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お化けなんていませんYO?  作者: ボボブラ汁


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9/11

誠太狙われてる?

14


 こんな私だが、ホラー映画や怪奇小説は大好きである。


 それは、物語の中で起こるからこそ、リアリティを感じることができるから。


 信じている人は気を悪くしないでほしいのだが、現実で「幽霊が見える」と断言するような話を、例えば会社の同僚やママ友から聞いたら、正直ちょっと引く。


 あれ、このひとヤバいんじゃね? ってね。

(ちなみに、趣味でエロい妄想小説を書いている人とも距離をとる。……誰のことだ?)


 不思議な体験談くらいなら、むしろ大好きなんだけど……そうじゃなくて「完璧に見える」と自信満々に言い切る人が苦手なのだ。


 「昨夜幽霊が出たのよ」「そこに幽霊居るよ」とゴキブリ出現並みに平然と言ったり「あなたのご先祖様はヒゲとモミアゲの繋がったイケメンで、いつも見守ったり見守ってなかったりするねぇ」とか「オーラがピンクだから前世は豚だよね」などと断言するタイプ。


 手相を見られて「旦那さんってジャミラに似てるでしょ?」と言われたって、例え当たっていたとしても信じないんだからね! だってほら、どこから情報が漏れているか分からないし。


 でも、もし子供が関わってきたら、話は別だ。

信じていないことも信じ、縋れるものがあったら藁でもすがるだろう。


 子供の病気が治ると言われたら、百万円の壺だって買っちゃうのかも。


 誠太やマー君に不吉なことが起こったら、冷静ではいられなくなるだろう。



15



 その日、やっと復帰したお兄ちゃんの学校から、電話がかかってきた。


 うちの子、また何かやらかしたか?


 かーちゃんアルアル。学校からの電話は、無言電話や変態電話、または変な金属音がするやつより怖い。


 でも、担任からの連絡はちがった。


「息子さん、今日の朝、車にひかれかけたそうです」

「えぇええっ?」


 きゅぅううっと心臓が縮まる。


「いえね、登校班の班長にも責任はあったと思うのですが、点滅してる青信号の横断歩道を渡ってしまったんです。で、それに続いた同じ班の子が通る時にはもう赤で……」

「けっけっ、けけけ、けつ、ケツ、け、ケガは!?」

「落ち着いてください、お母さん、轢かれかけただけで、轢かれてはいません。ケツも轢かれていません。ただ、普通は曲がってきてる車に気づいたら止まるでしょ? 誠太君、行くか止まるか迷ったみたいで、結果的に車の真ん前で行ったり来たりしちゃったみたいで」


 優柔不断なやつめ。ああ、でもやりそう、あいつ。


「ただ、変なことを言うのでちょっとだけ叱りました」

「え?」

「後ろから押されたって言うんです。それからすぐ下がろうとしたのに、下がるのも、進むのも出来なくなったって。足を掴まれて動けなくなったって言うんです。判断に迷ってそうなったっていうのを認めようとしなくて」


 

 家に帰ってきた息子を問い詰めると、先生に説明した通りのことを、私に言った。


「車来てるの分かってたから、早く行かなきゃって思ったんだ。後ろの班のやつが行けっって押したし……。でも、足が動かなくて、なんか足首握られてるみたいに。痛っ、ほ、ほんとだって。戻ろうと思ったんだけど出来なかったんだ」


 誠太は必死に言い訳を口にする。なるほど、これじゃあ怒られるな。意味がわからない。国語力つけなきゃ。国語の問題で「箱の中には何が入ってましたか?」の質問に「箱」って書くようなやつだもんな。


「押されたって、後ろの子誰よ?」

「俺だった」

「は?」

「今日は、五年生、社会科見学があっていないから、四年生が副班なんだ」

「え? どういうこと?」


 私が首をかしげると、誠太は泣き始めた。


「後ろに誰もいないのに、早く行けよって押されたんだ」


 私は絶句した。うちの子は馬鹿でトロいけれど、頭の回転が鈍いせいか、嘘が上手くない。そして嘘を言っても無駄と分かったのか、嘘をつかなくなった。ましてや、こういうすぐバレる嘘はつかない。


 なんとなく釈然としない、嫌な気持ちのまま、それから三日ほどたったある日、また電話がかかってきた。


「誠太君、階段から落ちました」


 きゅうっと膵臓が縮まる。膵臓がどこにあるか分からないけど。


「けっけっけっけケツがぁああケガはぁあ!?」

「手すりに掴まってお尻を打ったぐらいですみました。ケツだけに」


 先生、冗談を言える気分じゃないんです。


「ちょっとね、誰かに押されたって言っていて、でも誰だか特定できないんです。移動教室の時ですから、走り降りないように生徒たちには注意しているのですが。申し訳ありませんでした」


 先生に謝られても……。私の気はそぞろだった。押されるという単語が気に入らなかった。


 どうしても、押し入れの子供の姿が浮かんでしまう。



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