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第1章 第1話 ゴミ捨て

 女子部活動の男子マネージャーはどのように見られているのだろうか。



 女の子狙い? 女子スポーツのファン? 世間一般のイメージはわからないが、ここ翼防(よくぼう)高校女子バレーボール部ではこのように見られていた。



「おい、ちゃんとモップ掛けしとけよゴミ!」



 『ゴミ』。見られ方、あだ名、扱い。全てがゴミ。それが女バレで一年間マネージャーを務めた俺の存在だった。



「すいません……すぐにやります」



 同級生に怒鳴られ、俺はすぐにモップを手に取りゆっくりと床に落ちた汗を拭いていく。



「チンタラしてんじゃねぇよゴミ! お前のせいで練習が止まってんだろうが!」

「……すいません」



 マネージャーの仕事を一言で表すなら雑用だ。ドリンク作りや計測、あらゆる面でのサポート。それはきっとどの部活でも、男でも女でも同じだろう。



 だがここは、普通の部活とは全くそのレベルが違う。そもそもが強豪校。加えて同性の中に紛れ込んできた異質。さらに自分たちより圧倒的に非力な150㎝の男ときたもんだ。ストレスの発散に使われるのも当然の末路と言える。



「次ドリンク。5分で作って」



 なんとか床を拭き終わった俺にすぐさま仕事が振られる。俺以外にもマネージャーはいるんだけどな……暇そうな女子マネージャーが。



「……はい」



 だが何も言い返さず、言われた通りに両手にタンクを持って体育館を出る。仕方がない。俺がここにいるにはやるしかないのだ。バレーボールに、関わるには……。



「きゃっ」

「っ……すいません!」



 空のタンクの重さに手間取っていたせいで前から歩いてきた女子に気づかなかった。かわいらしい悲鳴が聞こえたが、倒れたのは俺だけ。もう部員は全員集まっていたはずだが、今は4月。新入生が見学に来たのだろう。フィジカル的には問題ないようだがさて……。



「大丈夫ですか……?」

英栖(えいす)オリヴィア……!?」



 伸ばされた腕を取ることもできず、見上げるしかできない俺は自然とその女子の名前を口に出していた。



「なんでわたしの名前を……?」

「そりゃ知ってるよ! あの全国常連の岐津中の絶対的エース! イギリス人の母親譲りの鮮やかな金髪に180㎝の高身長! 何よりどんなブロックも打ち砕く圧倒的なパワー! 狐狩りで有名なイギリスと狐のようなブロンドの髪から付いた異名は『九尾の狐』。誰もが釘付けになる美しい姿から繰り出される妖術のようなスパイクはプロ確実の……!」



 長々と語って、ようやく正気に戻った。なにを初対面の女子に語ってるんだ……気持ち悪い。もう顔を見ることもできない。きっと今の彼女は俺を蔑み見下しドン引きしていることだろう。



 にしてもあの九尾がうちの学校に……。確かにうちは強豪だけど、せいぜい県ベスト4止まり。全国区の選手が入ってくるなんて……。これだけの逸材を推薦で取れたならとっくに噂になっているはず。だから一般で来てくれたのだろう。出身は博多。ここは神奈川だっていうのに……なんて幸運だ。



 だが同時に悔しくもある。オリヴィアはエースにふさわしいパワーこそあるが、ボールを受ける技術……レシーブがあまり上手くない。その弱点を突かれて表彰台からは縁遠い選手でもある。そしてこのバレー部も防御よりも攻撃命のチーム……噛み合わせが、悪い。



 もっとオリヴィアがレシーブが上手ければ……あるいは。エースにレシーブをさせないくらい、優秀なリベロがいれば……。



「あの……伊達颯(だてはやて)さん……ですよね……!?」



 俯きながら歯を食いしばっていると、久しぶりに俺の名前が呼ばれた。



「景色坂中の最強リベロ……無敵の守備……レシーブの鬼……! 150㎝という低身長で誰にも見られることなく圧倒的な走力でどんなボールも拾う超天才! 気づいたら超スピードでどんなボールも上げていることからついた異名は『鎌鼬』! やっぱりこの学校にいたんだ……!」



 そしてその名前で呼ばれるのは、1年ぶりのことだった。



「わたし伊達選手のファンなんです! だけど高校に入ってから全然名前を聞かなくて……どうしてもあなたの完璧なレシーブ捌きを見たかったから他の推薦全部蹴ってこの学校に進学したんです! よかった……ちゃんと会えた……ばりよかった……!」



 真上から本当にうれしそうな……泣きそうなほどに幸福そうな声がする。どうやらファンというのは本当のことのようだ。だからこそ、やっぱり顔を見れない。



「ごめん……」



 俺は壁に手をつき、震える左脚を庇いながらゆっくり、ゆっくりと立ち上がる。



「ご……ごめんなさい……! わたしとぶつかったせいでどこか怪我しちゃいましたか……!?」

「……いや。怪我したのは、1年前だ」



 ファンだと言ってくれてうれしかった。だからこそ心苦しい。ゴミになった俺を見せるのは。



「俺の左脚は事故の後遺症で麻痺が残った。もうバレー選手は引退したんだ」



 あれは高校に入学する直前……地元からこの街に引っ越した日のことだった。言葉にすれば一言。車に轢かれそうになっている女子がいたから庇って轢かれた。その結果なんとか日常生活は遅れるが、スポーツをするには絶望的な後遺症を負ってしまった。



 どうして身体が動いたのかはわからない。誰を助けたのかもわからない。無意識に身体が動いていて、気づいたら俺の人生は終わっていた。



 スポーツ推薦だったが一般入試枠になり、男子バレー部に入ることもできず、だがバレーを捨てることもできずに女子バレー部のマネージャーに。だが結局俺のバレーに捧げた人生を知る者はおらず、俺の高校生活はゴミとなった。



「まぁ君ならすぐにレギュラーになれるよ。だから……」

「おい、ドリンク作るだけなのにいつまで待たせんだよ」



 うだうだと話しすぎた。痺れを切らした同級生が震える俺の左脚を蹴ってくる。



「すいま……」

「あんたなにしよーと……!?」



  再び床に沈む俺。だがその身体が急に宙に浮き、普段よりも目線が高くなる。



「九尾……!? まさか……なんでうちに……!? でもこの子がいれば……ねぇ、バレー部入るんでしょ!? そんなゴミ捨てて早くおいでよ! つーかあんた邪魔九尾ちゃんが気持ち悪がってるでしょ!? もういいあんた退部して。いるだけ迷惑なんだからさ。さ、九尾ちゃん。ようこそバレー部に……」

「バレー部……? 入るわけないでしょ、こんなのを見たら……!」



 俺には決して見せることのない目の輝きを見せる同級生。だが当のオリヴィアは……俺を軽々とだっこしてみせたバレーの天才は、こう宣言した。



「うちん推しば傷つける奴は許しゃんけん! こげん部活潰しちゃるけん覚悟しな!」



 そして始まる。バレーを愛し、バレーを捨てた俺たちの青春が。

他の作品が止まってしまっているのでちょっと息抜き! バレー……後輩……方言……かんっぜんに趣味です!!! 自己満足なのでどこまで続けるかは未定ですが、応援していただけたらその分がんばるのでおもしろかったらぜひぜひ☆☆☆☆☆を押して評価とブックマークしていってください! ちなみにバレー要素はあまり出すつもりはないので安心いただければと思います。そっちはつなガールの方でね……(全く需要がない処女作)

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