堕ちた勇者は間違いを犯す
※暴力的な描写があります。
「おいおい……冗談だろ?」
盗賊団から奪ってきた宝箱の中には全裸の少女が入っていた。
死んではいない。息をしている。
褐色の肌を持つ少女は身体を折りたたむようにして詰め込まれていた。
恐らくは……相当長い時間。
窮屈過ぎる場所に詰め込まれていたであろう少女はそれでもなお、すぅすぅと心地よさそうに寝息を立てていた。
ひょっとしたら先程俺が力づくで解いた魔法で保護されていたのかもしれない。
生命活動維持か固有時間停止か――――本職魔法使いでない俺にはよくわからない。
少女はかなり……いや、他に類を見ないほど整った造形の顔立ちをしていた。
無理な姿勢のまま一向に目覚める気配はない。
「おい、起きろ。おい」
いまいち状況をよく理解出来ないが、俺は取り敢えず宝箱に詰め込まれた少女を苦労して引っ張り出した。
少女の両脇に手を差入れひょいと持ち上げる。
軽い……。
簡単に持ち上げられるほど軽い少女は手荒く扱えば折れてしまいそうなほど華奢だった。
ほとんど膨らみのない乳房とろくにくびれていない腰つき。浮き出たあばら。
身長も俺の胸の高さより低いくらいしかないこの少女はたして年の頃は、と……考えている所で俺は気付いた。
「まさか……ダークエルフ、か?」
ファンタジー作品で度々見掛けるエルフの代名詞である長く尖った耳。
繊細で白く透き通る美しい肌を持つとされる一般的なエルフと正反対、野性的で強い生命力を感じさせる褐色の肌を持つとされるダークエルフ。
この少女は、それらの要素を備えていた。
俺がこの世界に勇者として召喚される前に暮らしていた日本と違い、こちら側にはエルフが実在する。
しかし、エルフが当然のものとして存在するこの世界においても、ダークエルフは半ば架空の存在として語られるほどの伝説的な存在だ。
そして、そのダークエルフたちが持つ力は暗黒を支配するヴァンパイア達よりも、強大な力の象徴と恐れられるドラゴン達よりも。
人々を虐げ暴虐の限りを尽くすとされる魔王、更にはその魔王を倒すために異世界から召喚された勇者よりも。
遥かに、遥かに強い魔力を持っていたと語られるダークエルフ。
その比類なき魔力を狙われ、人に、魔物に、欲望の為に狩りつくされたとされる幻の種族。
今や親から子どもに語り継がれるお伽噺に語られるのみとなったダークエルフ。
そんなダークエルフの少女とあっては、さらわれて売り飛ばされるのもある種自然の摂理というものなのかもしれない。
「ん…………」
などと考えているうちに少女が俺の手の中で目を覚ましたようだ。
両脇の下に両手を差し入れる形で持ち上げられている少女は寝呆けた瞳ですぐに真正面の俺に気付いた。
少女の瞳は日本でもヴァイスバーチュでも一度も見たことのない煌めく金色をしていた。
少女は暫くきょろきょろと金色の瞳を動かして裸の自分自身と、周囲をひとしきり確認して、ゆっくりこちらに向き直った。
「――おはよう」
「あ、あぁ? ……おはよう」
少女は場違いに律儀な挨拶をしてきた。
流石に裸を見せることに羞恥心を抱かないほど幼いとは思えないが、寝惚けているのだろうか。
「わたしの名前は『フェウー』。あなたの名前を教えてもらえるかしら?」
「お、おう。俺は……『ユータ』だ」
「そう、ユータね。よろしくねユータ」
「よ、よろしく」
どうやら寝惚けていたわけでもなさそうだ。
フェウーと名乗った少女は不思議な緊張感を持っていた。
見た目1X歳に満たないような少女に聞かれるがままに答えてしまった。
といっても、人間より遥かに寿命の長いエルフ――――その中でも特に長命と聞くダークエルフだ。
このフェウーと名乗った少女が俺より年上であるという可能性もないではない。
なら、裸を見られても一切動揺しないのは何故だ?
この場合答えは、本当に羞恥心を一切持っていないか、あるいは羞恥心は持っているがそれを隠しているかのどちらかしかない。
恐らくは後者だが……年齢から何まで得体の知れないダークエルフが何を考えているかを予想するのは困難極まる。
俺は主導権を握るためにこちらから話しかけた。
「フェウーって言ったよな? お前はダークエルフなのか?」
「そんなことよりまずは私を下ろしてくれるかしら? これは女性の起こし方としてあまり褒められた方法じゃないわね」
「あ? あぁ」
言われるままに俺はフェウーを床に降ろした。
真っ直ぐ立ってみると俺とフェウーの身長差はまさに大人と子どもだ。
それでもフェウーは対等か、目下の人間を見るような目で俺を見上げている。
「それと服、まずなんでもいいから着るものをちょうだい。昨夜の私はどうして裸で寝てしまったのかしら?」
少女は俺の質問を無視して自分の要求を宣言してきた。
要求自体は至極当たり前の要求なのだが、どうにも態度が気に喰わない。
幼い(少なくとも外見は)少女が俺というそこそこいい歳の大人に対するにはあまりにも不遜。
何故そんなことにも気が付かないのだと言わんばかりだ。
ともすれば、俺に対する命令ともとれるその断定的な口調はまるでわがままな女王様のようだ。
いや、まだ子どもだから王女様か。
俺は質問を無視されたことよりも少女の態度に腹を立てた。
奴隷の少女に対する俺のなけなしの良心が怒りに塗りつぶされていくのを感じる。
「駄目だ。先に俺の質問に答えろ」
「あら。どうして?」
少女はとぼけた風に聞き返してきた。俺はぎりっと奥歯を噛んだ。
「どうしてだと? お前は自分の立場がわかっているのか」
苛立ちを隠すこと無く低い声で少女に問いかけた。
次に舐めた態度をしたらひどい目に遭わせると、言外に脅しをかけながら。
しかし少女はどこ吹く風で。
「そうね、あなたがどうしてもと言うのなら、まずはあなたの話から聞いてあげてもいいわよ?」
などと優雅に髪を掻き上げながら答えた。
それを聞き、俺は無言で少女をベッドに向けて放り投げた。
相当な体格差がある俺にまるでバスタオルを放るかのように思い切り投げ飛ばされた少女は背中からベッドに叩きつけられ。
その拍子にベッドの角で頭をぶつけたらしく「ごづん」と鈍い音がした。
「いっ……!」
フェウーという名の少女はうめき声をあげ、頭を押さえてベットの上でうずくまって大人しくなった。
つかつかと近づきながら冷徹に声を掛ける。
「少しは自分の立場がわかったか?」
フェウーは見下ろす俺をキッと睨み返しながら。
「~~っ! ……あなたがレディーを粗末に扱う最低の人間だってことはよくわかったわ。この下衆!」
痛みに耐えながらも、あくまで上から目線でフェウーはそう吐き捨てた。
俺は怒りに身を任せて無辜の少女を暴行しようとしている自分をどこか他人事のように感じていた。
「そうだ。だからな、そんな男にそういう態度を取るとどうなるかわかるだろう」
俺は自分の頭を抑える少女の手首をベッドに押さえつけ、細枝のような少女の首に無骨な自分の指を回した。
殺さない程度に、ゆっくりと少女の首にかけた指に力を込める。
ぎちり……
「う゛っ! あ゛うっ……!」
苦痛に綺麗な顔を歪める少女の額からは僅かに血が流れていた。先程ベッドに叩きつけられた時のものだろう。
首を絞められてなお、少女は反抗的な目で馬乗りになった俺を睨み返してきた。
相手のことを決して許さない、絶対に屈しないという誇り高い眼差しだ。
俺は自分の中で、絶望的な状況でも決して屈しない少女の気高さに対する後ろめたさと、そんな少女の精神を踏みにじりたいという嗜虐心が芽生えるのを感じた。
「安い文句で悪いが……お前が素直になるよう、身体に教え込んでやる」
俺は片手で少女の首をベッドに押さえつけながら自分の服を脱ぎだした。
俺自身、自分に少女趣味はないと思っていたが、健気な少女を陵辱する加虐心によって俺はいきり立っていた。
「下衆め――っ!」
少女はこれから自分が何をされるのかをわかったのか、俺の腕を叩いたり引っ掻いたり、少女なりに最大限の抵抗をした。
もっともそんな抵抗は俺と少女の体格差の前では全くの無意味だった――――。
――――事が終わって。俺は自己嫌悪に陥った。
俗に言う賢者時間というものではなく、純粋に自分の行いに後悔していた。
年端もいかない少女を暴行してしまったことに多少の罪悪感を覚えてしまうこともあるにはあるが。
それよりも重大な問題として、少女の価値についてだ。
盗賊どもの取引に出される予定だったブツはこのダークエルフの少女だったのだ。
売り飛ばされれば、伝説級の出物であるダークエルフの少女は破格の値段で取引されるであろう。
つまりそのブツ――――この少女を俺は、その少女をどうにかして売り飛ばして現金に換えなければならないわけだ。
だというのに、俺はその商品であるところのフェウーをあろうことか乱暴してしまい、彼女は見るも無惨な状態になってしまった。
少女はボロボロになってベッドの上でか細い呼吸を繰り返している。
まず、ベッドに叩きつけた時の頭の怪我で大きく値が下がるだろう。
そしてそれよりも何よりも少女の処女を奪ってしまったのは大失態だ。価格は大暴落だろう。
かなり無理をさせてしまったことから、今後ひょっとしたらこの少女は子どもを産めない身体になってしまう可能性すらある。
腐っても鯛という諺にあるように、これらの条件があってもダークエルフの少女はそれなりの価格で売れるだろう。
しかし自業自得で大きな損をしたことに変わりはない。
「やっちまったな……」
俺は裸のままベッド脇に置いてあったエールをがぶ飲みした。
ちらりと時計を見るとちょうど0時を回るところだった。
「そうか、盗賊を襲撃してそれからこれだから。こんな時間にもなる――――」
俺は今日1日の流れを思い返しながらベッドの上で気絶している少女に視線を移した。
すると、そこには淡い光を全身から放つ少女がいた。
「なにっ!?」
ガタッと立ち上がり少女と距離を取る。
人間より魔力の強いエルフ、しかもダークエルフだ。何かしら魔法を発動させた可能性がある。
俺は場馴れした身体が覚えている動きに任せて銃を拾い、構え、戦闘態勢に素早く切り替えた。
注意深く少女の様子を窺うと、どうやら光り輝く魔法の正体は回復魔法のようだった。
みるみるうちに少女の額にあった傷、傷ついていた下半身が治っていく。
全てがなかったことのように戻っていく強力な治癒魔法はしかし、少女が唱えている様子はない。
どう見ても少女は気絶――眠っているように見える。
ということは、この魔法は少女の意志で発動しているわけではない?
ならばこの魔法は魔法というより祝福や呪いの類だろうか。発動条件は……ひょっとして時間か?
見ると時計がちょうど0時を指していた。
光が収まり、後には汚れたベッドの上ですうすうと静かに寝息を吐くフェウーという名の少女が残った。
俺はその様子を見て、金銭的・打算的な安堵とは別に、久しく忘れていたようなどこか懐かしい……そんな感情を覚えた気がした。
その感情の名前は思い出せないが、何かこのクソッタレな生活では久しく感じたことのない感情だ。
こうして俺は――――
この『0時になると怪我や病気が全てリセットされるダークエルフの少女』と、短い間ではあるが。
ひとつ屋根の下で生活することになるのだった。
こいつを売り飛ばしてこのクソッタレな生活とオサラバできるのか、あるいは…………。
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