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セーラ先生

 ある王国の二大名門貴族家に、同じ月、同じ日に赤子が生まれた。その名も『クラリス・フォン・マクレイン』と『ヘンドリック・フォン・スターリング』。


 彼らは性別こそ違ったが、この運命的な巡り合わせの元、交遊を育み、いつしかお互いに恋心を抱き始め、やがて相思相愛の仲になった。クラリスとヘンドリックは婚約を結び、両家は二人が夫婦となるその日を心待ちにしていた。


 しかし、それを面白くないと感じた者がいる。同じく名門だが、マクレイン家やスターリング家と比べると、少々格の落ちる貴族家、イーヴォル家の当主だ。


 イーヴォル氏は婚姻によってマクレイン家とスターリング家の結びつきが強まり、両家がますます発展していくであろう事を恐れた。そして、ある決断を下す。


 すなわち、工作をする事によって、二人の婚約を解消させようとしたのだ。そのために、イーヴォル氏はある人物をマクレイン家に派遣した。


 その人物こそが、プレイヤーが操作する事になる主人公だった。上手くマクレイン家に潜入できた主人公は、クラリスの家庭教師となる。本来の主人であるイーヴォル氏のため、主人公はクラリスをヘンドリックに嫌われるような人物に育成していく……。




 要約すると、そんな風なあらすじがオープニングで流れてきた。ご丁寧にナレーション付きで、だ。件のクラリス嬢は今年で十八歳になるらしいが、それまでイーヴォル氏は何をしていたんだとか、婚約破棄を目指して悪女を育成するなんて、いささか迂遠なやり方ではないかとか、色々突っ込みたくなったが、ゲームの進行には特に問題がなさそうなので、汐羅せらは気にしない事にした。


『あなたの容姿を選択してください』

 一番初めに現れたのは、こんな質問だった。画面には男性姿の主人公と、女性姿の主人公が映っている。


 汐羅せらは、性別が選択できるゲームでは、大体自分と同じ方を選んでいた。今回もそれに倣う。汐羅が選んだのは、栗色の髪をお団子にして、ダークグレーのスーツっぽいドレスを着た、知的な顔立ちの女性だった。


『あなたの名前を教えてください』


 五十音表が画面に表示される。これには汐羅せらも少し迷った。いつもはデフォルトネームでプレイするのだが、このゲームの主人公には、そういったものがないらしい。しばらく考えた末に、自分の名前を取って『セーラ』にする事にした。


 いよいよゲームスタートだ。暗転していた画面が明るくなり、豪奢なシャンデリアがぶら下がる室内が映し出された。そこに、一人の女の子が立っている。早苗さなえと似た顔をした少女だ。


『初めまして、先生。私はクラリスです。今日から私の家庭教師になっていただけるんですよね? よろしくお願いします』


 どうやらこのゲーム、フルボイス仕様となっているらしい。可愛らしいが、はっきりとした声でクラリスが自己紹介した。早苗は少し舌足らずな話し方をする。流石にその辺までは似ていなくて安堵した。


『 よろしくお願いします。 』

 いくつかある選択肢の内の一つを、汐羅せらは選んだ。もっとそっけない挨拶もあったのだが、カーソルを合わせるのが面倒だったので、一番目のものにしたのだ。恐らく、どれを選んだとしても、あまり変わらないだろうと思った結果である。


 それに対し、クラリスは嬉しそうな顔をして『はい、先生』と言った。早苗を思わせる顔が微笑むのを見て、汐羅せらは、『 出来の悪そうな子ですね。 』という選択肢の方を選ぶべきだったかと後悔した。

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