3.少女の正体
少女の見た目は人形と思えるほど整っていた。月明かりに照らされ、雪のように白い透明感のある肌。目を閉じていることで強調される長い睫毛。筋の通った小さな鼻。赤と桃を混ぜたような潤った小さな唇。そして何よりも、美しい漆黒の髪が目を引く。
日本人形のような幼さを残した顔は、どこか恐怖さえ感じさせる。生きているかも怪しく、息をしていることを確めたほど。
しかし、葉瑠には既視感があった。と同時に今まで忘れていたことを一気に思い出した。
それは、今まで葉瑠自身寝ていたと思い込んでいた空白の時間。
葉瑠は、浅葱の声で起きていた。
瑠璃が銀髪紅眼で戦い、倒れた所も見ていたのだ。問題は、そこからだ。
葉瑠は、流石に看過することが出来ずに瑠璃に駆け寄った。出血量が恐ろしく、殆ど致命傷にも見えたが、とにかく救急車を呼ぼうと携帯電話を取り出した所で、少女が目にも止まらぬ速さで葉瑠に近付き、首筋に痛みを感じた。同時に心地よさと共に意識が無くなったのか、それ以降の記憶は曖昧だ。
しかし、顔は同じであれ、あの時見た銀髪と深紅の瞳はなんなのだろう。今はどちらも吸い込まれそうなほど深い青みがかった黒色である。
この地域では、色素が薄い者が多く、茶髪から金髪までいる。もう少し南の地域まで行けば、黒髪も多いだろうが、ここらでは特に目立つ。
南の地域の出だろうか。
いや、それよりも__と葉瑠は別の事を考え始めた。あの時感じた首筋の痛み。そっと確めるように指を首筋に滑らし、あるところでツキンと痛みが走った。血が固まっていないのか、少しぬめりを感じる。案の定、指先を見れば赤い。
葉瑠はそこで確信する。
彼女は、吸血鬼だ。