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奮闘

 家に帰った汐羅せらは急いで私室へ入ると、鞄を放り出して制服も脱がずにゲーム機の電源ボタンを押した。幸いにも一週間前から充電器に繋ぎっぱなしになっていたので、電池切れの心配はしなくて良かった。


 ロードが終わると、クラリスは相変わらずそこで待っていてくれた。いつもと変わらぬ姿で、『御機嫌よう、先生』と挨拶してくる。彼女は生きている人間と違って、一週間放っておかれても文句一つ言わないが、それだけに汐羅せらの胸は細い針をゆっくりと押し込まれたような痛みを覚えた。


「おはよう、クラリス」

 汐羅せらも挨拶を返した。


「大丈夫だよ。私があなたを幸せにしてあげるからね……」

 汐羅せらはそう呟くと、コントローラーを握る手に力を込めた。タイミングのいい事に、明日から週末だ。特に予定も入れていないし、クラリスの面倒を見る時間はたっぷりあった。




 『赤い双星の伝説』の日までは、ゲーム内の日付であと三日を切っていた。ここまでの『セーラ先生』の選択は、評価を行ってくれるネロに言わせれば『素晴らしい』との事である。つまりは、ヘンドリックはクラリスに対して、ほとんど幻滅している状態と言えるだろう。この先は一切油断出来ない。もうそこまで好感度を上げる機会が残されている訳ではないだろうし、わずかなミスが二人を永遠に引き裂いてしまうかもしれないと考えると、薄氷を踏む思いだった。それでも汐羅せらは、クラリスの幸せを願って懸命にもがく事にした。


 これまでの人生で、こんなに熱心にゲームをしたのは恐らくこの時が初めてだっただろう。何か選択肢が出る度に熟考し、考えをまとめるのに一時間以上もかかる事はざらだった。


 また、学校の授業でさえこんな事はしないというくらい細かくメモを取り、どんな些細な事柄であっても見逃さないように細心の注意を払いながらゲームを進めた。


 過去の描写も、会話鑑賞やイベント鑑賞機能を駆使して記載していったので、メモはあっと言う間に一杯になっていく。ただのメモ帳では見にくいし枚数も足りなくなったために、書くものをノートへと切り替えても、それもすぐに真っ黒になる程だった。


 こういう時に、攻略の方法が載ったサイトなどがあれば便利なのだが、残念ながらどれだけ検索をかけても、そういったものは見つからなかった。やはり、自分の頭で考える事に意味があるのだろうという結論に至って、汐羅せらは画面の向こう側にいる他の『先生』の英知を借りるのを早々に諦めた。

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