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評価

『あの……先生。あれで良かったのでしょうか』

 茶会が終った後、室内へと移動したクラリスが、『セーラ先生』に尋ねてきた。ヘンドリックはすでに帰った後らしい。


『 もちろんです。 』

 汐羅せらは躊躇う事なく、いくつかある選択肢の内の一つを選んだ。クラリスは沈んだ声で『そうですか……』と返した。


 こうして、『セーラ先生』の家庭教師としての一日目が終了した。汐羅せらは大満足だった。ここまでの所要時間は、わずか一時間弱。その短い時間に、クラリスもとい、早苗さなえの悲しそうな顔や苦しそうな顔を何回見られた事か。現実の世界ではこうはいかないだろう。


 ちょっとした復讐心を満たす事が出来て、汐羅せらは大分落ち着いてきた。このゲームをプレイする事を勧めてくれた紀之のりゆきには、感謝しなければならない。彼の言葉がなければ、きっと今頃燃えないゴミの日にソフトを出していただろう。


 だが、まだ足りない。自分の悔しさはこの程度では晴れないのだ。もっと早苗を痛めつけてやらなければ気がすまない。


 汐羅せらは逸る気持ちで、コントローラーを握り直した。最初の話が終了した事に伴い、画面の下に、『次のエピソードへ行く』という文字が表示されている。その横では、『評価』という文字のアイコンが点滅していた。


 汐羅せらはゲームの説明書などをあまり読むタイプではない。だから、この『評価』が何の事なのかはよく分からなかったが、新しい選択肢が出てきて、しかもそれが意味深長に光っていたりなどすれば、選んでみたくなるというのがプレイヤーの性である。汐羅は『評価』のアイコンを押してみた。


 背景が、薄暗いどこかの路地裏のような場所に変わる。そこに一人の男が現れた。狐を思わせるような目つきの、針金のように細い身体つきの男だった。


『よう、先生。よくやってくれているようじゃないか』

 男が話しかけてくる。どうやらクラリスだけでなく、この作品で主人公に関わる者たちは皆、プレイヤーの事を、『先生』と呼ぶらしかった。しかし、親しみが籠っているクラリスの呼びかけとは違い、彼の言い方は少々皮肉を帯びていた。


『 1.誰? 2.……。 3.久しぶり。 』


 画面に選択肢が出てくる。汐羅せらは『 1.誰? 』を選んだ。


『おいおい、俺の事を忘れたのか?』

 男は呆れたように言った。


『あんたは昔から、ちょっと抜けてるとこがあるって聞いてたが、本当だったんだな。まったく、こんなので大丈夫なのかねぇ。俺はネロ。イーヴォル家の旦那様に仕えてる者さ。イーヴォル家の中で、何回か顔を合わせた事があるだろう?』

 

 イーヴォル家は、クラリスの婚約破棄のために、『セーラ先生』を派遣した貴族家だ。どうやらこの男と『セーラ先生』は仲間らしい。


『実はよ、旦那様にあんたの様子を見てくるように頼まれてな。今日一日のあんたの行動を、陰から見させてもらったぜ』

 という事は、ネロは屋敷の中まで入ってきたのだろうか。どうやらこの家は、かなりざるな警備体制しか敷かれていないらしい。


『今日のあんたの行動は最高だったぜ!』

 そんな事を考えていると、ネロが画面の中から嬉しそうな声を飛ばしてきた。


『百点満点だ! この調子で頑張んな!』


 一日の行動の成果は、ネロに話しかける事で分かるというシステムになっているようだ、と汐羅せらは解釈した。そして、今日の『セーラ先生』のしてきた事はネロ曰く、『最高』の出来だったようだ。


(つまり……早苗さなえをどん底に突き落とせる未来が近いっていう訳ね)


 汐羅せらは、路地裏に立つ画面上の同志に負けないほどに口角を吊り上げながら、『次のエピソードへ行く』にカーソルを合わせた。

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