『鏡の部屋』
鏡:身だしなみを整える際などに用いる。可視光線を反射させる物体。
「鏡よ鏡よ鏡さん。世界で一番かわいい妹はだぁれ?」
「おい」
「こほん。それはね、もちろんヒトミちゃんだよ」
「おい」
「え、そんな~~。もう、鏡さんったら正直者なんだから」
「おい」
「それじゃあもう一つ、世界で一番カッコいい男性は?」
「……」
「こほん。それはね、何かに懸命に取り組む男性だよ」
「俺じゃないのかよ!! あと、それは思春期の女子が男子に求めてるステータスの一部で、運動部が優遇される奴だ!! 断じて世界で一番ではない!! この体育会系め!」
「あ、お兄ちゃん。私にとっては、お兄ちゃんが世界一だよ」
「……」
〇〇〇〇〇〇〇〇
「――で、手鏡に向かって何してたんだ?」
「あのシーンの再現だよ。毒りんご姫のやつ。知らない?」
「……白雪姫な。毒りんごは好きで食ったんじゃない。馬鹿だから騙されて食ったんだ」
「あ、そっちか。でもどうして、白い雪なんだろうね?」
「肌が白かったんじゃねえの? 知るかよ」
「あれ、お兄ちゃん機嫌悪い?」
「お前は列記としたブリシストだな」
「お兄ちゃん、それ前のネタだよ。駄目だよ? そうやって前のネタをあえて出すことによって、他の部屋を見てもらおうって根端。私は好きじゃないなぁ」
「お前もこれまで散々やってただろ! ……まあいい。急に鏡に語りだして、ついに頭沸騰したのかと思った」
「それは酷いよ! まあ、お兄ちゃんという熱には火照ってばかりだけどね」
「……」
「せ、せめて何か言ってよ。罵倒でもツッコミでもいいから。無視が一番キツイよ」
「この変態」
「その突っ込み、今この瞬間だと現実味増すからやめてよ」
〇〇〇〇〇〇〇〇
「そういえば最近、スマホに話しかけてる人をよく見るよな。あれ、何してんだ?」
「今時のスマホはAIが搭載してあるから、話しかけると答えてくれるんだよ」
「そうだったのか。急にテレビ電話ブームが巻き起こったのかと思った」
「さすがにそれはないと思うよ」
「けど、さすがのAIも世界で一番可愛い妹にはお前を推薦しないんじゃないか?」
「む、やってみなきゃわからないよ」
「それじゃあやってみろよ」
「……ヘイ!!」
「うわっ! 何だよ急に、ビックリさせるなよ!」
「え、えっと、何にビックリしてるの?」
「急に海外の挨拶したら、誰だって驚くだろ?」
「……これ、こうやって起動するんだけど」
「は?」
「あ、ほら。オッケー!」
「何がオッケーなんだ?」
「合言葉みたいなものだよ。ヘイ、の後にオッケーって言うの」
「……やぁ、大丈夫。意味不明だろ、これだと」
「……」
〇〇〇〇〇〇〇〇
「やめだやめだ。大体、スマホに話しかけるなんて馬鹿馬鹿しい」
「お兄ちゃんはきっと、最後までアナログを貫きそうだね」
「……しかし、最近のスマホって画面綺麗だよな。それこそ鏡みたいに自分の顔が映りこんでるし」
「あ、これって液晶テレビと似てるよね。鏡面っていうんだっけ」
「時代は進化してるんだな。あ、そうだ。手鏡貸してくれないか?」
「どうしたの?」
「いや、大したことじゃない。一つ訂正をしておこうと思ってな」
「え?」
「鏡よ鏡、世界で一番可愛い妹は誰?」
「お兄ちゃん?」
「それはもちろん、もえぎたんだよ」
「――あ! またセコい手段用いてる!!」
「知ってる人なら知ってるだろ。あの世界一有名なもえぎたんだぞ」
「世界一って、こっちの世界観の話だよ!! それに、これじゃあ駄目だよ!! この作品は、知らない人にも親切にする作品なんだから」
「あっそ」
「もう、お題の人に怒られるよ。まったく」
「別に怒られてもいい。今まで何度も怒られてるからな」
「開き直ってるし……あ、そうだ。鏡よ鏡よ鏡さん、今のはどう思いますか?」
「そんなの答えるはず……」
『開き直るのは、時と場合によって使い分けましょう』
「「――喋った!?」」
「あ、スマホの音声だね、今の」
「ビックリさせるなよ」
『驚く。で検索した結果――』
「もういいって」




