Ep.6 俺がいない時間の世界
初めてのブックマークポイントに続いて5点評価を頂きました。
本当に有難うごまいます。
「...お願いだから俺の股間まで潰さないでくれよ」
ゴブリンに襲われそうになってから、すぐに股間を潰したがるようになってしまった俺の幼馴染にお願いした。
すると黒髪ロングの幼馴染ルルはそっぽを向いてしまった。
「...そんな事したら........できないじゃない」
俺に背中を向けて何やら呟いてるけどよく聞こえない。
「どうした?ルル?...」
こっちを向いたと思ったらすぐ睨まれた。怖いよ。
「と、とにかく領主の屑息子に連れていかれたメリルお姉さんを助けに行くわよ!」
「お前その格好でか?」
優秀な魔法使いの卵であるルルはいつも村娘ファッションに似合わないゴツい赤いガーベラ風の魔石付き魔法の杖をぶら下げている。あと立派な革のブーツ。
この格好で領主の館があるハイファスの街に行ったら田舎者丸出しだ。
「...魔物を倒して手に入れたお金ならあるからフード付きの魔法衣でも買えばいいんでしょ?」
俺の幼馴染は散々魔物を退治して来たので実はちょっとしたお金持ちだ。
「それでも男女二人で行動したら目立つだろ?」
「まさかレック一人で行くの?」
「お前が行ったら本当にその領主の屑息子の股間潰しそうだしな。それじゃ解決しないって分かるだろ」
「...だったら今の領主が何か不正をしてないか一緒に調べるのを手伝うから」
メリル姉ちゃんを助けるなら今の領主を引き釣り降ろさないとやっぱり駄目なんだろうか?
どっちにしろ今から領主の館に連れていかれたメリル姉ちゃんに追いつくには俺の固有能力『動画編集』を使って時間を遡らないと厳しい。
俺が固有能力で一人で時間を遡ると察したのか目の前の黒髪ロングの幼馴染は消え入りそうな声で呟く。
「お願い...一人で行かないで。私を置いて遡らないで...」
俺の固有能力『動画編集』は一定の時間まで遡る事が出来るが仲間のルルまで一緒に時間を遡れるかなんて試した事はない。
でももしルルが俺の能力で時間を遡ったら同じ時間の世界にルルが二人存在する事になるのだからそんな事は出来ないのだろうと想像は出来る。
「二人で一緒に行きたいけどそれは多分無理だな」
「...じゃあ『別の私』に宜しく...」
目の前の黒髪ロングの幼馴染はとても悲しそうにしていた。
幼馴染の様子を見て「時間を遡れば目の前のルルとは永遠にサヨナラ」なんだと初めて気づいた。
ルルにそう言われるまで何の疑問もなくこの固有能力を使い、時間を遡って迷子の子供を助けたり、泥棒を捕まえたり、村が魔物の群れに襲われるのを未然に防いでいた。
時間を遡った俺がいない時間の世界があるなんて気にした事は無かった。
人を助けようとする度に、俺の存在はその時間の世界から消え、普通の農家である父さん母さんに妹のエルレは悲しんでいたのだろうか?
そして俺は固有能力を使う度に両親やエルレが悲しむ、そんな時間の世界を生み出して続けているのだろうか?
難しい事は分からないけど、結局こんな神様染みた固有能力は使わずにただの村人として生きた方がいいのかもしれない。
固有能力を使ったメリル姉ちゃんの救出を諦め掛けたその時、周囲が青白い景色に変わった。
突然、固有能力『動画編集』発動時の時間が止まった空間が現れた。そしてまたあのメッセージが現れる。
――――たしかに君が何度も時間を遡ると、色んな世界が誕生して大変ね?私も困っちゃう。
だから時間を遡っても元の世界に戻れるようにしてあげたわ♪
これで幼馴染ちゃんも悲しまないわ。どんどん人助けしなさい!!――――
都合良すぎません?この固有能力。