Ep.9 領主の館に潜入
「ここが領主の館か...」
ハイファスの街の西門を警備してた王国騎士のお兄さんに領主の館の場所を聞いて
ここまで歩いて来たけど1キロくらい歩いた気がする...
街の中を歩いていたらその都会的な雰囲気に圧倒された。
歩く道には火魔道具のランタンが所々設置されていて、その主要街道には広い街の中で重い荷物を運ぶ為の
≪魔導運搬具≫専用の道路まであった。
俺が住むアルビス村にも水魔導具による給水タンクはあるけど数が半端じゃない。
土煉瓦作りの住居は2階3階建ての家もかなり見かけた。俺の村の住居は基本的に木造の平屋建てだ。
「前にこの街に来た時はここまで凄くなかったんだけどな...」
そして今とんでもなくデカい屋敷の近くにいる。
この土地、メリーヌ領の領主、メルドリッヒ家が住んでいる屋敷だ。
「こんな街にいる領主の息子に喧嘩売って大丈夫か?...」
なんか弱気になってきた。
でも子供の頃から知っているメリル姉ちゃんを助ける為に俺の固有能力『動画編集』を使うと決めたんだ。
まずは固有能力で時間を止めて、領主の屋敷に潜入してメリル姉ちゃんを助けられる手掛かりかが何かないか調べてみよう。
領主の屋敷の周りには高い外壁があるので通行人のフリをして正門から領主の屋敷の様子を伺う。
正門の前を通過しながら屋敷の中を何気なく覗いたら、噴水や古代神の彫刻等、豪華な庭があり正門から屋敷の中にまで潜入するにはかなり距離があった。
なので裏門の方から忍び込む事にした。
領主の館の外壁を半周したら裏門の場所が見えてきた。
裏門の方が警備が厳しい?と不思議に思いつつとにかく固有能力を駆使する。
『≪一時停止≫』
時間の止まった青白い空間が領主の屋敷の方まで広がり屋敷や裏庭や倉庫、厩舎の辺りまで包み込む事ができた。
この固有能力の存在を初めて知った10歳の時はブラウンウルフから逃げる事も出来ない半径30メートルくらいの範囲にしか能力を発揮できなかったけど
優秀な魔法使いの卵である幼馴染のルルと一緒に村の周りの魔物を退治し続けレベルが上昇した事で俺の固有能力も少し進化していた。
今では目の前のデカい領主の屋敷を固有能力による活動範囲内に収める事ができる。
時間を止め、裏門から屋敷に忍び込もうとした瞬間、時間を止めている青白い空間が能力解除の警告である黄色い空間に変わる。
「今忍び込んだらただの不法侵入って事か?」
なにか不正の証拠が無いか調べようと潜入しようとした今の段階では俺の方が悪人扱いらしい。
現領主の不正の証拠なんて本当にあるのか?
領主の屑息子によって馬車でこの屋敷に連れ込まれる筈のメリル姉ちゃんが到着するまで待つしかないようだ。
しばらく待つしかないようなので領主の場所が到着するのを見逃さないようにこのハイファスの街の西門からこの屋敷へのルートからは絶対離れずに少し観光することにした。
屋台で買ったポロ鶏の串焼きも甘辛くて美味かった。
時間がまだかなりありそうなので西門で警備をしている王国騎士のアデルさんにもう一度会う事にする。
「姉さんには会わせてもらえませんでした」
「そうか...」
今日は会えなかったと一応アリバイ作り。これから何が起きるか予想できないし。
騎士のアデルさんは残念そうだった。
「いよいよか...」
時間は過ぎ、夕方になり辺りが暗く始めた頃、ガラガラと黒塗り紋章付きの馬車が領主の館の正門を通過したのを目撃した。
不審に思われない範囲で領主の館を囲む外壁を急いで半周して固有能力を駆使して裏門から屋敷へ潜入する。
「今度は忍び込めた。良かった。それじゃあやるか」
『≪配置変更≫』
――――成人直前の俺は固有能力『動画編集』の新たな活用術を習得していた。