『VRの部屋③―ホラーゲーム―』
「ほ、ほんとにやらなきゃ駄目なの?」
「お題の人からの命令だからな」
「……うぅ。でも、お兄ちゃんが付けた後のゴーグルだから、ご褒美かも」
「おい変態」
〇〇〇〇〇〇〇〇
「早速始まったな……(どうやら廃墟からスタートしてるらしい)」
「暗いよ!! お兄ちゃん助けて!!」
「すまんが、その作品に俺は出てないぞ」
「協力プレイしてよ!!」
「だからゴーグル一つじゃ無理だって。ちなみに、そっちの世界で唯一頼れるのは死体研究家のジョン・アドミラル博士だけのようだ。そこはウィルスに侵食された世界で、助かった人類はおよそ数千人。そのうちの一人が主人公のミゲルらしい」
「説明はいいから助けてよ!」
「だから無理だって。あ、ほら。前に扉があるから進んでみたらどうだ?」
「と、扉ってこれ? む、無理無理無理! 蜘蛛の巣とかカビとか酷いよ! こんなの素手なんて無理! 業者呼んでよ!」
「(どんだけ没頭してんだよ……)大丈夫だ。お前はコントローラーを操作するだけだろ?」
「……あ、そうだった。い、行ってみるね」
ギギィ。
「こ、怖い……」
「確かにすごいな。扉を開けた先が廊下だったのか。主人公の初期装備はナイフだけって……武器を探した方がいいんじゃないか?」
「ど、どこにあるの?」
「それを探すのがゲームだろ」
「無理だよ! 壁際から一歩も動きたくないもん!」
「それだと進まないだろ。ほら、近くの扉開けてみたらどうだ?」
「わかった……」
ギギィ。
『ギシャアア!!』
「うわああああっ!」
「(部屋開けたらいきなり蜘蛛……これはさすがに驚くか)」
「ど、どうしたらいいの!? 蜘蛛こっちに来てるよ!」
「ナイフを構えるんだ! 蜘蛛と戦え!」
「む、無理だよ! そんな操作わからないし――――――ぎぃやあああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!! 取って取って取って!!」
「うわ……(蜘蛛が顔面に飛び掛かってきて、テレビにはそれが何度も体当たりしてくる様子が映し出されている。これは正直、キツそうだ)」
〇〇〇〇〇〇〇〇
「お兄ちゃぁぁん……えぐっ、こわがっだああああ!」
「すまん。さすがにあれは予想外だった。今度は俺がやろう」
「お兄ちゃんが!? だ、駄目だよ! あんな危険なゲーム!」
「さっきまで勧めてきた奴とは思えないな。まあ、やれるだけやってみる」
〇〇〇〇〇〇〇〇
「すごっ! お兄ちゃん、サクサク進んでるよ」
「この手のゲームはやったことあるからな(とは言っても、かなり怖いな。テレビ画面を見てた時とは大違いだ。さすがVRか……)」
「あ、出口みたいだね」
「ふぅ」
「あれ、誰かいるみたい」
「廃墟を出たら、急に音楽も変わったな……おいおいおいおい!!」
「うわわわわわ! あの人、目玉ないよ! うわ、周りにたくさんゾンビみたいなのいる!!」
「くっそ、弾切れするぞ! 武器足りないだろ!」
「お兄ちゃん逃げて!」
「言われなくても!! この建物に逃げ込む!」
〇〇〇〇〇〇〇〇
「どうやら、撒いたか?」
「ここはさっきとは違う建物みたいだね。あ、奥の部屋に灯りが付いてる」
「怖すぎだろ……まあ、確認するしかないみたいだけど」
「……ごくり」
ガチャ。
「誰もいないな……」
ガタリ。
「「――!?」」
「い、今の物音なにかな?」
「あっちからしたよう、な……あれ?」
「どうしたの?」
「いや、何かいま視界に……」
ガチャリ。
「「え……」」
『ギギギギ……』
「お、お兄ちゃん後ろ後ろ!!」
「こんのっ! って、早い早い早い!!」
『ギヤオオオオオ!!』
「「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」」
〇〇〇〇〇〇〇〇
「はぁ、はぁ……なんであんなリアルな捕食されてんだよ。胃の中まで映像作ってんじゃねえよ気色悪いな」
「お、お兄ちゃん、震えが止まらないよ……今夜怖くて、トイレ行けない」
「……もう、VRはやめよう」
「うん、そうだね」
「……」
「どうしたの。お兄ちゃん」
「いや、お題終わったから部屋を出た方がいいぞ」
「……お兄ちゃんから先に出てよ」
「いや、お前から出た方がいい」
「やだよ!! 扉見る度にトラウマだよ!」
「リアリティは、限度を過ぎたら凶器だな……」




