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英雄と神童

裁判所の重厚な扉が閉じられると同時に、京介は恵一に歩み寄った。その瞬間、恵一は彼の持つ威厳と威圧感に息を呑んだ。京介の鋭い目が恵一を見つめると、彼の身体は自然と直立不動になり、言葉を発することさえためらわれた。


「どうぞご安心ください、桂澤さん。本日より、あなたは私の保護下に置かれることになります。まずは、私が用意した車にお乗りいただけますか?」静かに抑えられた京介の声には、一切の迷いがなかった。


恵一は頷くことしかできず、京介の後を追った。外に出ると、裁判所の正面には、漆黒のリムジンが待機していた。メタリックな輝きを放つ車体は、まるでこの場にふさわしい威厳を象徴しているかのようだった。


「どうぞ、お乗り下さい」


京介が促すと、運転席の前に控えていた執事長の溝呂木がドアを開けた。恵一が恐る恐る中に入ると、その豪奢な車内は、絹張りのシートと金細工の装飾が施され、まるで異世界のような光景を作り出していた。

京介が乗り込むと同時に、リムジンは滑らかに発進した。街の喧騒を遠ざけるように、静寂と快適さが車内を支配していた。しかし、恵一の胸中はその静けさとは裏腹に波立っていた。


京介は車内で静かに座り、窓の外を見つめていた。その姿は余裕と威厳に満ち、隣に座る恵一とは対照的だった。恵一は目の前の非現実的な状況に戸惑いながらも、ようやく声を振り絞った。

「助けてくれてマジで感謝感激雨霰。でも、どうして俺なんかを助けてくれるんだよぉ?」


「遅ればせながら自己紹介をさせていただきます。私の名は桝岡京介。桝岡家の次期当主を務める予定の者で、あなたと同じく17歳、高校2年生です」

京介の声が、リムジン内に響いた。


恵一は、隣に座る京介の威厳ある姿を、驚きの目で見つめた。

「この世界には『魔導』と呼ばれる、常識を超えた力が存在します。そして私は、その力を使い、人々を守り導く使命を帯びた者でございます」


その言葉には、何か抗えない力が宿っているようで、恵一はただ頷くことしかできなかった。


「そして、あなたもまた、この国において、かけがえのない英雄です」

京介の視線が恵一に向けられる。「しかし、その力ゆえに、あなたは常に命を狙われる危険と隣り合わせにあります。それが、この国における厳然たる現実なのです」


「ぐふぅ!? お、俺……英雄なんて設定じゃ……」恵一はかすれた声で否定しようとしたが、京介の冷静な声がそれを遮った。


「事実を否定する必要はありません。あなたが守った命、そして東北地方が壊滅を免れたという歴然たる事実。それは変わりようがありません。そして私は、あなたの力を正しく導き、この国を守るために尽力する所存です」


恵一は京介の言葉を飲み込みきれず、困惑した表情を浮かべた。


「桝岡氏……」恵一が恐る恐るそう呼びかけると、京介は軽く首を振って答えた。


「京介と呼んでください」

その柔らかな口調に、恵一は少し安心しながらも戸惑いを隠せなかった。


「で、では京介氏……」


「それでいい」京介は満足そうに頷き、優しく微笑んだ。


「これからあなたを守るために、そしてあなたが安心して生きられるように、全力を尽くします」


その言葉に、恵一は胸の中で何か温かいものを感じながら、無言で頷いた。


だが、その平穏な時間は突然の衝撃で打ち破られることになる。

リムジンが急停止した。運転席から溝呂木が、状況にそぐわない落ち着いた声で報告する。「失礼します、御曹司様。暗殺部隊が接近中です。敵勢力、50名ほど。重武装している模様ですね」


恵一は驚愕し、声を上げた。「な、なんだって!?50人も!? しかもガチ装備!? これ、完全にリベンジマッチじゃないですか?!」


だが、京介は微動だにせず、冷静そのものだった。

「これは軍部ではないです。彼らは決定事項には忠実ですので。あなたはそのまま座っていてください」


京介は手袋をゆっくりと外し、指を軽く動かした。その動作には一切の無駄がなく、周囲の空間に緊張感が漂う。


リムジンを取り囲む魔導暗殺部隊。その姿や装備からして、おそらくは外国の勢力に属する者たちである。彼らはすでに術式を展開し、周囲の空間に緊張感を漂わせながら、正確に恵一たちを標的に定めていた。


だが、その切迫した状況下で、京介はまるで別次元にいるかのように微動だにせず、わずかに指先を動かすと、静かな声で言葉を紡いだ。

「迎撃を開始します」


その言葉と同時に、広範囲に展開する物自体(ヌーメノン)を一瞬で認識エアケンネンすると、感性力ジンリヒカイトの利得を一気に最大化する。

すると、彼の指先から光が放たれた。それは瞬時に魔法陣を形成し、リムジンを覆う巨大な光のフィールドとなった。その輝きは静かに脈動し、闇を押し返すように周囲を照らしている。まるで天から降りた守護者(ダイモニオン)のように、その存在は威厳と神秘をまとっていた。


「こ、これは……」恵一はその圧倒的な光景に圧倒され、言葉を失った。

京介は冷静な口調で続けた。「これが私の力です」


光のフィールドから無数の光の刃が放たれると、それらは正確無比に敵を捉え、瞬く間に暗殺部隊を殲滅していった。次々と響く悲鳴が周囲を包み込む中、京介はあくまで冷静だった。

「……まだ残党がいるようですね」


彼は軽く指を動かし、さらに大きな光の奔流を放つ。それは敵を一掃し、完全に脅威を排除した。

「しゅ、しゅごい……」

恵一はその力に圧倒され、震えながら呟いた。


「この程度の相手、取るに足らない」

京介は肩をすくめるような仕草を見せ、全く動揺していない様子だった。


暗殺部隊を殲滅したリムジンは、再び静かに動き出した。恵一は心臓の鼓動が少しずつ落ち着いていくのを感じながらも、隣に座る京介を改めて見つめ直した。

「京介氏……お主、チートキャラかよ……」恵一は感嘆の念を隠しきれず、素直に言葉を発した。

京介は微笑みながら答えた。「あなたを守るためには当然のことです。それよりも、これからのことを考えてください」


その言葉に、恵一はただ黙って頷いた。この人に守られている限り、自分はきっと大丈夫だ——そんな安心感が彼の胸に広がった。


リムジンは桝岡家本邸に向かい、エリア17・旧大田区の静かな高級住宅街に差し掛かった。やがて目の前に現れたのは、まるで宮殿のような巨大な屋敷だった。その壮大な佇まいに、恵一は言葉を失った。


「ここがあなたのこれからの住まいです」

京介がそう告げると、執事が静かに車のドアを開けた。


恵一は足を踏み出し、改めて目の前の世界に圧倒されながら、自分が全く別の人生の入り口に立っていることを実感していた。

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