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第1章 第2話 不屈

『ではベストリベロ章を三年連続で受賞した伊達颯選手にインタビューしてみましょう!』



 画面の中の俺がマイクを向けられる。俺の全盛期。中学最後の大会でのインタビューだ。



『リベロとは守備専門、レシーブのプロフェッショナル。その中のトップに輝いた今の気持ちはどうですか?』

『素直にうれしいです! ありがとうございます!』



 そうか、俺はこんな風に笑えたのか。こんな声を出せたのか。こんな風に褒められていたのか。懐かしい。たった二年でずいぶんと変わってしまった。



『伊達選手といえば外せないのはその足の速さ! 風のような動きから鎌鼬なんて呼ばれてますよね?』

『はは、ちょっと恥ずかしいですけどね』



 画面が試合の映像に移り変わる。ブロッカーの手に当たったボールが大きくコートの外に飛んでいく。相手チームが得点を確信して円陣を組む。だがボールは、上がっていた。



「きゃーーーー! かっこよかかっこよかーーーー!」

「ぐえっ」



 画面の中の俺がボールに飛びつくのと同時に、今の俺の腹が強く締め付けられる。



「あ、ごめんなさい。わたし興奮しちゃうと方言出ちゃって……」

「そこじゃないそこじゃないそこじゃない……!」



 オリヴィアに抱きかかえられ……それこそ誘拐のように連れていかれた場所は、彼女の自室。寮の一室に連れ込まれた俺はオリヴィアにだっこされたままタブレットで過去のインタビュー映像を観させられていた。



『いやー、すごい足の速さですね』

『それだけが取り柄ですから……なんて言うと陸上部の方が向いてる感じもしますけどね』



 俺より単純にレシーブ力が高い選手はいくらでもいる。その中で俺が飛び抜けられたのは、脚のおかげ。そう、脚のおかげだったんだ。



 だからこそ、今の俺はゴミ。知らない女子を庇って車に轢かれたことで、左脚に麻痺が残ってしまった。もう俺にかつての輝きはない。どんなに優れた機械も、壊れてしまえばただのゴミなのだ。



「実はわたしもこの時同じ会場にいたんですよ。まぁわたしは一回戦負けだったんで観客席なんですけど」

「あれ、そうだっけ。俺が中三だったら九尾は中二……その時にはもう有名だった気がしたけど」



 俺の声に、オリヴィアの力がわずかに緩んだ。



「ええそうですね……他より背が高かったし、他よりパワーもあった。自分でも無敵だと思ってましたし、活躍を期待される有名な選手でしたよ」



 だが結果は一回戦負け。強豪校出身だし周りが弱かったというわけではないだろう。ならなぜ負けたのか。その理由は容易に想像がつく。



「レシーブが下手だったんです。サーブもスパイクも、全部狙われました。この時までは本当にバレーが楽しかったんですけどね……誰よりも期待されて、自信もあって……でもこの時はすごか、辛かった」



 バレーはその性質上背が高い方が有利なスポーツだ。だがそれだけで勝てるほど簡単なスポーツでもない。ボールが上がらなければ、そもそも試合にならないのだ。



「そんな時です。あなたのファンになったのは」

『では最後に全国のバレー選手に一言お願いします』



 画面の中の俺が言う。



『バレーはボールを落としたら負けるスポーツ。ボールが上がっている限りはどれだけ劣勢でも負けていません。だから最後まであきらめないでください。負けていなければ、勝てる可能性はいくらでもありますから』



 未来のことを何も知らない俺が。偉そうにそんなことを口走っていた。



「……それで? こんな映像を観せて……俺にもう一度バレーをやれと?」

「そんなんじゃありません! そりゃあ伊達さんのプレーは見たいけど……怪我は仕方ありません。バレーが全てでもないですしね」



 弱まっていたオリヴィアの腕の力が、強くなる。



「わたし、あきらめなかったですよ。あなたに会うために」



 彼女の息遣いが。しっとりと湿った肌が。俺の身体を包み込んでくる。



「ちょ……っ、ま……っ」



 まずい。言葉にならない危機感が俺の身体を暴れさせるが、150㎝の俺では180㎝のオリヴィアに敵うわけもない。



「くすっ。それ本気で抵抗しとーと? よわよわ……あげんかっこよかったとにばりあいらしか……」



 方言が凄まじくて意味は半分くらいしかわからないが……暗転したタブレットに映る彼女の表情は……。



「うちが絶対バレーよりも幸せにしちゃるけん」



 俺の新たな高校生活の始まりを告げていた。

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― 新着の感想 ―
[一言] >でもこの時はすごか、辛かった この部分、「すごく辛かった」の博多弁だと思いますけど、それなら「ばり辛かった」の方がいいです。「すごか」は「すごい!」っていう感嘆詞として使うのが一般的なの…
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