表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢育成計画~ゲームのヒロインが嫌いな子に似ていたので、婚約破棄を目指す事にした~  作者: 三羽高明@『廃城』電子書籍化


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

37/45

地に在りては願はくは

「クラリス」

 声を掛けられて、夢から覚めたような動作でクラリスは振り向いた。一瞬ランタンを掲げた幼い少年の姿が見えた気がしたのは、赤い双星が見せた幻だったのだろうか。そこに立っていたのは、その少年が十年分だけ成長した青年だった。


 星明りとランタンの光が、二人の影を暗い草原に浮かび上がらせる。姿形以外は、十年前と何も変わらない。二人が今日持ってきた物も、お互いの心の奥底にしまってある記憶も想いも、何もかもだ。


 二人はしばらく見つめ合った。それだけでも充分だった。しかし、この『結婚式』を挙げるには、それだけではいけないのだと分かっている。ヘンドリックの口が何か言いたそうに動いた。だが、クラリスの方が早かった。


「愛しているわ、ヘンドリックさん」


 クラリスは華奢な手のひらをそっと広げた。そこには、玩具のように小さい指輪がちょこんと乗っていた。だが、そこに込められた想いは、他のどんなに贅をつくした指輪よりも大きなものだと、クラリスもヘンドリックも知っていた。


「受け取ってちょうだい。私の夫になってほしいの」

 クラリスの言葉は夜風に乗って、ヘンドリックの耳朶を震わせた。彼の唇からあえかな吐息が漏れ出る。


「……先を越されてしまったね」

 

 ヘンドリックは柔らかな下草を踏みしめて、ゆっくりとクラリスの方に近づいてきた。ランタンを地面に置くと、白い上着の懐に手を入れて、彼も幼い頃に作った指輪を取り出した。


 全てはこの日のためだった。二人は十年前の約束を叶えたのだ。クラリスとヘンドリックは指輪を交換した。小さな指輪は、もうお互いの指に入らなくなっていたけれど、相手の手のひらの上に乗せられたそれは、十年越しに自らの役目を果たしたとでも言いたげに、誇らしく輝いていた。


「僕も、愛しているよ」


 ヘンドリックが指輪を持つ方の手を、クラリスに差し出してきた。クラリスも指輪を乗せた手をそこに重ねる。二人の手のひらの中で、指輪の赤いビーズが折り重なるようにして合わさった。

 ヘンドリックはクラリスをそっと引き寄せた。彼の腕の中でクラリスが囁く。


「私、これからも我儘な事を言って、ヘンドリックさんを困らせる事があるかもしれないわ。それでも……ずっと一緒にいてくれる?」

「もちろんだよ」


 赤い二つの星の光が射注ぐ中、二人はいつまでも身を寄せ合っていた。耀かがよう星影が映し出すその姿は、まるで天上の双星が、そのまま地上に降りてきたかのようだ。だがその光は、朝が来ても失われる事はないだろう。十年に一度だけではない。これからも二つの輝きは寄り添ったまま、決して消え去る事はないのだから。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 小説の描写は(プレイしたせらちゃん本人が望んでるし)ハッピーエンドやったねで穏やかだけど、プレーヤーの立場だとバッドエンド セーラ先生は一体どうなるのか!? [一言] 好感度上げ、ちゃ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ