星見の丘で
夜風が金色の髪を揺らす。純白のドレスの裾が、花びらのようにふんわりと広がった。その日の夜、クラリス・フォン・マクレインは、星見の丘と呼ばれる場所に来ていた。夜の天蓋が降ろされた空には、宝石のように煌めく星々が散りばめられている。その中に、一際目立つ光があった。
『赤い双星』と人々はそれに名前を付けていた。二つで一つの星と考えられているのだ。クラリスはその深紅の輝きを瞳に映しながら、十年前の事を考えていた。
――クラリス、出来たよ!
十年前、昼の星見の丘で、白い服を着た少年と少女があるものを作っていた。その少女はクラリスで、少年の名前はヘンドリックといった。
二人は幼馴染だった。そして、将来は夫婦になる事が決まっていた。お互いの家同士が決めた事だ。
だが、それにクラリスもヘンドリックも不満はなかった。むしろ、早くその時が来ればいいとすら思っていた。二人とも、お互いの事が大好きだったのだ。
二人の唯一の不満と言えば、今自分たちに結ばれている『婚約関係』というものが目に見えないという事くらいだった。どうすれば、この大好きな相手が将来自分の家族になると証明できるだろう? 幼い二人は頭を悩ませ、ある結論に至った。
自分たちで結婚式を挙げよう、と言い出したのはヘンドリックだったが、クラリスも全く異存はなかった。結婚式には指輪が必要だ。二人は家から裁縫に使うビーズや糸を持ち寄って、お手製の指輪を作る事にした。
――クラリスはどう?
一足先に指輪を作り終えたヘンドリックが、嬉々としてクラリスの手の中を覗き込んだ。クラリスは慌てて背中に自分の作品を隠す。
――わ、私はまだ……。
――クラリス、嘘ついちゃだめだよ。ほら、見せて。
しかし、一歩遅かったらしく、ヘンドリックはクラリスが指輪を隠そうとするところを目撃してしまったらしい。仕方なしに、クラリスはそれをヘンドリックに見せた。
――わあ……。素敵だね。
ヘンドリックは目を輝かせた。しかし、クラリスは申し訳なくなる。
――下手でごめんね。
クラリスが作ったものは輪っかの形をしてはいるが、どことなく歪で不格好だった。それに対してヘンドリックの作品は美しい円を模っており、ビーズの配色のセンスも良い。糸があちこちから飛び出して、つけるとチクチクしそうなクラリスの指輪とは大違いだった。
――そんな事ないよ。綺麗だよ。
だが、作り直そうとするクラリスをヘンドリックは制した。
――特にその赤い大きなビーズ。僕が、赤色が好きだからつけてくれたんでしょう?
――うん。
気が付いてもらえて、クラリスは少し嬉しくなった。
――それにね、この星見の丘の伝説ともぴったりだと思って。
――確かにそうだね。
ヘンドリックがにっこり笑った。
十年に一度訪れる、赤い双星が天頂で輝く日に星見の丘で愛を誓い合うと、その二人は永遠に結ばれる。幼い二人もその伝説は知っていた。そして、今夜はその『伝説の日』なのだ。だからこの『結婚式』の会場に星見の丘を選んだ。赤い双星が空の一番高い所に来た時に、新郎と新婦のような白い服に身を包んだ二人は、自分たちで作った指輪を交換するつもりだったのだ。




