■草原_眠れぬ昼/11/12/11:30■
「飲んで」
全身を襲う激痛に顔を歪めながら俺はうつ伏せのまま、ヤタが入れてくれた物を確認する。
俺の前にはエナジードリンク『赤い3倍』がペットボトルの蓋に注がれて俺の口あたりに鎮座している。魔法使いが作っているヤバい感じの飲み物で味はかなり不味いが効果はある。
俺が身体を動かせないのを察してなのか、わざわざ缶のエナジードリンクをペットボトルの蓋に移してくれたようなのだ。口元に寄せてくるあたりあとは自力で飲めという事なのだろうが、メイド姿のヤタが初めて俺に給仕してくれた記念の一品がこれか…。
「はやく」
やばい、何となくヤタの不満が溜まってきている気がする。
「や、ヤタ。せっかくだから、美味しくなるおまじないをかけて欲しかったりして」
「ん?そんな魔法は覚えてないよ?」
「俺に続いて言ってみてくれない?」
「別にいいけど」
「それじゃまず、指先をあわせてハートを作ってもらって」
「印を結ぶ感じの魔法なんだね」
「そ、そうなんだ」
ヤタとのジェネレーションギャップは前から感じていたが、メイドカフェの知識はまるでないようだな…。
しかし、せっかくのメイド姿、ここは是が非でもやってもらいたい。
「指で作ったハートを対象物の『赤い3倍』に向けて今から言う呪文を唱えて」
「うん」
「おいしくな〜れ、おいしくな〜れ」
「雄飯死苦鳴〜霊、雄飯死苦鳴〜霊」
「萌え萌えキュン♪」
「燃ゑ萌ゑ灸」
「ありがとう…」
顔を動かせないのでハートを作っているヤタの姿も見えないし、念仏みたいな唱え方のおいしくなる魔法の呪文だった。うん…俺は後悔していない。
例え癒しににならなくても、俺の要望に応えてくれただけで幸せじゃないか。
『グツ…』
幸せなのだと強引に気持ちを納得させていたというのに、気のせいだろうか赤い液体から泡が?
「なるほど、魔法使いの作る飲料というのは本当みたいだね」
「え?」
「その液体、魔力を吸収した」
『ピチャ…』
泡が弾ける。
どうやら俺の目の錯覚では無かった。
…これは攻撃魔法なのでは?
「さあ、飲んで」
「い、いただきます」
俺はペットボトルの蓋になんとか口を当てると中身をすすった。
「おいしくなった?」
『赤い3倍』独特のヌルリとした感じが消え、サラリとした液体に!?
酸味を感じていたものにトゲがなくなってまろやかに!?
「お、おいしい!!」
まさかの味に驚いてつい大声が出てしまった。
「良かった」
「お、おお、なんだこれ、痛みが消える…」
身体を襲っていた激痛は消え、腹の底から力が湧くのを感じる。
微動だにできなかった俺がすぐに立ち上がる事ができるようになった。
「凄い飲み物だね」
「いや、ヤタのおまじないのおかげかも…」
前回のように世界が赤く染まる事も無く、あんな少量でここまで動けるようになるとは…ヤタの魔力が付与されたのか?
「残りの『赤い3倍』いる?こっちにも魔法かけておいたけど」
「いただきます」
ヤタから『赤い3倍』を受け取り、残りを一気飲みする。
「ナイナイ…」
「はい?」
「身体が真っ赤だよ…」
あわてて腕を見るとまるで塗料を塗ったように真っ赤に染まっていた。




