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逃走(赤レンジャー・恵一ルート)

逃げ惑う恵一たちの周囲を、夜の闇が重く包み込んでいた。路地の薄暗い明かりは、彼らを守るどころか、不気味な影を足元に落とし、不安と焦りをさらに煽っていた。先頭を走る赤レンジャーは振り返ることなく、ただ前へと進む。恵一は必死に女の子を抱え、その後を追いかけた。女の子の軽い体重が腕に重くのしかかり、額を伝う汗が頬をつたって滴り落ちる。


「早くついてこい!」

赤レンジャーが低く叫ぶ。その声には張り詰めた緊張感が滲んでいるが、不思議と冷静さを保っているように感じられた。それが、今の恵一にとって唯一の頼りだった。しかし、背後から追っ手たちの足音が徐々に近づいてくるのがはっきりと聞こえ、そのたびに胸が恐怖で締め付けられる。


「どこに逃げればいいんだ……どこに行けば……」

恵一の頭の中は混乱と絶望で埋め尽くされていた。地理も構造も分からないこの街で、ただ逃げ惑う彼にとって、すべてが暗闇の中を彷徨うような感覚に思えた。


「こっちだ!」

赤レンジャーが鋭い声で指示を飛ばす。細い路地へと滑り込むと、壁に体を擦りつけるようにして進んでいく。建物の隙間から漏れるかすかな明かりが、かろうじて彼らの逃げ道を照らしていた。


ようやく少し広めの空間にたどり着くと、赤レンジャーは振り返り、荒い息を整えながら壁に背を預けた。「一旦ここで隠れるぞ」

恵一もフラフラになりながら壁際に寄りかかり、女の子をそっと下ろす。腕の痺れがジンジンと残り、全身から汗が滴り落ちていた。


「……なあ、(ピンク)野郎」

赤レンジャーが不意に口を開いた。その声は先ほどまでの緊張感とは異なり、どこか遠くを見つめるような響きを帯びていた。彼はポケットからタバコを取り出し、手際よく火をつけると、煙を一息吐き出した。


「お前がさ、あのとき『女の子を助ける』なんて言い出してくれたおかげで、俺も目が覚めたよ」

恵一は驚いたように顔を上げた。赤レンジャーの横顔には、普段の軽薄な態度や冗談の影はなく、真剣な表情が浮かんでいた。


「俺、正直言うとな……この仕事、ただの金稼ぎだと思ってた。借金返せりゃそれでいいって。それ以上のことを考える余裕なんてなかった」

赤レンジャーは視線を床に落とし、拳を握りしめた。その仕草から、彼の中に渦巻く複雑な感情が伝わってくる。


「でも、お前が真っ直ぐな目で『この子を助けたい』って言っただろ。その言葉が……俺の中に刺さったんだよ」


恵一は返す言葉を見つけられず、ただ静かに赤レンジャーの言葉を受け止めていた。


「俺、気づいたんだ。このままじゃダメだって。この仕事が終わったら、俺……足を洗うよ」

赤レンジャーは力強い決意の眼差しで恵一を見つめた。その瞳には、覚悟と新たな希望が宿っていた。

「こんな状況じゃ、生きて帰れるかわかんないけどさ……ま、ありがとうな」

赤レンジャーは少し照れたように頭を掻き、再び壁に背を預けた。その言葉の余韻が漂う中、風の音だけが微かに響いていた。


突然、背後で魔導の光が炸裂する音が響いた。明るい閃光が路地の壁に反射し、瞬く間に周囲を照らし出す。恵一は反射的に目を閉じ、女の子を守るように強く抱き寄せた。光の消える間際、赤レンジャーの叫び声が鋭く闇を切り裂いた。


「急げ!」

彼は振り返ることなく恵一に命じた。その声は緊張感と焦燥感に満ちており、自然と恵一の足を前へと動かす。しかし、その直後、追っ手の怒声が暗闇の中で響いた。


「見つけたぞ!逃がすな!」

その声が耳に届くと、恵一の足が一瞬止まりかけた。恐怖が全身を包み込み、女の子の軽い体重が急に何倍にも感じられる。


「止まるな、走れ!」

その目には確固たる決意が宿っており、恵一の胸にわずかながらも勇気を灯した。その手の熱が彼に伝わり、再び足を動かす力となる。 狭い路地を抜け、大きな通りへと飛び出した瞬間、赤レンジャーは立ち止まり、周囲を素早く見回した。だが、追っ手たちの足音はすぐそこまで迫っている。


「ここじゃ目立つ。さらに奥へ!」

赤レンジャーは瞬時に判断を下し、別の路地へと身を滑らせた。恵一は疲れ切った体に鞭を打ち、女の子を抱えたまま懸命にその後を追う。しかし、腕にのしかかる重みが増し、汗で滑る手が危うくなる。


「赤レンジャー氏、無理だ……」

息を切らせながら恵一が訴えると、赤レンジャーは振り返り、鬼気迫る表情で彼を一喝した。


「無理じゃねえ!生きるために走れ!」

その言葉が恵一の心を叩き、再び足を動かさせた。だが、追っ手の声はさらに近くなり、その姿がちらちらと見え隠れする。


「こっちだ!」

赤レンジャーはさらに狭い路地へと身を投じ、建物の隙間を縫うように進む。しかし、振り返れば魔導の光が路地を徐々に染め上げていく。


「そこだ!動くな!」

暗闇から追っ手たちが現れた。彼らの手には魔導の光を宿した杖や刃物が握られており、その目は冷酷に光っていた。


恵一は女の子をさらに抱き寄せ、震える声で赤レンジャーに囁いた。

「ど、どうするんだ……逃げ場がない!」


赤レンジャーはちらりと恵一を見やり、苦笑を浮かべた。

「心配するな。腐っても、俺は魔導士だからな」

その言葉と同時に、彼の手が宙に描くように動き始めた。見えない文字が空間に刻まれるような感覚――それは魔導の詠唱だった。追っ手たちはその異変に気づき、杖を構えて叫んだ。

「魔導だ!早く仕留めろ!」

追っ手たちの一人が杖を振りかざし、暗闇を切り裂くように光の矢を放った。その矢は鋭い音を立てて飛び、恵一たちに向かって一直線に迫ってくる。


しかし、その瞬間――


赤レンジャーの前に薄い青白い光の障壁が現れ、光の矢を跳ね返した。障壁に衝突した矢は砕け散り、周囲に火花を散らした。追っ手たちが驚きの声を上げる中、赤レンジャーは片手を上げて冷静に呟いた。


「おいおい、そんな小細工で俺を倒そうなんて無理だぞ」

その言葉とともに、彼の手からさらに強い光が放たれた。眩しい閃光が路地全体を照らし、追っ手たちは思わず目を覆った。その隙に、赤レンジャーは恵一と女の子を引き寄せて言った。

「今のうちに行くぞ!」


「で、でも……あの人たちは……」

恵一が戸惑いながら言うが、赤レンジャーは真剣な目で睨み返した。

「そんなこと言ってる場合か?俺たちが捕まれば終わりだ。守るための力はあるが、限界はあるんだ!」

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