迎えたエンド
(良かった……)
画面の中で抱擁し合う二人を見つめながら、汐羅はこれまでずっと張り詰めていたものが解けていくのを感じていた。
美しいムービーで彩られたエンディングは、クラリスが自らの意志で導いたものだった。自分の心が動くままに愛を告白し、指輪を差し出した。そうして二人は永遠に結ばれる事が約束されたのだ。
画面がゆっくりと暗転していく。感傷に浸っていると、背景が暗い路地裏のような場所に切り替わり、そこに渋面のネロの立ち絵が表示された。
『おいおい、先生。大失敗じゃねぇか』
相変わらず『先生』という言葉に皮肉をまとわせながら、ネロが困ったものだという声を出した。
『旦那様はお怒りだぜ。もうお前なんかに用はないってさ』
どうやらネロもどこかで、『伝説の日』のクラリスとヘンドリックの様子を見ていたらしい。そしてその時の様子を、『セーラ先生』の本来の主人であるイーヴォル氏に報告した結果、『セーラ先生』は彼の不興を買う事になってしまったようだ。
それも当然だろう。イーヴォル氏は、クラリスとヘンドリックの婚約破棄を目的として、『セーラ先生』を派遣したのだ。だというのに、かえって二人の仲を深めるような事をしてしまった『セーラ先生』の行為が、イーヴォル氏の逆鱗に触れないはずはなかった。
『あんたはお役御免だ。旦那様から言付かってきたんだがよ、二度と目の前に現れてくれるなとさ。残念だったが、これまでのようだな』
続いて画面が真っ暗になり、赤文字で『GAME OVER』と浮かび上がってくる。何ともおどろおどろしいその文字が消えた後に、スタッフロールが流れ始め、クラリスだけでなく、『セーラ先生』の物語も終わりを告げた。
だが汐羅は気にしなかった。ゲーム的にはバッドエンドでも、これは自分にとっては最高のトゥルーエンドなのだ。クラリスとヘンドリックを破局に導こうとしている人物の目から見ても、二人の仲を引き裂けないと判断せざるを得ないほどに、彼女たちの結びつきは強い事が証明されたのだから、これ以上の素晴らしいラストはなかった。
スタッフロールを最後まで見守った後、汐羅はゲーム機の電源を落とした。窓からは朝日が差し込んでいる。
汐羅はゆっくりとした動作で立ち上がると、軽く伸びをした。そして、ほとんど睡眠をとっていないとは思えないほど清々しい気分で、学校へ行くための支度をしたのだった。




