『VRの部屋①―チュートリアル―』
VR:Virtual Realityの略。「仮想現実」というゲーマーの夢。
「おぉ~~」
「何だその箱。って、それ話題のVRじゃないか」
「そうだよ。お題の人が置いておいてくれたの。今回のお題はVRみたいだね」
「へぇ……お題の人もたまには太っ腹だな」
「早速やってみようよ! このゴーグルみたいな奴付けるんだよね。テレビで見たことある!」
「待て! なんで先につけようとするんだよ」
「え……あ。そうだよね」
「一つしかないんだし、少しは話し合って――」
「お兄ちゃんが先に付けて、私が後に付けた方が二倍楽しいもんね!」
「何を楽しむ気だ。この変態」
〇〇〇〇〇〇〇〇
「けど、贅沢言うならもう一つ用意しておいてほしかったな」
「そうだね。どうして用意できなかったのかな?」
「出回ってないからだろ」
「え? でもスマホ用なら多く出回って――」
「それ以上言うな。どんなVRか想像がつきそうだ」
「何だかよくわからないけど、私が先に始めていいのかな?」
「ああ。俺はテレビでお前の見てる映像を楽しむことにするよ」
「え!? テレビで私の視界を見れるの!? お兄ちゃん……それが狙いだね」
「すぐに代われ。俺がやる」
〇〇〇〇〇〇〇〇
「うわー、すごいすごい! 本当に映像の中にいるみたいだよ!」
「サファリパークの映像か……ヒトミ、首を動かしてみたらどうだ?」
「え? こう? ――わわっ!!」
「VRは自分の動作に合わせて視界も動くんだ。だから、映像の中にいるように脳が錯覚するんだな」
「すごいね~~! これだったら、色んなゲームやってみたくなっちゃうよ!!」
「ゲームは用意されてないのか?」
「なんか間に合わなかったみたいだよ。今度違う機会に用意してくれるって」
「そうだったのか。……しかしあれだな」
「ん?」
「こうしてVRに没頭する光景を見ていると、これはこれで面白いな」
「え!? お兄ちゃん、いま私のこと見てるの?」
「まあな」
「……そんな」
「どうした?」
「VRゴーグル付けたままだと、お兄ちゃんと一生会えないよ!!」
「そこまで深刻じゃないだろ。取ればいい話だ」
「あ、それもそうだね……でも、少し残念だなぁ」
「何が残念なんだよ」
「だって、私はたとえゲームの中だとしても、お兄ちゃんと一緒にいたいんだもん。……あ、今頬を染めてるでしょ? 見てなくても分かるよ」
「染めてない。捏造するな」
「またまたぁ。このコアラさんのように、私の事をじっと見つめてるんでしょ?」
「コアラは映像だぞ」
「……あ、あれ? これ映像? なんか、こっちがリアルになってきてるんだけど」
「よかったな。ゲームに没頭できてるんじゃないか?」
「でもそれだと、こっちの世界がリアルになると、お兄ちゃんがバーチャルってことに……。私はどうすればっ!」
「安心しろ。こっちが正真正銘のリアルだ。……って、どんだけ錯覚してるんだ」




