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応援

(大丈夫かな……)

 汐羅せらは首を傾げながら、筐体きょうたいの前に立つ紀之のりゆきを見た。汐羅の記憶にある限りでは、紀之はクレーンゲームなどやった事がなかったように思う。


 汐羅せらの不安は的中した。紀之の操作するアームは、彼が取ろうとしたと思われる商品とはまるで見当違いの所に降り立ち、そのまま空を掴んで移動し始めたのだ。当然、アームの肘が取り出し口に繋がる穴の上で開いても、落ちてくる物は何もない。


「あー、残念だったね」

 ハンバーガーをかじりながら、汐羅せらは苦笑いした。しかし、紀之は諦めきれない様子で、「もう一回だ」と言った。


 しかし、二回目も先程と結果は変わらなかった。紀之は悔しそうな顔で、透明なガラスの板越しにある商品を睨んでいる。ハンバーガーを食べ終わった汐羅せらは、オレンジジュースを片手に紀之の隣に移動して、「もう良いって」と彼を慰めた。


「別にそんなに欲しくなかったし。ほら、コーラがぬるくなっちゃうよ?」

「……いや。このままじゃ俺の気が済まない」

 紀之は眉をひそめながら言った。何が彼の心に火をつけてしまったのかは分からないが、気が付いた時には、紀之は財布を開けて、筐体の中にお金を入れていた。


「こんな事じゃ俺は諦めないぞ……」

 執念深く呟くと、紀之は再びレバーに手を掛けた。どうやら、かなりやる気になっているらしい。止めても無駄だと悟った汐羅せらは、仕方なしに紀之の様子を見守る事にした。


 ガタガタと左右に揺れながらアームが移動する。ゆっくりと商品を目指しながら下降していく。最初はまるで見当違いな方向に降ろされていたのが、何回か繰り返す内に段々狙った物に正確に届くようになり、商品に掠り、ついには持ち上がるようになった。


「がんばれー!」


 長い間クレーンゲームを占領している紀之の周りに、いつの間にか『ジョイフルモール』に遊びに来ていた小学校低学年くらいの子どもたちが、観客のように集まり始めていた。彼らは紀之の操作するアームが動く度に声援を送り、商品を掴む事が出来れば黄色い声を上げ、落下すれば残念そうな声を出した。


 観客の声に励まされるように、紀之はレバーを操作する。アームが動いて商品が持ち上がり、惜しい所で落下する。そんな事が十回以上続いた、その時だ。

 

 今回紀之が操るアームは、いつもよりもしっかりと商品を掴んでいるように見えた。応援団からもどよめきが走る。汐羅せらも、いつの間にかオレンジジュースを飲むのを忘れ、声を張り上げていた。


「紀之! 頑張って!」


 汐羅せらの声が紀之に力を与えた……訳ではないだろう。何せ、汐羅が声を上げた時にはアームの肘はしっかりと商品を掴んでいたのだから。だが、汐羅の声援を聞いた紀之の横顔は、嬉しそうに笑っていた気がした。


 ガタン


 クレーンゲームの筐体の取り出し口から、待ち望んだ音が聞こえた。茶色い包みを手にした紀之は、躊躇う事なく、それを汐羅せらに渡してきた。


「ありがとう、紀之」

 紀之が使ってしまった金額を考えると申し訳ないような気になってくるが、自慢げな顔をする彼の前でそんな事を言うのは、野暮というものだろう。汐羅せらは応援団からの拍手に包まれながら、紀之から差し出されたプレゼントをにっこり笑って受け取った。

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