汐羅の答え
(うーん……これ、違いあるかな……?)
汐羅は、想像力の限りを尽くして頭の中一杯に情景を思い浮かべてみたが、どうしても両者の決定的な差異を見つける事が出来なかった。
やはりこれらの選択肢は、根本的には同じものであるという気がする。ならば、どちらを選んでみても結果は変わらないはずだ。だが、指がコントローラーのボタンを押そうとすると、頭の中で『要注意!』とでも言いたげな警戒のアラームが大音量で鳴り響くのである。
汐羅の指はボタンに乗せられたまま、力を込められずに静止していた。そんな事が何回か続く。汐羅はため息をつくと、一旦コントローラーを手放し、ベッドの上に身を横たえた。
思い返してみれば、この休みはずっとクラリスとヘンドリックの事で頭が一杯だった。食事や入浴などの必要最低限の時しか部屋の外に出ず、仮に出たとしてもすぐに戻って来てゲーム画面と向き合っていた。色々考える事が多すぎて、夜もあまり寝ていない。
そのため、こうしてごろんと寝転んでいると、今までの疲れが溢れてきて、眠ってしまいそうになる。今日は日曜日……いや、すでに月曜日だ。時計の短針は十二時を過ぎて久しかった。後何時間もしない内に、空は白んでくるだろう。当然ながら学校へ行く準備など、汐羅は何もしていなかった。
(だめだ……。何にも思い浮かばない)
頭がぼんやりしてきた汐羅は、机の上に置いてあったノートを掴んでページを広げた。このゲーム、『悪役令嬢育成計画~赤い星の指輪~』の事について書き連ねたノートだ。過去の描写や考察に、何かヒントに繋がるような事があるかもしれないと思ったのである。
――私、小さい頃にヘンドリックさんと約束したんです。十年後にこの指輪を持って星見の丘で会おうって。そこでお互いに作った指輪を交換しようって。私……その時からずっと、ヘンドリックさんの指輪をもらう日が来るのを待っていたんです。
そうそう、あったなこんな事、と汐羅は懐かしく思った。確か初めて作中で『赤い双星の伝説』が出てきた話だったか。そう言えば、同じエピソードにはこんな台詞もあった。
――もうヘンドリックさんは、私に会いに来てくれないでしょうか。
この時ふと、汐羅は引っかかるものを覚えた。『会ってくれない』ではなくて、『会いに来てくれない』なのか。
(まさか……!)
汐羅は雷に打たれたかのような衝撃を覚えた。眠気が一気に吹き飛ぶ。手のひらがじっとりと汗ばんでくるのを感じながら、猛烈な勢いでページを捲り始めた。
――私、先生に色々な事を教えてもらって、とても助かりました。
――という事は、私が先生の教えを乞えるのも、もうすぐでお終いなのでしょうか……。
――まあ、先生もそう思われますか! 実は私も同じ事を考えていました。やっぱり先生は頼りになりますね。
探せば探すほど、汐羅の推論を支持する台詞が目に付く。大体最後の質問からして、『私はこの後……何をすればいいのでしょう?』というものだったのだ。これはもう決定的だろう。
汐羅は、まだ画面上に浮かんでいる選択肢に目を遣った。1番は『彼から差し出された指輪を受け取る』。2番は『彼の愛の言葉に頷く』。
この二つの選択肢は、どちらも正しくない。いや、厳密には○ではなく△の解答と言うべきか。完全な間違いではないが、完璧な正解とは少し外れた答えなのである。だから汐羅は、無意識の内にそれらを選ぶのを躊躇ってしまったのだ。汐羅には分かったからだ。汐羅なら、その二つの他に存在する最良の解に気が付いて、尚且つそれを選ぶ事ができるという事を。
汐羅は視線をゆっくりと移動させた。先程、あっさりと切り捨ててしまった選択肢に目を遣る。
答えは3番の『 どうすればいいのかなんて、自分で考えなさい。 』だ。




