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提 案

この物語はフィクションであり、登場する人物・団体・ 名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。何が言いたいかと言うと「ママ」は作者ではないYO♪





「肝試し、やりません?」


 私は思いきってそう提案した。初めての子供会の役員会議。一瞬場が静まり返る。


「え? ハロウィンに?」


 会長が代表して私に聞き返してきた。


 毎年ハロウィンは、仮装して町内を練り歩き、参加者の家からお菓子を集めてまわる。最後に自治会館で、集めたお菓子を皆でキャッキャッしながら食べるという、どちらかというと仮装を楽しむイベントである。まあ、普通はそうだ。


 でもそれだけだと、上級生はつまらない。男の子は仮装するのも恥ずかしい年頃になり、お菓子では釣られなくなってきた。昨今の子供たちは、習い事が多くて忙しいのもあり、何年か前から、巷ではハロウィンが異様に盛り上がっているのに対し、この町内では参加者が少なくなっている気がする。


 せっかくだから、楽しんでほしい。何か別の行事をねじ込んで、もっと賑やかにしたい。


「ハロウィンに、肝試し……」


 みんな、くじ引きで当たった役員だ。母子家庭だったり、介護があったり、フルタイム勤務のママもいる。おそらく、余計なことはやりたくない、という気持ちなのではないか。準備で時間がかかるから。とにかくその顔には、手放しで賛成という表情は浮かんでいない。


「準備は全部私がやるから」


 いつもは真っ先に面倒から逃げる私が、珍しく食い下がった。


 うちの子は、もうすぐ上級生だ。体躯は大きいが、気が弱い。いじめられ体質というか、ウドの大木というか……。心根は優しいと思うのだが、どうにもトロくて、臆病で、周りから馬鹿にされるタイプである。


 そして可哀想に、見た目は魔太郎そのものだ。


 下に弟が居るのだから、ちょっとしっかりして欲しい、と思う今日この頃。


 この上の息子のために、私は肝試しをやりたくなったのだ。







 きっかけは、あと二年後にやることになる学校行事、林間学校の情報である。輪姦学校ではない。林間な。


 息子の学校では毎年、肝試しをやるそうなのだが……。



 ある日のこと、仏壇に向かって手をパンパンと叩き、お祈りをしている息子を見つけて首をかしげた。


誠太せいた、仏壇は神社や神棚じゃないんだけど?」


 息子はメガネを押し上げて、蒼白な顔で言った。


「明日ドッジボール大会なんだよ」


 コノウラミハラサデ――みたいな顔で、特に何でもないことを苦しげに呟く。


「うん……で?」

「ボールが怖いから、雨が降って中止になるように、死んだジイジに頼んでたんだ」

「いや、……雨でも延期になるだけなんだけど――」

「俺はね、先生や学校に言いたい」


 誠太はキッとこちらを振り返って力説する。


「何で毎年ドッジボール大会なんてやるの?」


 何で運動会なんてやるの? 何で持久走大会なんてやるの? わかる~。かあちゃんも嫌い。


「まあ……嫌なことからも、逃げずに挑む心を育てるためよ。度胸とか闘争心とか……」


 精神的苦痛は確かに大きいけどね。ガチで殺す気で投げてくる奴いるもんね。


「怖いものに立ち向かう勇気を育もうと――」

「だったら、肝試しでもいいじゃない。俺、そっちの方がいい。林間学校、超楽しみ」


 肝試し……。スポーツじゃないけどね。こう、心身ともに鍛えるにはちょっと違う気もするけど。


「でも俺は、お化けよりボールの方が怖い。他の子だって怖い目に遭わないとさ、不公平。ずるいじゃん。林間学校の肝試しは、自由参加らしいよ。強制じゃないなんてずるい。ドッジボールだって、怖い人はやらなくていいってことにしたらいいでしょ?」


 うーむ。とりあえず、お前がボール怖いのは良くわかったよ。ドッジボールを虐待と感じる子もいるということが良くわかったよ。わかったから、誠太。そんな呪い殺しそうな上目遣いでこっちを見るな。


「昔はドッジ岩石だったんだけど、怪我するからドッジボールに変わったって思えば楽勝じゃね?」

「ママの言っていることは、たまにさっぱり分かんないんだよ」


 本気で悩んでいる子を茶化してはいけない。



 さらに別の日、ゴソゴソと道具入れの引き出しを探している息子に私は聞いた。


「ちょっと誠太、散らかさないでよ、何探してるの?」

「ママ、耳栓無い?」

「何に使うの? 宿題?」

「明日スポーツテストがあるんだよ」


 ……話がつながらねぇ。弟の観ているテレビやゲームの音で、気が散らないようにしたいのかと思っていたのだけど、え? スポーツテスト?


「ピストルだよピストル。よーい、パーンッの音が怖いんだよ」

「そ、そうか」


 息子は運動会でも耳栓を欲しがった。よーいドンの時に両手で耳をふさいでいて、パパにどやされたからだ。


「そりゃ、スタートが遅れるから怒られるよ。耳栓だって一緒だよ」


 私がなだめても、息子はカンカンに怒りながら言う。


「だいたいね、何でピストルなの? 笛じゃいけないの? びっくりして走るどころじゃないよ。アメリカはね、ピストルの音が鳴ったらみんなね、まず伏せるんだよ」


 雑学はどこから仕入れるのだ、息子よ。そういや最近ママのタブレッドでYOUTUBE勝手に見てるよな。そろそろ有害サイト見られないように設定しないと。


「そういや誠太、風船で遊んでいる子供たちからも離れるよね?」


 息子は悪びれない。


「音に敏感なんだよ」

「音だけじゃないじゃん。それこそドッジボールも、それにトイレも電気消したあと、走って逃げてるでしょ?」

「ボールは当たると痛いの! そして子供は暗闇を怖がるの!」


 むむ。虫もキライだし……。まあそれはママもだけどね。虫嫌い選手権があったら優勝するくらいだからね。ママかクシャナ殿下かってくらいだからね。バルサン焚きながら「薙ぎ払え!」って怒鳴ってる自分を誰かに見られたら死ぬ自信がある。そして酔いしれてボサッとしてたせいで、煙から逃げ遅れるし、カバーし忘れて火災報知器鳴らしちゃうしと大変だったけどね。


「逆にさ、怖くないものって無いの?」


 私が軽蔑の眼差しで冷たく聞くと、誠太は胸を張る。


「草とか葉っぱは怖くない」

「草!?」

「うん、マーくん、葉っぱ怖がるでしょ」


 三歳の弟と比べるんじゃない。


 ちなみに三歳児の彼の弟マーくんは、二歳の時、公園に落ちている死にかけのセミを葉っぱと間違えて拾い、結果、ビチビチビチビチ~ッ!! の洗礼を受けてから、茂みとか落ち葉地帯に近づかなくなった。


 誠太はそれを馬鹿にしているようだ。


 いや、ママにはその気持ちがわかるのだけど。……セミ怖いよね? 死んだふりはやめてほしいよね? あと、カブトムシのメスってゴキブリとどう違うの?


「でもさ、あのチビ、お化け屋敷は入れるよ」


 遠足の時、園児が誰一人として入らなかったお化け屋敷に一人で挑んだ強者だ。なぜか稲川ジャン・ピエールがプロデュースした『3Dホラー映画』も観たがった。最年少じゃね? そしてママはね、周りから虐待じゃね? 自分が観たいだけじゃね? って顔で見られたんですよ、ジロジロと。


「おまえ、お化け屋敷入れないじゃん。三歳児の方が度胸あるぞ」


 家族で遊園地に行った時、どれだけ弟から蔑んだ目で見られようと、ガンとして拒否、一人だけ外で待っていたよな?


「だって、お化け屋敷やホラー映画は、怖がらせようとしてわざと大きな音出すでしょ? 俺、音はダメなんだよ。でも、心霊スポットとか、肝試しなら俺は平気だ」


 また肝試しか。……通常、あれも脅かし役いるんだけどな。


「じゃあ心霊スポット連れてって。廃墟とか」


 不法侵入で捕まりそうだな。


「大きな音で脅かさない肝試しがいいの?」

「うん」


 かくして、私は一肌脱ぐことになったのだ。子供会の役員という立場を使って。ゴリ押しされた他の役員メンバーにとっては、いい迷惑だったかもしれないけれど。


 特に地元出身の二人――書記さんと会計さん――は、なんだかものすごく複雑そうな顔をしていた。



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