佐藤なぎさ③
「佐藤は相変わらず他人頼みだよなぁ。まぁ、いいけど、佐藤のそういう素直なところ嫌いじゃないし」
俺はさっそく飛田に同学級の委員長だった桜井の連絡先を聞き出して連絡をとり、同窓会の打診をした。もちろん俺が川崎まりなを好きだったことはある程度知れ渡っていたので、すぐにやましい理由があると勘付かれた。
「川崎結婚だかなんだかしたんだろ?急に学生時代のグループのチャットが騒がしくなったから、それで知った」
「おい待て、結婚したとは俺は聞いてない。結婚したってのが事実なら俺は泡吹いて倒れる」
「あれ、そうだっけ、なんかうる覚えでさ。ま、近いうちに企画するから期待しておいてくれ。川崎も声かけてみるから、来るかわかんないけど」
桜井に礼を言い電話を切ると、ほっと息をついた。飛田とはカフェでしばらく会話した後別れ、すぐさま店の外へ出てこのように桜井に電話したのだ。
相変わらず自分でも厳禁な人間だとは思うが、恋の病に犯されている重病人だという認識が周囲にもあるようで、なんとなく許されている節があった。
まだ確定はしていないが、川崎ともう一度会えるかもしれない可能性が出てきて心が落ち着く。
「高校の時、もし川崎に告白してたら人生変わってたのかな、」
ふと自分を省みてそのようなことを思った。もちろん彼女と付き合えたとは思っていない。が、自分の心に踏ん切りをつけられて、今頃違う女の子と付き合って結婚できてたりしたのだろうか。
あり得た未来か。
しかし、自分はあの時彼女に告白しようと思う気持ちは微塵もなかったことを思い出す。彼女と釣り合うとは当然思ってなかったから。
俺は彼女と再開して本当はどうしたいのか。彼女と会うという決定事項は変更するつもりはないが、それだけは明確にしておかなければならない、そう思った。
休み明け職場の女性社員に珍しく声をかけられる。
「あれ、佐藤さんなんか顔色良くなりました?いつも上の空で死人みたいだったのにマシになりましたね」
インパクトのある文字列に唖然としていると、隣の席の同僚も話に入ってきた。
「本当だ。少しは目覚めたのか?睡眠障害か何かだったんだろ?やっとお前のミスも減ると思うと嬉しいよ」
「俺、そんなに酷かったんですね、」
川崎に会えるという予定(不確定)が決まった俺の脳内は、白昼夢から目が覚めたみたいに晴れ晴れとしていた。
恋は病気で酷い足枷だと思っていたが、それが叶うとなる(叶うとは言ってない)となると生きる意味になる程重要なものだと気づく。
もし川崎と付き合えたら、嬉しすぎて昇天しちゃうかもなぁ。
妄想するくらい許してくれ。そう神様に告げながら、つまらない仕事を始めようとパソコンを起動すると、同時にメールの通知音がなった。桜井からであった。
[川崎同窓会予定会ったら来たいって]
あまりに仕事の早すぎる桜井を好きになりそうになった。