キレイな虹だなって、そう思ったよ
日曜日の朝……それは至福の時……。
何故ならば、一週間も待ちに待った推しアニメが放送されるのだから――。
「んひゃあ〜〜! 今週のマジカル☆ハニャンは作画気合い入ってるなぁ〜!」
リモコン片手にソファーに座り、ニチアサに放送されるアニメ『マジカル☆ハニャン』を前のめりになりつつ堪能するのがあたしの日曜日の習慣。
変身ヒロインものは何度観ても面白いし、どれも個性的なキャラクターが多くて絶対に推しの概念が生まれるから是非ともオススメしたい……まぁ、そんな話する友達はいないけどね。
あたしがアニメオタクでいられるのは、こうなった原因でもある家族の前だけ……さみしくないよ、これは涙じゃなくて雨か目汁さ……。
「こら飛彩! また胡座かきながらアニメ観て……!」
「んげっ、おかーさん帰ってたの!? というかこれくらいいいでしょ?」
あらあらまぁまぁって言いそうなこの人妻はあたしの母親である人並日奈子、38歳。
父親似のあたしとは全くの正反対で、おっとり系ののんびりママだ。
「はぁ、全く誰に似たのかしら……お母さんもっと女の子らしくしてほしいって思うわ」
「あ、あたしの個性なので!」
「まぁそれはそれで可愛いし需要もあるけれど……お母さんもそういう子好きだし」
「じゃあいいじゃん!?」
「いや、二次元に求めているのであって現実は別よ。だから飛彩、コスプレを甘く見ちゃダメよ。あれは真に似合う者だけが許され――」
「おかーさんの黒歴史はもういいから! あと今はハニャンに集中したいの!」
「グハッ!? 黒……歴史……くっ、仕方ないわね……。あっ、見終わったら買い物行ってきてくれる? 食パン買い忘れちゃって」
「はいはい、買い物りょーかい」
昔の黒歴史を躊躇いなく愛娘に見せてくるんだもんなぁ、羞恥心は多分ない。
っていつの間にCM……見逃しちゃったじゃんか、まぁ後で見返そ。
しっかり録画してるからニュース速報がない限りはあたしにダメージなんて与えられ――。
「――番組の途中ですが速報です」
「ニュースぅぅぅぁぁぁぁあああああ!!!??」
ほーら良いところでニュースが割り込んできた! これがフラグってやつですよあたしの日曜日を返せこのやろう!
「もう、静かにしなさい。最近多いわねぇ、それに家から近いじゃない」
「おのれまた異世怪人か……」
ニュース速報に映る腕が触手の化け物、《異世怪人》――それは、突如日本と繋がった異世界からの侵略者だ。
そしてアニメをぶった斬ってくる最悪の敵……。
この害悪者が現れ始めたのは数十年前――ある日突然、日本各所に点々と穴が出現するようになって、そこから未知なる異形……異世界で言うところの魔物・魔族の類いが襲ってくるようになった。
……けどまぁ、何度も何度も数十年に渡り侵攻を続けてくるくせに、特にこれといった被害がないからもう世間は慣れてるんだけどね。
あたしにとっては大災害にも等しいけど。
「はぁ〜、これはしばらくニュース続くかな。もう買い物行ってくるよ」
「大丈夫なの? 危ないわよ?」
「いいよ別に、どうせ大したことないからさ。いてきま〜〜」
この時……買い物袋と財布を手に、玄関のドアを開けた瞬間、タイミングよくニュース速報が終わったことに気付くことなく出ていったのは後におかーさんから聞いた話だ……。
* * * *
最寄りのスーパーへは河川敷を通って行く。
風も気持ちいいし、陽の光も暖かい。
この遠くで響くけたたましい戦闘音さえなければ最高の日曜日だ……なんかどんどん音が大きくなっている気がするけど気のせいだよね。
なんか風も強くなってきたような気もするけど、そんなの些細なこと。
「早く帰って続き観なきゃ〜」
なんかすぐ横で腕が触手の化け物が青色の女の子を捕まえているのが見えた気がするけど無視してさっさとスーパーに行こう。
締め付けが強いのかミシミシ鳴っちゃってるけど……大丈夫大丈夫。
「アオイ! 悪い、遅れた!」
あたしの前を素通りして、今度は黄色のちっちゃい女の子が青色に助太刀している。
やけに生々しい音と共に触手が目の前に落ちた。
うーん、完全に場違いだ……というかあの青色の子と黄色の子なんなの……? コスプレ? もしかして異世怪人と遊んでる?
「グゥゥ、だがまだだ! クッッハァァァァァァァ!!!」
うわぁ、巨大化したよこの触手、当然の如く第二形態突入だよ。
逃げるタイミングここかな……いやでも、そしたらもっと前から逃げてるよね……うーん、タイミング逃した。
「こんな力を残してたなんて……キノ、気を引き締めなさい!」
「わかってるよ!」
そういえばさっきまで観ていたマジカル☆ハニャンもこんな感じだった気がするな――。
ん? なんだか体が軽い……いや、なんか浮いてる? 足が地面に届かないぞ?
「動くなよ魔法少女! 動けばこのガキもろとも辺り一帯を血の海に変えてやるッ!」
「へっ?」
あーはいはい、なるほど、巻き込まれちゃったかー。
まぁこれはこれで美味しいポジションだけど、今こいつ魔法少女って言ったよね。
異世怪人と戦ってるのってもっとこう、勇者的なやつかと思ってたんだけど。
魔法少女にしてはなんか競泳水着みたいなピッチリ系のスーツだし、装飾も少ない……くそっ、これじゃスカートからの絶対領域からのパンチラが見えないじゃんか……! 醍醐味なのに!
「人質なんて卑怯よ! あとさっきから臭いのよ!」
「バケモノ! 悪魔! 腐れ外道! もうとっくに腐ってそうだけどなー!」
「お前ら動けないからってナチュラルにディスるのやめろッ!! ちゃんと毎朝シャワー浴びてるわッ!!」
ちょ、煽らないでよあたし死んじゃう! まぁ確かに臭いけどさ……生臭いというか、長年魚を泳がせた水槽の臭い……? 正直吐きそう。
現実で二次元じみたことが起こりまくる世界だから、たまにこういうことを求めたくなるけどこれはない。
所詮、現実なんてそんなもんなんだ……。
うぷッ……にしてもやっぱり臭い。
お願いだから触手あんまり動かないで欲しいな……でもここで口挟んだら殺されそうだし。
臭いと揺れのダブルコンボはキツいんだよ、ゲロインにはなりたくないんだよ、だから早く――。
「早く助けてくださぁぁぁおふッッ!?」
口を開いた瞬間、あたしの吐き気はピークに達した。
その後、何がどうなったのか……言うまでもないだろうけど、異世怪人さんにそれはそれはキレイな虹(?)が降り注いだ。
「ウギィヤァァァァァァ!!??」
いやでもこれ、アンタのせいなんだけどね? 自業自得と言えるよ。
まぁでもね、虹をぶっかけちゃったのはホント……ごめんねっ☆
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