■宿屋_2人/??/??/??:??■
「え、そこで横になるの?」
「そう」
「いやいやいや」
「いいから早く」
これ、どこからどう見ても膝枕に誘われてますよね?
薄暗い部屋の中に俺とヤタの二人きり。
今までは同性の可能性を捨てきれなかったから変に意識せずに済んだが、浴場でソレを確認できなかったから…たぶんヤタは女なのだ。
いや、たぶんではない、見たまんまの女と認めるしかないのだろう。そもそも今まではトイレの便座事件と俺の名前の聞き間違えで無理やり意識をそらしていた。
意識した途端に顔が火照る。
都合良く誤解して慣れない異性との距離感を誤魔化していたが、もう限界だった。
「早く」
「…」
異性と意識してしまうと何も喋れなくなった。
緊張から鼓動が早くなりすぎて胸の高鳴りがヤタに聞こえたりしないだろうかと不安になる。
カラダがアツい…。
明り取りの窓から月の光なのか、ひときわ明るい光が俺の顔を照らした。
「…真っ赤」
ヤタは俺の顔を見るとすっと立ち上がった。
「ぁ…」
慌てて小さく声が漏れるが、何と声をかけるべきかわからない。
いつまでも動けない俺を待っていられなくなったのだろう、寝室から出て行くヤタを俺は目で追う事しかできなかった。
ヤタは部屋からも出たようで、ドアが閉まる鈍い音が聞こえた。
「…くそ」
自分の情けなさに腹が立つ。
接客なら大丈夫だというのに、親しい関係になるかもしれない異性というものには緊張で萎縮してしまう癖は物心ついた時から変わることはなかった。
自分の行動で相手に嫌われるかもしれないという恐怖や、男としての自信の無さがそれらの原因だとは分かっている。
ただ、こればかりは努力でなんとかなる気がしない。この異性へのコミュ障のせいで俺は年齢=彼女いない歴を更新し続けているのだから。
俺は冷たくなる胸の内を感じ、ベッドから出てリュックを探した。
例えヤタに嫌われたとしても、俺は俺の意志でヤタの力になりたい。
ゴクゴクと『赤い3倍』を一気飲みする。
これで『ヒュプノス』の言う通り世界を救えるのなら安いものだ。
「いや…これじゃ駄目な気がする」
ヤタが魔法付与してくれた物ほどではない、コンビニで飲んだ時のような強い眠気覚まし的な効果しか無さそうだ。
パーティーに伝えろとはそういう事なのか?
『ギィ…』
ドアが開いた音?
ヤタが戻ってきたのか?




