佐藤なぎさ②
「おい、お前諦めたんじゃなかったのかよ。卒業してから10年近く経ってんのにまだ川崎のこと引きずってるのか…?」
目の前にいるのは俺の高校時代からの友人の飛田圭吾。物言いが辛辣なところはあるが、友達思いの優しいやつだ。
彼女のことを知りたくて休日を狙って連絡し、カフェに呼び出したが、この通り粘着質な俺にドン引きしているようだ。
「あのさ、もっと言い方ってないわけ?一途とか、純粋とか、言いようはあるだろ」
「ねぇよ、久しぶりに会ったけど相変わらず重症だよお前」
飛田は呆れたような表情を浮かべ、注文したジンジャーエールを啜った。
ああ、川崎のよく飲んでいたものもジンジャーエールだった。いつも500mlペットボトルのジンジャーエールを昼時に飲んでいたのが印象的で良く覚えている。
「おい、何ボーっとしてんだよ。川崎のことだろ?妊娠したっていう話。俺は詳しいことは何も知らないよ。どうせ付き合ってる彼氏との子供なんだろうさ。詮索するようなことじゃない。川崎にも失礼だ」
「だって、川崎ってあんなに美人でモテたのに誰とも付き合ってなかっただろ?噂によると結婚もしてないようだったし、なんか気になっちゃって…」
彼女を詮索することは失礼なことだとは分かっていた。だけどそれが止まらないのが恋というものだ。
高校時代から今まで彼女がSNSをやっていないかチェックする日を欠かさなかったが、残念なことに見つけることはできなかった。そう言った俗物的なものをやっていないイメージはあったが、今の時代アカウントの一つも作っていないのはありえないだろうと思い、彼女の好きそうな芸能人などのフォロワーまで探しまくったのはいい思い出だ。今思い出してもよくそんな途方もないことをやろうと思ったことだ。
「俺お前以外に高校時代のやつの連絡先知らないんだよ。3年前ボーッとして携帯川の中に落としてから、あらゆるデータが全部消えちゃってさ。バックアップもなし。なぁ、なんとか彼女と仲良かったやつに連絡取れない?」
「いいけど、望みは薄いと思うぞ。川崎はあんまり人と関わりなかったし、他人に興味もなさそうだったから。あいつのすごい仲良い友達って言っても思い浮かばないだろ?」
「まぁ確かに」
「いっそ川崎本人に連絡して聞いてみれば?その方が早い。誰かしら連絡先は知ってるだろ」
「そんなことできるわけないだろ!あなたなんで妊娠したんですか?って聞くなんてあまりに失礼すぎる!そもそもさほど接点もない俺が急に会ってくださいって言うなんて不自然すぎる!」
飛田は俺の外堀を埋めるような、核心をつかないような態度に眉間に皺を寄せていた。自分でもわかっていた。こんなに365日彼女への恋心に悶え続けているのならば、いっそ告白して玉砕しスッキリしてしまえばいいと。
しかし、そうして振られてしまえば彼女との繋がりが一切消えてしまうようで怖かった。望みがないとわかってしまったのに思い続けることほど虚しいことはないから。
「お前彼女でも作ったらどうだ?今度合コン開いてやるから来いよ。俺商社勤めだから、結構川崎に負けないくらいハイスペックで可愛い子たちと繋がりあるし紹介できるよ?」
若干自慢の入った飛田の魅力的な勧めを聞き、後ろ髪惹かれるところはあったが、今の俺にとっては川崎といかに自然に遭遇し、真相を知るかということの方が数億倍大事であった。
「悪いけど、合コンは、」
飛田に断りを入れようと合コンというワードを口にした途端ある名案が思いついた。
「あ!同窓会開いて貰えばいいんだ!」