表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/45

愚行

――そう言えば汐羅せらって、三組の長谷一輝はせかずきくんと付き合ってるのよね。


 汐羅せら早苗さなえと友人になってから、一か月ほど経ったある日の事だった。昼休みに二人が机を並べて一緒に弁当を広げていると、何気ない口調で早苗がそう切り出してきた。


――いつからなの?

――一年生の時だよ。十月二十日から。

 少し照れつつも、汐羅せらは意気揚々と答えた。


 汐羅せらにとって、一輝は初めての恋人だ。それと同時に、自慢の恋人でもあった。優しくて、いつも汐羅の意見を尊重してくれる。一輝が我儘を言ってきて困った経験など、汐羅は一度もなかった。


 それに、一輝は女子たちの間では密かな人気を誇っていた。顔立ちが整っているだけでなく、少し内気な性格が可愛いと、もっぱらの評判なのである。そして、そんな一輝に魅せられた子たちが「でも長谷くん、彼女いるしね」と嘆く度に、汐羅はちょっとした優越感を覚えるのだった。


――汐羅せらってすごいわよね。二組の梅川うめかわくんとも仲良いんでしょ? 周りにいるの、カッコいい男の子ばっかりじゃない。


 早苗の言う「梅川くん」とは、汐羅せらの幼馴染の梅川紀之のりゆきの事だった。早苗と友だち付き合いをするようになってから気が付いたのだが、どうも彼女は少々ミーハーなところがあるようだ。


――ねぇ、今度二人とも紹介してくれないかしら?

――二人とも? うーん、でも紀之は……。

 汐羅せらは少し言い淀んだ。早苗のこの申し出を、紀之は快諾しないであろう事が分かっていたからだ。だが、そんな事を正直に話せば、早苗は不快な思いをするに違いない。


――じゃあ、長谷くんの方だけで良いわ。

 汐羅せらが困っていると、早苗は肩を竦めた。


――ファンの子たちに、「あたし、長谷くんと話した事あるのよ」って自慢したいからさ。ねぇ、良いでしょ?

 自尊心をくすぐるような巧みな言葉に、あっさりと汐羅せらは乗せられた。「もう仕方ないな」と口では言いつつも、内心ではまんざらでもない気分で了承して、その日の内に一輝を早苗に引き合わせてしまったのだ。


『長谷くん、やっぱりカッコいいわね』


 その日の夜、早苗と携帯でメッセージのやり取りをしている時に、ふとした事から昼間の話題になると、彼女がそんな事を言ってきた。


『成績も良いんでしょ? 文系教科なんて、一年生の最後にやった期末テストで、全部十位以内に入ってたもんね』

 その通りだった。汐羅せらはますます得意になって、何故早苗が、わざわざそんな事を記憶していたのかなど、疑問にも思わなかった。この時訝しんでいたら、もしかしたら最悪の事態を未然に防げたかもしれないのに。早苗は、以前からずっと一輝の事を狙っていたのだ。


『あたし、古典苦手だからさ。もし長谷くんに教えてもらえたら、すっごい助かるかも~』


 古典に限らず早苗の成績があまり芳しくない事は、汐羅せらもよく知っていた。親友からのたっての頼みで自慢の恋人を貸してあげる。そんな状況に酔いしれていた汐羅は、まんまと早苗の罠に嵌り、少しの間早苗の勉強を見てあげてほしいと、一輝に頼んでしまったのだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] このやりとり怖すぎる…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ