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3話



「……」


 ロバートら三人が去った後、私は粉々になったペンダントを拾い集める。

 丁寧に、一つずつ。


 そうして拾い集めていると、数人の生徒が駆け寄って、一緒に拾い集めるのを手伝い始めた。

 彼女たちは、フィオナを虐めていた女生徒たちだ。


「申し訳ございません……私たちのせいで大切になさっていたペンダントを……っ!」

「アリス様が酷い仕打ちをされているのに、王子たちを見て足が竦んでしまいました。私たちを守ってくれていたのに、見殺しにするような真似を……!」

「本当に申し訳ありません……っ!」


 彼女たちは自分たちの不甲斐なさに涙を流していた。

 私は微笑んで彼女たちの頬に手を添える。


「いいのよ。泣かないで。それにあなた達は何もしなくて正解だったのよ。見たでしょう? 貴女たちがフィオナさんを虐めていたのだと知ったら、あの三人が何をするか分からないわ。最悪、殺されるかもしれない。だから、絶対にバラしてはダメよ。 ……この壊れたペンダントのためにも」


 彼女たちは目元の涙を拭い、力強く頷く。


「はいっ……!」

「分かりました……!」

「大丈夫。あなた達が私のことを思ってくれているのは分かっているからね」


 彼女たちがフィオナを虐めた理由は、婚約していた私とロバートの仲を引き裂こうとしているフィオナを敵視したからだ。

 元々彼女たちは私のことを尊敬してくれていた。

 今回はその気持ちが暴走してしまい起こったのだ。


 彼女たちはそれをとても悔いている。


「今度は私たちが盾になります……!」

「絶対にアリス様をお守り致しますので……!」

「ダメよ。私たちはあなた達に傷ついて欲しくないわ。今回は流石に危険だから家にも連絡するわ」


 と言っても、もう既に連絡は行っているかもしれない。

 これだけの大騒ぎを起こして各方面の家に連絡が行かないとは思えない。


 ロバートたちが権力を使い、連絡を止めているなら話が別だが。


 私は念の為、秘密裏の連絡網からプレスコット家に手紙を書いた。

 今日起こったこと。ロバートたち三人がしたこと。私が今どういう状況に置かれているのかまで。


 この連絡網なら一時間もすれば連絡が行くことだろう。


(そして……あともう一人)


 私は“とある人物”へもう一枚手紙を書いて送った。

 学園へ来てくれるかどうかは分からないが、最後の手段だ。


 手紙を送る。


 そして時間は流れ──時刻は昼になった。

 ロバートたちはあの後は特に何もすることは無く、私は教室から離れることはなかったので被害は拡大していない。

 恐らく教科書を引き裂き、ペンダントを壊したことで一時の怒りは収まったのだろう。


 昼までには学園中に今朝の出来事は広まったようで、周囲の生徒は私を遠巻きに見ていて何か干渉しようとはしてこなくなった。

 王族や公爵家の問題に首を突っ込みたくないのだろう。


 ロバートたち三人が私へしたことを見ているならばそれが賢明だ。

 冤罪に私刑。

 もし彼らの機嫌を損なったら何をされるか分からない。


 私は今朝ペンダントを壊された後、別に家へと避難しても構わなかった。

 しかしロバートたちに反撃するための材料を整えるために学園にまだ残っていた。


「さて、お昼の時間だけれど……」


 できればロバートたち三人と遭遇するのを避けるために教室から出て行きたくはないが、私はいつも学園の食堂で昼食を摂るため、お弁当を持ってきていないのだ。


 そのため食堂へと行かねばならないのだが、懸念点が一つある。


 ロバートたち三人の内の一人、ドミニクも同じく食堂を利用しているのだ。

 朝から私と離れようとしない三人の内の一人が私の不安を察したかのように答えた。


「大丈夫ですアリス様。相手は一人です。もしものことがあっても私たちがついているので人数で有利です」

「そうね……」


 ドミニクは武術は不得手だと聞く。

 加えて私たちは四人もいるので、ドミニクがわざわざしかけてくることも無いだろう。


「では、行きましょうか」


 私たちは食堂へと向かうことにした。

 四人で教室を出て廊下を歩く。

 そして食堂へと着いた時──


「おっと、待ってください」


 ドミニクが、食堂の前で私たちを待ち伏せしていた。


 ドミニクの顔を見て、私の中でぐつぐつと煮えたぎるような怒りが生まれた。

 ペンダントを壊された恨みだ。


 私は不機嫌なことを隠しもせずに尋ねる。


「……何でしょうか」

「貴女がこの学園の施設を使用することは禁止されています」

「はい?」

「おや、理解できませんでしたか。ですから、貴女は食堂を利用出来ないんですよ」


 ドミニクは私を小馬鹿にしたように笑う。

 それに対して三人の内の一人が激怒した。


「それはおかしいです! なんの権限があって──」

「王族命令だ」

「ロバート王子……」


 途中で声が挟まれる。

 声の方向を見るとロバートが立っていた。

 ロバートは腕を組んで尊大に私たちを見下ろしている。


「俺の命令だ。お前はこの学園の施設を利用することを禁止する」

「王族の権力を無闇矢鱈に振りかざす、と?」

「お前のような罪人に対する懲罰だ」

「おうおう、なんだ。罪人がいるのか? それならオレがとっ捕まえてやらねぇとなぁ?」


 今度はレオが出てきた。

 レオは肩に鞘に入った剣を担いでいた。

 学園に武器は持ち込み禁止のはずなので、刃のない模造剣であるはずだが、あれで殴られれば大怪我は免れないだろう。


 そして女性相手にそんな暴力を躊躇しない人物であることも今朝の段階で分かっている。


 ドミニク、ロバート、レオは私たちを囲むように立っていた。


 そしてじりじりと、距離を詰め始めた。

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