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吸血姫  作者: 夜瑠
第二章 夢と異変
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9.血と涙と髪留め

カチャ……

「ただ………」

誰も居ない静かな空間に声が響いて消えた。

瑠璃は、玄関のドアを開けたものの、今日は浅葱は部活動の為、まだ帰って来ていないことに『ただいま』と言いかけて、口を噤んだ。

今日は瑠璃にしては珍しく、少しばかりどこか抜けているようだ。瑠璃自身もそれに少し驚いた。冷静に帰るまでの動向を考えるとどこかうわの空だった。余程、葉瑠の血が美味しかったということだろう。


自室に入って、ベッドに飛び込む。

瑠璃の顔は少しばかり赤く染まり、唇に残った感触を確かめるように指先でそっとなぞる。

ああ、ダメだ。これではいけない。こんなザマでは、また、守れない。

そう思うのにその指は止まってはくれない。唇の熱も感触の名残も消え去らない。

瑠璃はベッドの枕元にある小さな黒い箱を開けた。中には、赤黒いものが固くこびり付いた、青く透き通った宝石の嵌った髪留め。とても美しいものに赤黒いものがこびり付いている為、どうにも不穏な雰囲気を持つものとなっている。

赤黒い部分にそっと触れ、残り香を感じる。

瑠璃から先程のどこかふわふわした雰囲気が消えた。いつもの人形のような無表情に戻る。

そう、これは戒め。

今度こそ、守らなければ。この髪留めに誓って。

瞳に強い決意の光が灯る。

その髪留めを胸元でギュッと抱き、横向きにベッドに倒れ込む。

そのままいつしか瑠璃は眠っていた。



浅葱は帰ってきた時、瑠璃の靴があることを確認したが、いつもこの時間は自室に籠って勉強しているか、眠っている。起きていたら、晩御飯の準備を手伝ってもらおうと瑠璃の部屋へ向かった。

ノックをした所でいつも勉強していても、寝ていても聞こえていないので、そのままドアを開ける。

そこにあるのは、木製のベッド、クローゼット、机に教科書類、ノートパソコン、スマホ、充電器くらいだ。ぬいぐるみや、化粧品の類いなど女子高生が持つようなものは一切無く、必要最低限のものしか部屋にない。

何か可愛いものでも持てばいいのにと浅葱も思うのだが、要らないと余計なものを持とうとしない。

ベッドの上で瑠璃は横向きですーすーと眠っていた。いつもは、部屋着に着替えているのだが、今日は珍しく制服姿だ。

そこに少し引っ掛かりを覚えて瑠璃の顔を覗き込むと思わず息を飲んだ。

瑠璃の美しい目元には、透明な雫が溜まり、そのまま流れ落ちていた。その様は、とても美しく同性で妹でもある浅葱にとっても見惚れるほど。

瑠璃が泣いている所など、見た事があっただろうか。

浅葱が小さな頃からよく泣いていたのに反して、泣くことなく、むしろその泣いていた浅葱の背中を無言でさすっていた。よく、その優しさにいない母親の代わりに甘えていた。

もしかしたら、幼心に母親が自分のせいだと感じていたのかもしれない。

浅葱と瑠璃の母親ティアは、彼女らを産んだ時に亡くなっている。

あまり浅葱も知らないのだが、ティアは吸血鬼だったらしい。その為に瑠璃が半分吸血鬼のような者なのだが、瑠璃が殆ど例を見ない、ハーフという存在だったからなのだという。

普通、人間と吸血鬼から生まれた子供は人間か吸血鬼のどちらかになる。浅葱は人間として生まれたが、瑠璃はそうではなかった。瑠璃を生むのに体の負担が大きく、その後浅葱はどうにか生まれたものの、その後に亡くなったと父親の雅義から聞いている。


とにかく、瑠璃は成長しても弱さなどを見せることなく、笑うこともなく、ただ毎日学校へ行き、勉強し、ご飯を食べ、時に吸血鬼や悪霊の討伐に行き、そして眠るという生活を繰り返してきた。遊ぶこともせずにただ毎日を浅葱と雅義の為だけに身を捧げて、暮らす。だから強い意志を持っているのか泣く姿など見ない。数回、目が泣いたように赤かったことはあるが、目にゴミが入ったのだと認めることはなかった。

寝ているとはいえ、泣いている姿を見られるとは思いもしなかった。


浅葱は瑠璃が何かを握っていることに気付いた。よく見ると青い海のような宝石だ。金具の形状から髪留めだろう。こんなものを持っていただろうか。知らない。アクセサリー類を瑠璃は浅葱がおしゃれくらいしろと無理矢理押し付けた物しか持っていなかったはず。こんなものをあげた覚えはない。

そっと瑠璃の手からそれを抜き取ると、赤黒いなにかで汚れているのが分かった。なんだろうこれは。どこかで見た。そう、一週間ほど前、瑠璃が血を綺麗にするからと屋上に手伝いに行った時だ。赤買った血は固まり、赤黒くなっていた。その色に似ている。

「これは……血………なの…?」

思わず口に出る。

その声に反応したのか瑠璃が目を開き、飛び起きた。

「…………や…やだ………やめ………ああああああああぁぁぁ!!」

耳をつんさぐ様な瑠璃の悲鳴に浅葱は呆然と立ちすくむことしか出来なかった。



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