舞い降りた女神
汐羅が早苗と出会ったのは、五か月前――高校一年生から二年生に進級して、すぐの事だった。話しかけてきたのは、早苗の方からだ。
――相模原さん。次、移動教室でしょ? 一緒に行きましょう?
化学の教科書を抱えながら笑いかけてきた早苗は、汐羅には天から舞い降りてきた女神のように見えた。
というのも、その時の汐羅は、仲の良かった子が皆クラス替えで離れ離れになってしまい、教室の中で一人浮いているような状態だったのだ。二年生ともなれば、すでに仲良しのグループで固まっている子も多くて、そこに割り込んでいく事は躊躇われた。汐羅は楽しげに談笑するクラスメイトたちを見ながら、何となく疎外感を覚える毎日を過ごす事しか出来なかったのである。
だから、そんな自分に話しかけてきた早苗の誘いに、汐羅は一も二もなく頷いたのだ。今考えてみれば、本当に愚かだったと思う。彼女は間違いなく、自分の事を利用するつもりで近づいてきたのだから。
最初は「杉村さん」「相模原さん」と呼び合っていた二人が、お互いの名前を呼び捨てにするようになるのに、時間はかからなかった。むしろ早苗は、積極的に汐羅と交友を深めたがっているように感じられた。その理由を、当時の汐羅は深く考える事はなかった。早苗の言った「あたしたち、親友だもの」という言葉を、純粋に信じ切っていたのだ。