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吸血姫  作者: 夜瑠
第二章 夢と異変
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20. 二人の子供と廻る歯車

「ふーん………不思議な関係ね………」

「ええ、無理矢理従わせてる様なことも無く……むしろ彼の方が彼女に付き纏っているように見えました。」

一人の女から二人分の女の声が聞こえる。

何かに向かって、ある少女は話しかけていた。

「もう一つ、彼女は呪い、封印をされていると思われます。」

「…………呪い、封印ね………」

無論、瑠璃のことである。


呪い、封印の類は外部から直ぐに分かるものではない。

状態によって判明するものは多いが、完全に分かるものではない。それは、自身に掛けているのなら尚更だ。


「最後に、家族構成は父親、双子の妹。他、"オンミョウドウ"なる特別な家の様で親戚も多い模様です。」

「オン………ミョウドウ……何かしら……少し、慎重になった方がいいかもしれないわね。それらについてを調べてちょうだい。後、とりあえずその二人の事については無理に調べると何があるか分からないから、一度手を引いて。まずは周辺のことから調べて。また、何かあれば逐一連絡してちょうだい。確実に安全に仕留める為に……よろしくね………あたくしの影。」

「御意に」


「さて…………どこから手をつけますか………」

その少女は、邪気の一切見えない笑顔で呟いた。


少しずつ彼女の周りに複数の不穏な歯車の音が、少しずつ、着実に大きくなり、全てを巻き込みながら廻って行く。


****


浅葱はひたすらに逸る動悸と背筋を流れる冷や汗を抑える事しか出来ない。

今のは何なのだろう。

あそこまで感情を消していただろうか。

あの空虚な瞳で睨まれて、平気でいられるほど、浅葱は瑠璃を━━━


嫌ってはいない。


ただ、受け止められなかった。



感情表現が苦手でもたまに見せる薄らと確かな笑顔が可愛くて。

頭が良くて、運動もできて。

何でも出来るように見えて、たまに見せる不器用さが目を離せなくて。

力も持たず、特技もあまりない自分を上から見るなど無く、ただただ命を賭してでも守ってくれて。

強烈な劣等感を感じて、嫌な態度をとっても、何も言わずに抱き締めて。

偶に見せる表情が、妙に大人びていて。


浅葱を、分かりにくくとも、間違いなく、大切に大切に想ってくれていた。

そんな瑠璃が。


幼少期の吸血のトラウマの元凶だったなど。


誰が、想像したか。


心のどこかで分かっていた。

何か原因があり、きっとまた不器用さが仕事をして、それしか方法がないと自分を守ることを視野に入れずに、行動をしたのだろう。


瑠璃は、必要最低限しか言わない。

言い訳など言わない。

彼女は、浅葱を誰かに傷付けられただけで、自分を責める。

動揺して、何も言わなくなる。

ただ、自責の念に囚われ、壊れそうになる彼女を浅葱が必死に大丈夫だからと説得しないと立ち直らない。


その幼少のトラウマの時も、きっと、責めたのだ。

自分を。

酷く、自分を責めて責めて責め尽くして、嘘をつき続ける事をも、責めて。


分かっていた。

心の奥底では、理解していた。

いつもいつも、たった二人の家族の為だけに、動く。

その事しか考えていない。

大切な人を自分の命に替えてでも助けようと動く。

大切な人が居なくなることに酷く恐怖して。


浅葱は覚えていないけれど、瑠璃は覚えていたらしい。

産まれた時のことも。

母が瑠璃の為に死んだことも。


だからこそ、彼女は、誰とも関わらない。

大切な人を作ることに恐怖している。

人と関わることに臆病で。


誰よりも大人びているのに、子供っぽい。

力を持ちすぎた、子供。

全てを理解してそうで、自分の周りのことを理解していない子供。


そう、瑠璃は子供。


だけど、誰よりも、誰よりも子供なのは、自分。


瑠璃の性格を誰よりも、父親よりも、分かっていた。

なのに、受け入れられなかった。

瑠璃は、大きな力をプレッシャーを小さな背中に全て背負い込む、頼ることを知らない子供。

そんな瑠璃に恐怖した自分はなんて、子供なのだろう。


双子だとしても、姉であるはずの自分は、何をした。

きっと自分よりトラウマになっただろう嘘に、恐怖して、受け入れずに、突っぱねた。



最後の吸血、いや吸血のフリは、嫌われようと、巻き込まないようにとした事。

一人で、誰も巻き込まないように。

家族を誰一人危ない目に合わせないために。

少しでも、守れるように。


瑠璃がいなくなってから、ずっと家には結界が張られている。

近くでずっと守っている。




しかし、今日の屋上で見た瑠璃は、感情を一切感じなかった。


教室では、何もなかった。

浅葱と関わらなくなったことで、どこかしら寂しそうな目をしていたことは分かっていた。


赤黒い文字が刻み込まれている、腕を抑えて、校舎に戻るよう言った彼女は、空虚な瞳をしていた。

何も感じていなさそうな。

ただの人形のような今まで以上に光の見えない瞳。


怖かった。

彼女が、既に消えているように感じて。

どうしても見ていられなかった。

自分から拒否したのに。

もう、見放されたように感じて、恐怖した。

恐怖して、逃げた。

現実から目を背けた。


何度、現実から逃げるのか。

浅葱の良心が何度も何度も耳元で責める。

浅葱の意志とは反対に声は大きくなる。



「しんどそうね。……楽になりたくはないかしら。」


その声は唐突に聞こえた。


「な………に…………」


浅葱はいつの間にか濡れていた、瑠璃との数少ない共通点である真っ黒な瞳を声のした方に向ける。


影がいた。


黒い影がいた。


「夜桜浅葱…………貴女を助けてあげる。苦しみから、救い出してあげるわ………」


誘うような声。

幼い少女のような声でこの口調は、あまりにもちぐはぐに聞こえた。

なのに、いや、だからこそだろう。

頭をその言葉がぐるぐると頭を駆け巡る。


楽になりたい。


少しだけ、浅葱は思ってしまった。


そこに付け込むように、思考が止まる。

侵食されていく。

意識が混濁する。


意識が途切れる寸前。


「る……り………ごめんなさ…………」


その声は誰もいない階段に小さく響いて、消えた。










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