13.アジのなめろうとイワシの南蛮漬けを作る
結局あの後も爆釣が続き、バケツに入りきらないほどセラが釣りあげた。
3匹まとめて釣りあげあたときなんかは、一段と喜んで見せた。
だがあまり釣りすぎても食べきれないため、もっと釣りたいと駄々をこねるセラを半ば強引に切り上げさせた。
リアには「姫様の好きなようにしてさしあげろ」と危うく斬られそうになったが、食べきれない量を釣って捨ててしまっては、命を粗末にする事と同義であること。アジの刺身を食べたことをバラすと言ったら何とか理解してくれたようだ。
すこし不貞腐れてしまったセラをなだめながら城へ戻ると、また美味しい料理を作るからといったら何とか機嫌を治してくれた。
◆◆◆
城へ戻ると、さっそく調理に取り掛かる。
今回のメニューは、アジのなめろうとイワシの南蛮漬けだ。
もちろんアジの刺身も出すが、せっかく味噌があるのでなめろうも作ろうと思う。
とりあえず内臓とエラを取ったアジを冷蔵庫から取り出す。
うろこ、ぜいごを取り除き、頭を切り落とした後に3枚におろす。
そして包丁を寝かせる様にし、腹骨をそぎ落とす。
ここからが非常に面倒ではあるが、小骨を抜いていくのだ。
指で触りながら骨の取り残しが無いように丁寧に取っていく。最終的にみじん切りにするので、多少残っていても問題は無い気もするが、せっかくなら全くない方が安心して食べられるだろう。
セラの喉に骨が刺さったりしたら、俺の喉に短剣が突き刺さるかも知れないからだ。
骨を取り終えたら、頭の方から尻の方へ向かって皮を剥ぐ。
そして、包丁で細かく叩いて刻んでいく。ここはある程度で大丈夫だ。
次に生姜、ねぎ、ニンニクをみじん切りにする。
そこに先ほどみじん切りにしたアジ、味噌、醤油を加え更に包丁で叩いて混ぜ合わせていく。
どこまで細かくするかは、最終的に好みが分かれるだろうが、個人的には身が大きい方が好みのため、細かくなり過ぎないところで完成させる。
皿に盛り付け、一旦冷蔵庫にしまっておく。
続いては南蛮漬けの調理だ。
イワシを洗っていると、着替えを終えたセラと仏頂面のリアがやってきた。
「ヒ~ロト。今回は何を作ってくれるの?」
「今回は、アジのなめろうとイワシの南蛮漬けだよ」
「なめろうと、なんばんづけ? どんな料理なの?」
「なめろうはアジや生姜とかを細かく刻んだやつで、盛った皿を舐めるぐらい美味しかったからそういう名前になったらしいんだ」
「皿をなめるど、はしたない」
リアが顔をゆがめた。
「いやいや、実際は舐めないよ。あくまでそういう説なだけだから」
「じゃあ、なんばんづけは?」
「南蛮っていうのは俺の世界にスペインやポルトガルって国が有って、昔はそこの事を南蛮って呼んでいたんだ。それで、その国にエスカベッシュっていう、揚げた魚なんかを酢に漬けた料理が有って、それが昔の俺の国に伝わり、そこから南蛮漬けって言うようになったんだ」
「う~ん。やっぱり食べてみないと分からないわね」
「南蛮漬けは少し漬けておくから、すぐには出せないよ。夕食のタイミングになるだろうね」
「えぇ~、そうなの? 今すぐ食べたかったのにぃ」
「すぐでも食べられなくは無いけど、半日から1日ぐらい漬けた方がよりおいしくなるんだよ」
「それも熟成ってやつ?」
「熟成とはまたちょっと違うけど、味がしみ込んだり、具材が柔らかくなるんだ」
「まぁいいわ。完成を楽しみにしている」
「ああ。期待しててくれ」
イワシは簡単にウロコが取れるので、水で洗いながら手で取ってしまう。ついでに内臓も手で取り除く。油で揚げるため内臓は有っても問題ないが、雑味を無くすために1匹1匹丁寧に取っていく。
セラが少しそわそわしていたが、もくもくと作業を続ける。
もしかしたら手伝いたいのかも知れない。しかし、一国の姫様に料理をさせるわけにはいかないため、気付かないフリをする。
恐らくリアにも反対されるだろうし。
イワシの下処理が済んだら、今度は人参と玉ねぎを切っていく。
人参は千切りに、玉ねぎは薄切りにする。
次に南蛮漬け用の汁を準備する。
鍋に酢、塩、醤油、水、みりん、酒を入れ、軽く沸騰する間で火にかける。個人的に酸っぱめの方が好きなので、酢は多めにする。
火を止めたら切った野菜を入れておく。
片栗粉を軽くまぶしたイワシを、170度の油で揚げる。
そして、火が通り完全に上がったら、野菜入りの南蛮汁に投入する。揚げたてを入れるため、入れた瞬間に”じゅっ”といういい音がする。
「ねえヒロト、どうして揚がるタイミングが分かるの?」
イワシを揚げ、汁に移しているとセラから質問が飛んできた。
「そうだなぁ、揚がっている音の変化とか、泡の大きさとか、まぁ色々あるけど、箸で掴んだ時にキューっとかジワジワって感触が感じられればオッケーだね」
「へぇ~、そうなのね。私にはまったく分からないわ」
「まぁ、俺も最初は分からなかったよ。でも慣れだったり、経験だよね」
そして、揚げたイワシを全部南蛮汁の中に投入すると、蓋をして冷蔵庫にしまった。
「これで一応完成。後は夕飯まで待てば、味がしみ込んだ美味しい南蛮漬けが食べられるよ。
「ええ、すごく楽しみだわ」
「姫様、それではそろそろお稽古の時間です」
「いやよ。そんな気分じゃないの」
「何をおっしゃいますか。調理を見学してからやるお約束だったでしょう?」
「えぇ~、だってダンスのお稽古ってつまらないんですもの。また釣りに行きたい~」
「ダメです」
「やだ」
「いけません」
「ねぇ、ヒロト」
突然セラに助けを求められた。この場合、俺はどうすればいいのだろうか。立場はセラの方が上だけど、恐らくダンスの稽古は姫として習得して置かなければならないスキルなのだろう。
「お、俺はダンスって全く踊れないからさ、踊れる女性って素敵だなって思うんだよ」
これがギャルゲーであれば選択肢が出て来て、選択によって攻略キャラが決まるのだろうが、これは異世界と言えど現実である。
別にリアを攻略するつもりなどは無いが、恐らく義務であるダンスの稽古と、姫のわがままを比べた場合、リア側にまわった方が良いだろう。
「ヒロト、本当にそう思ってる?」
セラがジトリと見てくる。本当にダンスの稽古が嫌いらしい。
「本当だよ。今度、セラのダンスが見てみたいな」
「まぁ! ヒロトったら」
セラはそう言って顔を赤くしたかと思うと、パタパタと厨房を出て行った。
「貴様、本気で言っているのか?」
なぜか味方したはずのリアが怖い。
「えっ、えっと。俺、何かまずいこと言った?」
「男性が女性をダンスに誘うのは、告白しているも同義だぞ?」
「え? まじで? ってか、あれで誘った事になっちゃったの?」
俺はただ単に、セラが踊っている姿だけを見たかっただけだ。一緒に踊ろうなんて言ったつもりは毛頭ないのだが。
「まさか、冗談だったとは言うまいな」
リアの右手が剣に添えられている。これはヤバいやつだ。
「いやいや、冗談って訳じゃないんだけど、その、俺はただ単にセラが踊っている姿を見たかっただけで、告白の意図なんて無かったし、そう言う意味があるなんて知らなかったんだよ」
「確かにそうか。貴様はこの世界の人間では無かったな」
そう言うとリアは、剣の柄から手をどけた。
「まぁ、私から上手く姫様に言っておく。貴様が姫様の夫になるなんて許せないからな」
そうセリフを残して、リアも厨房から出て行った。
良かったのか良くなかったのか分からないが、一応誤解は解けそうだった。
まだまだ、自分の知らないこの世界の常識があるんだろう。発言には気を付けなければ。
そう反省し、調理道具を片づけた後自室に戻った。
少し間が空いてしまいましたが、13話目更新しました。
南蛮漬けは個人的に酸っぱい方が好きです。特に1日使った人参と玉ねぎは最高です。
では、次話でまた会いましょう。




