという。雨男ほどではないにしろ、電撃をある程度は回避した。フィル・ロギンズの解説だが、バリアに魔法軽減が付与されている。


二人の身元は、所持していた剣とタガーの紋章からタァオフゥアとファルジュナールの王族と分かった。年齢と容姿から雨男はコウ・ユーハンで、風小僧はウマル・ライスマンに間違いないとイーデンは言う。


雨男が三十才でコウ家の三男。風小僧は二十八才でライスマン家の二男。おそらくは雨男の方がリーダー格。


彼らが率いた弓兵五十人と護衛五人もイーデンのシュガールがことごとく行動不能にしていた。全員がタァオフゥアの兵で、俺とイーデンの組合せから隊の編成が弓兵と決められたのだろう。タァオフゥアとファルジュナールはすでに共同で作戦行動するほど強い繋がりを持っていた。


弓兵と護衛らは王族二人が捕らえられたことを知ると大人しく俺たちに従い、自分たちの足で移動し、自ら捕らわれの身となった。王族を置いて逃げるわけにもいくまい。


彼ら全てをクレシオンの塔、ガーディアンに収容している。もちろん、王族を黙らすあのマスクも用意してあった。万が一、王族との戦いに備えての旅である。雨男と風小僧の二人にも俺が裁判中に味わったあの辛い生活を体験して頂く。


王都に連れて帰る。ここで殺すわけにも行くまい。後はエリノアに任せるとしよう。やつなら上手くするに違いない。


戦いがあってからもう五日が過ぎていた。ラース・グレンは単独で旅立っていた。所帯が大きくなりすぎたのもあるが、やっぱり捕虜だけを置いて行く訳にも行くまい。彼らのお守りもあるし、結局ラース・グレン一人に任せるしかなかった。


搭の頭頂部に俺はいた。下を覗くとよくもまぁ、こんなところから飛び降りたと感心する。あん時は無我夢中だった。これはキース・バージヴァルに感謝しなくてはなるまい。俺はこれでも若い時には名を馳せた戦士だったが、今はもうおっさんなんだ。元の体でそんなことをしたら、間違いなく死んでいた。


頭頂部の下の階にはイーデンとハロルドがいる。イーデンはシュガールと地雷に集中してもらい、頭頂部からの監視は俺とハロルドが交代で受け持つ。カリム・サンとフィル・ロギンズはイーデンの下の階だ。常駐し、雨男と風小僧の面倒を見ている。キースのお付きをしていたんだ。楽勝だろう。


さらにその下の階にはシーカーの女戦士二人。彼女二人に五十五人は申し訳ないが、兵士の面倒を見て貰っている。もちろん、任せっきりってぇのも悪いので、イーデンのシュガールも監視に加わってもらった。


捕虜らはシュガールの電撃を食らった。シュガールがチョロチョロしているだけで変な考えを起こさないだろう。


ラース・グレンは今頃どこにいるのだろうか。一人で旅立って五日も経っている。搭から見て西の方角は、ヘルナデス山脈が南から北に連なっている。東は延々と草原が広がっていた。


シーカーの里はヘルナデス山脈を隔てた向こう側にある。ローラムの竜王が張った結界はヘルナデス山脈の高峰を結んで魔法の壁を作っていた。ムカデのドラゴン、ジンシェンの里は結界よりも尾根が西に入り込んだそこにあった。


タイガーが居る里もきっとその様などこかにあるはずだ。地図上で確認すれば大体の位置は特定できると思う。そういう場所はそう何か所もないはずだ。


別にラース・グレンを信用していないって訳ではない。ただ自分で探すのならどうするか、とそう思っただけだ。ラース・グレンはきっと仕事をやり遂げてくれると俺は信じている。


月の明るい夜だった。空気が余程澄んでいるのだろう。雲一つなく、空気の透明度も高い。クレシオンの街並みが瑞々しく青色に照らし出されていた。


ハロルドが下の階から姿を現した。交代の時間のようだ。俺たちは二時間おきに交代で見張りに立っている。


ハロルドは頭頂部に上がると必ず最初にやることがあった。頭頂部の縁に沿う鋸壁のこかべツィンネの上に立ち、宙に向かって小便を放つのだ。


本人の言い分は、見張りの最中にもよおしたくないでしょ、であった。まぁ、目を離した隙に敵襲となり、何をしていたんだと問われれば、小便していたではかっこがつかない。それは分かるが、やはり一番は自分の楽しみなのだろう。


風向きによっては小便が自分に帰って来る。そうするときゃっきゃ騒ぎ、小便の出が悪く、勢いがなければつまらなそうな顔をして俺の方に向かって来る。


どんな時でも楽しみが見つけられるのは得な性格だ。精神的に壊れにくいし、だから魔法を使えなくても長城の西奥深く、ガレム湾のダンジョンまでたどり着けたのであろう。


そこにいくとイーデンは生真面目きまじめだ。搭の最上階で瞑想をするように胡坐を組んでいる。イーデンの魔法は歩いていても、用を足していても解かれることはない。


もちろん寝ていてもだ。地雷もシュガールもそういう性質の魔法である以上、意識を失うか、本人が命じるまで魔法は働き続ける。


ただ、敵を察知するという目的がある以上、意識の波を造りたくない。体力の低下も魔法に何らかの影響を及ぼすのだろう。それでその瞑想スタイルなのだが、ここ五日間ずっと魔法を展開し続けている。アンダーソン邸の戦いもそうだったが、精神的に相当な負担のはずだ。とち狂うのも無理はない。


俺としては、頼りになるのはイーデンだが、ほっとけないのもイーデンである。ハロルドは例によって小便をカーディアンの頭頂部から放ち、気分良く俺の方にやって来る。


真顔がニヤけているから本心は分かりづらいのだが、調子はどうだという声掛けに、上々とだけ答えた当たり、絶好調なのはまぁ、間違っていないんだろう。


俺はハロルドの肩を二回叩き、頼んだぞと階段へと向かった。ハロルドは、了解と答えたが、その後すぐに、あっ、と変な声色を出す。


ハロルドは上空を見上げていた。その目線の先には魔法陣があった。夜空に光るように紫色の魔法陣が展開している。



「面白かった!」


「続きが気になる。読みたい!」


「今後どうなるの!」


と思ったら☆、ブクマ、コメント、応援して頂けると幸いです。

どうぞよろしくお願いいたします。


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