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第1章 第4話 教育

「見てくださいこのかのんのスーパーレシーブ。せんぱいのこと考えながら拾ったらうまくいっちゃったぁ」

「さすがだな……勢いのあるスパイクを身体全部使って殺してる。猫のようなしなやかな動きと動物的直感。猫又の名は伊達じゃないってわけだ」

「いらいらいらいらいらいらいらいら」



 花音の中学時代の試合をタブレットで観戦する。



「かのんー、せんぱいのことほんとに尊敬しててー。せんぱいがいるから他の推薦蹴ってこの学校入ったんですよー?」

「そっか……でもごめん、俺もうバレーできなくて……」

「いらいらいらいらいらいらいらいら」



 俺からも観やすいように抱き着くように密着してくる花音。なぜか指を絡ましてきてるけど、そんなことが気にならないくらいいいプレーだ。



「確かにショックです。せんぱいはかのんのあこがれだったから。でもこんなこと言ったら怒られちゃうかもですけど……ちょっとうれしいです。バレー選手じゃないせんぱいのことも知れたから……」

「花音……」

「いらいらいらいらいらいらいらいらぁ!」



 背後でぶつぶつ言っていたオリヴィアが、感情を剝き出しにした声を上げて俺と花音の間に割り込んでくる。花音のタブレットが床に落ちたが、なぜか当の本人は勝ち誇ったようにニヤニヤとした笑みを見せた。



「あれれー? どうしちゃったの化け狐ちゃん。ずいぶん顔色悪いけど」

「しゃあしか! こんぬすっとネコ! 伊達さんわたしのプレーも観てください! もっとすごいレシーブ見せてあげます!」


「いやオリヴィアじゃ無理だな。このレベルは相当やりこんでないと……ていうかそれ以前の話だ。まず基礎ができてないんだよレシーブの基礎が。バレーは相手を倒すスポーツじゃない。ボールを落とさないスポーツなんだからさ」

「うぅ……。だって高校に入って伊達さんに手取り足取り教えてもらうはずだったんですもん……」



 あぁなんだ……そういうことか。



「じゃあ今からやろっか」

「やったぁ!」



 さっきまでの怒りや悔しさはどこへやら。満面の笑みで部屋を飛び跳ねるオリヴィア。にしてもでかいな……手を伸ばせば簡単に天井に届きそうだ。



「せ……せんぱい……かのんもレシーブ教えてほしいなって……」

「いや花音はいらないだろ。単純なレシーブ力なら全盛期の俺より上だよ」

「だってぇ! ざぁんねんだったね子猫ちゃん」

「ぐぬぬむがづぐ……!」



 なんで褒めたのに負けたみたいなリアクションしてるんだ花音は。まぁいいや。でもここにボールはないしオリヴィアも制服だしな……とりあえず構え方から教えよう。



「いいか、まず第一に腰を落とすんだ」

「ひゃぁ!?」



 尻に触れて落とそうとすると、さっきまでとはまた違う声を上げるオリヴィア。



「ボ……ボディタッチありですか……!?」

「そっちの方がわかりやすいだろ。嫌ならやめるけど」

「い……いやなんかじゃ……で、でもまだ心の準備が……!」



 顔を真っ赤にしてわけのわからないことを言っているオリヴィアを無視し、次のステップに移る。



「で、両脚は肩幅より少し広めに開いて……」

「そこはだめぇ!」



 オリヴィアのスカートの中に手を入れて内ももを押すと、彼女の腕が俺の腕を抑えてきた。



「そ……そういうことなんですか……? そういうことなんですよね……!?」

「わけのわからないこと言ってんな。レシーブが上手くなりたいんだろ? だったら黙って言うことを聞け」

「は……はい……」



 ああ駄目だ……ひさしぶりにレシーブの話ができてテンションが上がってしまっている。そりゃファンでも引くよな……とりあえず一度話題を逸らすか。



「脚太いから筋肉があるのかと思ったけど結構柔らかいな。ムチムチしてる」

「っ……!」


「近くに海あるから今度行こう。砂浜の走り込みは脚力アップにつながる」

「海……水着……デート……!」


「じゃあ次腕な。オリヴィアは特に腕の組み方がよくないから」

「手……手が……ぁぁ……!」



 彼女の手を握り、レシーブの組み方を身体に教える。だがこの程度は散々教わってきただろう。もっと根本的な解決策を見出してあげないと意味がない。



「多少しょうがないと思うんだよ、オリヴィアの場合は」

「で……でもわたしレシーブ上手く……」


「だって胸大きいだろ」

「っ……!」


「色んな動画観て気づいたけど、胸大きくなりだしたの中二くらいからだろ? 前までのような腕の出し方だとその大きな胸に腕がつっかえる。だから上手くいかないんだ」

「ぁ……ぁぅ……っ」


「それに身体のバランスの取り方もだな。この時期はみんなそうなんだけど、身体の変化に脳が追い付いていないんだ。ちゃんと理解しろ。お前は胸が大きいって」

「はぁ……っ、はぁ……っ」


「そのプレーに邪魔な胸の大きさはどうしようもない。後はどう付き合っていくかぁ!?」

「伊達さんが悪いんですからね!」



 再びベッドに押し倒される俺。そしてそこを、さっきまでとは比べ物にならないくらい理性のタガが外れたような表情をしたオリヴィアが涎を垂らしながら覆いかぶさってくる。



「先に誘うてきたのそっちやけん……覚悟して……!」



 誘った……!? なにを……!? 俺はただレシーブのやり方を教えただけ……ていうか、やば……!

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