悪役令嬢育成計画
その後、家に帰った汐羅は早速プレゼントを開封した。ハードカバーの本くらいの大きさだが、あまり厚みのない包み紙から出てきたのは、ゲームソフトだった。
ゲーム自体なら汐羅もするが、やり込んだり、上位の報酬を狙ったりはせずに、ストーリーやキャラクターの育成をのんびりと楽しみながら遊ぶような、人によっては『ぬるい』と称す事になるであろうタイプのゲーマーだった。
出てきたソフトは、汐羅が持っている据え置き機に対応していた。だが、そのパッケージを一目見た途端に、汐羅は顔をしかめた。
『悪役令嬢育成計画~赤い星の指輪~』
それがゲームのタイトルだった。しかし、汐羅はそんな事よりも、パッケージイラストに目が釘付けになっていた。
(何これ……あいつと……っていうより、あの二人とそっくりじゃない)
パッケージの正面に堂々と描かれているのは、恐らくこのゲームの主人公だろう。高く結い上げた金の髪とピンクのドレスを着た、西洋貴族のお嬢様風の女の子だ。
汐羅が衝撃を受けたのは、汐羅にとって最悪なある人物を彷彿とさせる容姿をその子がしていたからだった。
くっきりとした二重の大きな目と、小さな唇と丸みのある頬。言うまでもなく、杉村早苗である。早苗はいつも自分の本来の顔の上に、新しい顔を作っていると表現するしかないほど完璧なメイクを施して、自らをあどけなく無垢で可愛らしい存在のように見せていた。その『作った顔』の早苗と、この女の子の見た目が、怖いほど瓜二つなのだ。
しかし、それだけではない。彼女の後ろには、女の子の方を見て愛おしそうに微笑む片眼鏡の青年が描かれているのだが、何という偶然だろう。繊細で涼やかな鼻筋や神秘的な光を放つ目元、それに何より彼の柔和な表情に、汐羅は見覚えがあった。一輝だ。早苗ほどそっくりではないが、その顔立ちは自分の元恋人を連想させるには充分なものだった。
(もしかしてこのゲーム、二人の恋を応援するっていうストーリーだったりするの?)
パッケージの雰囲気から勝手にそう解釈して、汐羅は裏側の説明書きの部分を読まずに、ソフトを絨毯の上に放り出した。
自分の恋人を横取りした早苗。何故自分がゲームの中とはいえ、あいつの恋の手助けをしてやらねばならないのだ。しかも、その相手が一輝に似ているとくる。現実の世界だけではなく、ゲームの中でまで二人の幸せな姿を見なければならないなど、一体何の罰だ。まるでゲームソフトにまで、二人が似合いのカップルで、お前がそこに入っていく事は出来ないのだと嘲笑われたかのような気分だった。
苦労してソフトを入手してくれた紀之には悪いが、こんなものはとてもではないがプレイする気が起きない。紀之と過ごした事で発散されたはずの苛立ちが再び込み上げてきて、その夜の汐羅は中々寝付けなかった。




