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最終話

 たまが青い顔をして私達に話しかけてきたのは、五限の終わりだった。


「やばいやばいやばいやばい」


 いつもはのんびりと話すたまが早口で同じことを繰り返し、動揺を顕にしたまま私達を集めた。


「ちょ、落ち着いて」

「無理だよだってやばいもん!」

「何がどうやばいの?」

「なっちゃんが……!」


 私とかおりでどうにか聞き出すと、要するにこういう話だった。

 昼休み中、話していたとおりたまはなっちゃんに昨日のかくれんぼでのことを聞いたらしい。足音とのタイミングずれの話はせず、単に「『もういいかい?』って何回も言ったよね?」という聞き方だったようだ。そしてそれに対するなっちゃんの返事は「最初の一回だけだよ?」というもの。それに恐ろしくなったたまは授業中にやり取りを繰り返し、そうして恐ろしい話をなっちゃんから聞いたと言うのだ。


「さきを探してる時、『もういいよ』って聞こえなかった? って……」


 私とかおりの顔が一瞬で引き攣る。二人で顔を見合わせれば、お互いに聞いていないのは明らかで。


「やっぱり二人も聞いてない……よね?」


 恐る恐ると言った様子でたまが尋ねる。私とかおりはぶんぶんと首を縦に振って同意を示したが、たまの顔はどんどん曇る一方だった。


「実はなっちゃん、今あの旧校舎に向かってるの」

「はあ!?」

「どうして!?」


 私とかおりが声を上げれば、たまが眉間に皺を寄せる。


「よく分からないんだけど、『答えちゃった』って慌てて……」

「どういうこと?」

「聞いたけど教えてくれなかった。その後すぐに『旧校舎に行く』ってだけメッセで来て……」


 たまの様子だと、なっちゃんが旧校舎に行った理由は本当に知らないのだろう。これ以上はたまに聞いても仕方がない。かおりも同じことを思ったのか、たまに理由を尋ねることはしなかった。


「でも、一人であんなところ危ないよ!」

「そうだよ、どこかに閉じ込められでもしたら……!」


 私達の言葉に、たまがうんと頷く。


「だから、今から行こう。なっちゃんが何しに行ったか分からないけど、私達がお昼に話してたことがきっかけなら私達も行くべきだよ!」


 そこからは早かった。私達は急いで荷物をまとめると、どよめくクラスメイト達に早退だと叫んで、なっちゃんの元へと向かった。


 § § §


 「――なっちゃん!」


 旧校舎に入るなり、私は大声を張り上げた。怖いけれど、昨日のような怖さではない。なっちゃんに何かあるのではないか――そんな具体的な恐怖が、私にこの場所の薄気味悪さを忘れさせた。


「手分けして探そう!」


 かおりの呼びかけに、私達は頷く。私とかおりは昨日かくれんぼをした方を、たまとさきは昨日は行かなかった廊下の反対側をそれぞれ探すことになり、なっちゃんを呼びながら廊下を走った。


「なっちゃん!」


 昨日よりも早い時間に来たからか、校舎の中は随分と明るく感じる。それなのに、なっちゃんの姿は見つけられない。彼女が何を目的として来たか分からないから、何処を探していいのかもわからない。

 私はどこを探したか記録するためにスマホを取り出して、どうせならみんなに伝わる方がいいと思ってグループチャットを開いた。そこには昨日の「降参!」というなっちゃんのメッセージが表示されていて、それを見たら余計になっちゃんに会いたくなって胸がきゅっとなった。「勝者、さき!」だなんてくだらないこと書くんじゃなかった。無理矢理かくれんぼに参加させられた仕返しのつもりだったけど、こんなのがなっちゃんとの最後のやり取りになったら嫌だよ。


 私は落ち込みながらも、どうにか「一番奥の教室、はずれ」とメッセージを書き込む。するとすぐに既読が二件ついて、「階段踊り場、はずれ」、「女子トイレ、はずれ」と意図を読み取ってくれた二人からメッセージが届く。さきはまだ見ていないのかな。昨日のメッセージよりも一つ減った既読件数が無性に寂しい。

 それでも私は自分を叱咤して、次の教室に乗り込む。ここは床が朽ちていて昨日は入らなかった教室だけど、今は探さない理由にならない。それは事前にかおり達とも話し合い済み。


「なっちゃん!」


 何度目になるか分からない呼びかけ。私は足場に気をつけながら、乱雑に置かれた机をどけていく。すると机の下から横に倒れた掃除ロッカーのようなものが出てきて、まさかなっちゃんはここに閉じ込められたんじゃないかと慌てて駆け寄った。


「なっちゃん……!?」


 立て付けの悪くなった扉は何かに引っかかったかのように、中々開かない。それでも力を込め続けると、ガコンという大きな音と共に扉が勢いよく開いた。


「なっちゃ――……え?」


 そこに、なっちゃんはいなかった。けれど視界には、見慣れた制服が映っていて。


「……さき?」


 血の気の失せたような顔をしたさきが、ロッカーの中で横たわっていた。


 待って、おかしい。だってさきはこっちに来ていない。私は昇降口から反対側に向かうさきを見ている。

 有り得ない光景にいっそ見間違いを疑ったけれど、窓から入る光に照らされた顔は紛れもなくさきのもの。恐る恐る触れた肌は冷たくて、弾力がなくて。

 生きていると、感じられなくて。


「もしかして……ずっと、ここに……?」


 さきがこんな場所入るはずがない。けれど現実にここにいて。一体いつからと思いながら、浮かんだ答えを否定するためにスマホを取り出した。

 そこにあったのは、「既読三件」の文字。メッセージは、昨日のもの。


「さき……昨日から、メッセージ見てない……?」


 もしかしてなっちゃんはこれに気付いたんじゃないか。昨日の私とほぼ同じタイミングで送ったなっちゃんのメッセージにも、これと同じことが起こっていたなら。


 誰か一人欠けていると、気付いたんじゃないか。


「なら……あのさきは誰……?」


 脳裏を過ぎった影を追おうとした時、背中に嫌な気配を感じた。そして――。


「もういいかい?」


 聞き覚えのある声が、また――。

「答」えてはいけない

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