甘い偶然の出会い
午後の陽射しが柔らかく街を包み込み、白金魔導学園からほど近いスイーツショップ「ルミエール」は、活気と甘い香りで満ちていた。ガラス張りの窓からは光が差し込み、店内に並べられたケーキやタルトをまるで宝石のように照らし出している。ショーケースの中には、鮮やかなフルーツが乗ったタルトや滑らかなクリームが輝くロールケーキがずらりと並び、客たちを誘惑していた。焼き菓子コーナーからは、ほのかにバターとアーモンドの香りが漂い、訪れる人々の足を止めさせていた。
「うわー、これ絶対おいしいやつじゃん!」
美寛はショーケースに顔を近づけ、目を輝かせた。短髪がさりげなく揺れ、その笑顔は、まるで店全体に陽射しを届けるような明るさを持っていた。彼女の指がショーケースのガラスをトントンと叩き、目移りするように次々とケーキを眺める。彼女の短髪が陽射しを受けてさらりと揺れ、その無邪気な仕草にはどこか子鹿のような愛らしさが漂っている。
「……甘すぎるのは苦手だけど、抹茶なら試してみてもいいかも」
隣で舞陽が静かに呟いた。その声は低く落ち着いており、長い黒髪が肩にさらりと流れ落ちる様子は、冷たい湖面に影を落とす柳のようだ。彼女は控えめにショーケースを見つめているが、その横顔にはどこか人を寄せつけない冷ややかな美しさが宿っている。まるで店内のざわめきが、彼女の周囲で自然と遠ざかっていくようだった。
二人はスイーツを選び終え、窓際の席に腰を下ろした。窓の外には、小さな噴水のある広場が広がり、楽しげに行き交う学生たちの声が微かに聞こえる。美寛はカラフルなフルーツタルトを一口頬張ると、目を閉じて満面の笑みを浮かべた。
「舞陽、これ食べてみ! めっちゃ美味しい!」
その言葉に力を込め、フォークで差し出すと、舞陽は苦笑いしながらも目の前の自分のケーキに手を伸ばした。
「私は自分のを食べるから……」
舞陽は微かに笑みを浮かべながら控えめに答えた。抹茶ケーキを小さなフォークで切り分け、口元に運ぶその仕草には、彼女独特の静けさが感じられる。ケーキの柔らかな甘さが舌に広がると、彼女の目に一瞬だけ微かな喜びの色が浮かんだが、それを隠すようにすぐに伏し目がちになる。
「ねえ、舞陽。こういう時間っていいよねー」
美寛がカラフルなタルトを見下ろしながら、フォークをひらひらと振りつつ言った。その顔には穏やかな満足感が漂っている。
「……そうね」
舞陽は静かに微笑みながら頷いた。彼女の前に置かれた抹茶ケーキが、彼女の落ち着いた雰囲気と不思議と調和している。
美寛はフォークを手に取りながら、じっと舞陽を見つめた。
「ところでさ、舞陽ってどんな男の人が好きなの?」
舞陽はその突然の問いに、一瞬目を瞬かせた。フォークを持つ手を止めると、小さな溜息をつく。
「急にそんな話をするの?」
「いいじゃん! こういうのって、スイーツ食べながら話すのが楽しいんでしょ!」
美寛は満面の笑みを浮かべ、椅子から少し身を乗り出した。その快活な態度に、舞陽も呆れたような笑みを浮かべる。
「……そうね」
舞陽はケーキの端を丁寧に切り分けながら、少し考え込むように視線を落とした。抹茶の緑がフォークに絡むのを見つめつつ、少し恥ずかしそうに言葉を紡ぐ。
「落ち着いていて、冷静な人……かな。あまり感情的にならず、状況を見極められる人がいいわ」
「ふーん、舞陽っぽいね。なんか、頭脳派な感じの人?」
美寛は頷きながら、明るい声で返した。
「そうかも。でも、優しさも必要よ。冷静でも冷たいだけの人は嫌だもの」
舞陽は自分の言葉に耳を傾けながら、小さな笑みを浮かべた。その目には微かな憧れが浮かび、窓から差し込む光が、その横顔をやわらかく照らしている。
「なるほどねー」
美寛は満足そうに頷き、フォークをくるくると回しながら言葉を続けた。
「私はね、面白い人がいいなー。一緒にいて楽しくて、話が盛り上がる人! あ、でも頼りがいも大事だよね」
「……意外と現実的なのね」
舞陽が少し意外そうに返すと、美寛は笑い声を上げた。
「いやいや、好きなタイプは理想だけど、どうせなら楽しいほうが良くない?」
その笑顔には、どこか自然体の魅力があり、舞陽もつられるように微笑んだ。彼女たちの間には、暖かな陽射しとスイーツの甘さが織り成す柔らかな空気が広がっていた。
「でも、舞陽は本当に真面目だね。私には思いつかない答えだなぁ」
「美寛が自由すぎるだけよ」
二人の軽やかな笑い声は、店内のざわめきの中に柔らかな波紋を広げた。その響きは、まるで春先の風が草原をかすめるように、さりげなく周囲の心をくすぐった。客たちもその微笑ましい空気につられるように穏やかな表情を浮かべ、一瞬、店内全体が和らいだ。
そんな時、店の入り口でベルが軽やかに鳴り響いた。その音に、舞陽と美寛が同時に顔を上げると、そこにはA組の輿水秋菜と間宮久美の姿があった。午後の日差しが店内に差し込み、二人のシルエットを輝かせていた。
秋菜は長い黒髪をそよ風に揺らしながら、柔らかな笑みを浮かべている。その姿は、まるで静かに流れる川のような落ち着きを漂わせ、見る者の心を和ませた。一方で、その隣の久美は、小柄な体を少しだけ誇らしげに張りながら、ピンクの縦ロールを揺らしている。彼女の瞳にはどこか鋭さがあり、その冷たい視線には見る者を無意識に萎縮させるような力があった。
秋菜は美寛と舞陽の視線に気がつくと、ふわりとした笑顔で手を軽く振った。その仕草は控えめでありながらも、親しみ深さを含んでいた。
「もしかして、白金学園の方かしら? E組の方?」
その声はまるで森の奥から響く鳥のさえずりのように、柔らかくも鮮やかに店内に響き渡った。
美寛は一瞬の驚きを見せたが、すぐにその快活な笑みを浮かべて答えた。
「そうよ」
秋菜は軽くうなずき、隣の久美を軽やかに指し示した。
「私は輿水秋菜よ。そして、ここにいるのは間宮久美。ちょっと機嫌が悪そうだけどね」
久美はつまらなさそうに肩をすくめ、視線を店内の床へと落とした。彼女の唇がわずかにへの字を描き、つまらなそうな仕草にどこかしらの高慢さが漂う。
美寛は肩をすくめながら微笑んだ。その笑顔には軽い冗談めいた響きが含まれており、場の空気を少し柔らかくした。
「知ってるよ。二人とも有名人だし」
秋菜の顔に一瞬の驚きが浮かんだが、それはすぐに柔らかな笑みに変わった。
「それで、あなたたちは?」
「児高美寛。美寛って呼んでくれていいわ」
美寛が軽快に答えると、舞陽がその横で控えめに口を開いた。長い黒髪を一つに束ねた姿は静かに光を受け、彼女の落ち着いた雰囲気を一層引き立てている。
「三國舞陽。呼び方は……好きにして」
彼女の声には控えめながらも確かな自信が感じられ、その静けさが秋菜の耳に心地よく届いた。
「じゃあ、美寛、舞陽ね」
秋菜はその名を繰り返しながら微笑む。その声にはまるで新たなつながりを喜ぶような温かさが込められていた。
「いつもここに来ているの?」
「ええ、放課後だからね。たまには甘いものでも食べてリラックスしようかなって思って」
美寛はそう言うと、明るく笑いかけた。その笑顔はまるで午後の陽光そのもので、秋菜もつられるように小さく笑みを返した。
「私たちも久美が寄りたいって言ったから来たのよ」
その言葉に久美が軽く肩をすくめ、目を伏せながらつぶやいた。
「別に大した理由じゃないわ」
その冷たい言葉に、美寛の笑顔が一瞬だけ動きを止めたが、すぐに明るさを取り戻す。舞陽は静かにカップを持ち上げ、表情を変えずに久美の視線を受け流した。
秋菜は、美寛と舞陽の間に立つようにしながら、柔らかな笑顔を保ったまま言葉を継いだ。
「それで、二人とも甘いものを食べに来たのよね?おすすめとかあるかしら?」
その声には、誰に対しても分け隔てなく話しかける自然な親しみが滲んでいた。彼女の黒髪が肩先で揺れるたび、光を受けた艶が柔らかく反射して、まるで一枚の絵画のような美しさを感じさせる。
「おすすめ?そりゃ、これだよ!」
美寛はフルーツタルトの皿を軽く持ち上げて見せながら、満面の笑みを浮かべた。
「ここのタルト、めっちゃ美味しいんだから。特にこのイチゴのが最高。あ、でも舞陽は抹茶派なんだよね?」
言葉を振られた舞陽は、静かに頷きながらも、自分の皿を指差した。
「ええ、抹茶のケーキは苦味と甘さのバランスが良いの。甘すぎるのが苦手な人にはおすすめよ」
彼女の穏やかな声が秋菜に向けられると、秋菜は少し目を細めて微笑んだ。
「抹茶か……いいわね、渋い選択」
その一言に、舞陽の表情が微かに柔らぎ、控えめながらも小さな微笑みが浮かんだ。
「でもさ、甘党ならやっぱりこのタルトだって!」
美寛が熱心に続けると、秋菜は軽く頷き、「じゃあ、次はそのタルトにしてみようかしら。なんだか美寛さんの自信に惹かれちゃう」と穏やかに返した。
久美はその様子を少し離れた位置から眺めていたが、やがて軽くため息をつきながら口を開いた。
「それにしても、E組が甘いものに詳しいなんて意外ね」その言葉には皮肉めいた響きが含まれていたが、久美自身も窓際の席に座り、ようやく一息つくような仕草を見せた。
美寛はその一言にぴくりと眉を動かしつつも、肩をすくめて軽く笑った。
「甘いものくらい、誰だって好きでしょ?久美さんだってスイーツ好きなんじゃないの?」
言い返すつもりもなく、ただ軽く返す美寛の態度に、久美は一瞬だけ言葉を詰まらせた。
その隣で舞陽が静かに言葉を添えた。
「好きかどうかはともかく……甘いものには不思議な力があるわ。少なくとも、こうして会話のきっかけにはなる」
彼女の言葉には理屈めいた落ち着きがありながらも、どこか温かさが含まれていた。
秋菜はその言葉に頷き、穏やかに微笑んだ。
「確かにそうね。こうやって話せるのも、スイーツのおかげかもしれないわ」彼女の柔らかな声が、四人の間に漂う微妙な緊張を溶かしていくようだった。
その時、久美の視線がふと舞陽のバッグにぶら下がる小さなキーホルダーに吸い寄せられた。店内の柔らかな光を受けて揺れるのは、最近人気の魔導獣キャラクター「フラフラフィン」の姿だった。丸いフォルムと大きな瞳が印象的で、どこか愛嬌のあるそのデザインに、久美の目がじっと留まる。
「それ……」
久美がぽつりと呟いた声に、美寛と舞陽が同時に視線を向けた。久美の声には、いつもの冷たさよりもわずかな興味が混じっていた。
舞陽は驚いたように目を瞬かせ、自分のバッグに視線を落とす。
「これですか?」
彼女の落ち着いた声が静かに響き、久美の視線を誘った。
「フラフラフィン、好きなの?」
久美の声には不思議な親しみが混じっており、彼女の冷たい表情がわずかに和らいでいた。
「ええ……可愛いから、つい買っちゃったんです」
舞陽が静かに答えると、久美の目が輝きを増した。
「それ、限定版よね? 私も探してたの」
久美の声には、思いがけない興奮が混じり、その小柄な体がわずかに前のめりになる。
「学園近くの店で偶然見つけたんですけど……そうだったんですね」
舞陽が控えめに答えると、久美はさらに興味深そうに身を乗り出した。
二人の間で自然に会話が弾み始める様子を見て、美寛がくすりと笑い、そっと舞陽の肩を叩いた。
「ねえ、いつの間に久美さんとそんなに仲良くなったの?」
「ただの趣味の話よ」
舞陽は控えめに肩をすくめながら返す。
秋菜はそのやり取りに微笑みを浮かべ、柔らかな声で言った。
「久美がE組の人とこんなに話してるなんて珍しいわね」
久美は一瞬むっとした表情を浮かべたが、そっぽを向きながら口を開く。
「別に、E組だからどうこうってわけじゃないわ。ただ……話が合うだけよ」
秋菜と美寛が笑い合う中、舞陽と久美の間に流れる空気は穏やかで、不思議な新しいつながりを感じさせていた。スイーツショップの午後は、控えめな陽光の中で、静かに新たな関係を紡ぎ出していくかのようだった。
こうして、思わぬ形で意気投合した舞陽と久美。隣では美寛と秋菜がそれぞれの友達の変化を興味深げに眺めていた――そんな午後のひとときだった。




