変化
一輝の様子がおかしくなり始めたのは、それから一月も経たない内の事だった。
元々奥手だった一輝は、堂々とした態度を取る事の方が少なかったが、汐羅の前では比較的伸び伸びと振る舞ってくれていたように思う。それが、急によそよそしいというか、決まりが悪そうな顔をするようになったのだ。放課後も一緒に帰る回数が減り、会話も以前よりずっと少なくなっていた。
だが汐羅は、「もうすぐテストだから、ピリピリしているのかも」と考えて、彼の様子の変化をさほど気に掛けなかった。しかし、テストが終わってからも一輝の態度は変わらなかった。それどころか、余計に居心地が悪そうにするのだ。まるで自分のいるべき場所は汐羅の隣ではないとでも言うかのように、心ここにあらずの状態が増えたのである。
――お前の大親友は、随分お前の彼氏と仲が良いんだな。
流石に、何かあるのかと一輝に問い質すべきだろうかと汐羅が悩み始めた時に、気掛かりな事を言い出したのは、幼馴染の梅川紀之だった。彼は放課後の図書室で、一輝と早苗が話しているところを見たという。その様子があまりにも親密そうに感じられたので、心配になって汐羅に報告する事にしたらしい。
その日の放課後、汐羅は図書室に向かった。今日も一輝は、「委員会の仕事があるから」と言って汐羅と一緒に帰るのを断ったのだが、その時の様子が、どうも変に見えたのだ。紀之の言葉を思い出した汐羅は、まさかとは思いつつも、どうしても気になって、自分の目で何が起こっているのかを確かめる事にしたのである。
ただ、その時は半信半疑だった。一輝が汐羅に嘘をついて早苗と会っているなんて、想像し難かったのだ。
だが、書架の影からこっそりと学習スペースの方を伺った汐羅は、衝撃のあまりしばらく立ち尽くしてしまった。
一輝と早苗がそこにいた。だが汐羅が動揺したのは、紀之の言ったとおりに、二人がこっそりと会っていたという事が分かったからではなかった。
一輝が……あの奥手な一輝が、照れたような笑みを浮かべつつも、心の底から楽しそうに早苗と話しているではないか。そして早苗もまた、媚びを含んだ上目遣いで彼の方を見ている。よく手入れされた爪にうっすらとネイルを施してある早苗の白い手は、机の上にある一輝の指先に思わせぶりに添えられていた。二人が向かっている机にはノートが広げられていたが、まるでたった今買ったばかりの新品のように、インクの染み一つ見当たらなかった。
二人は明らかに勉強を教えてもらう先生と生徒どころか、友人の関係でさえないように見えた。二人を知らない人がこの光景を見たら、仲の良い恋人同士だと勘違いするであろう事は明白だ。