『着ぐるみの部屋』
着ぐるみ:皮。キャラクターの皮膚。
「お兄ちゃん、今日は着ぐるみの部屋だって。ほら、二着用意されてるよ。クマと大福の着ぐるみだね」
「どうしても着ないと駄目なのか?」
「もう、ノリ悪いなぁ。ま、そんなお兄ちゃんだから好きなんだけどね」
「……」
「あ、あれ? ツッコミが無い」
「着ぐるみ……これって中に入ってると常に全身サウナなんだろ? やってられないだろ」
「えー、大丈夫だって。ほら、今は冬だし」
「この部屋の温度は?」
「25度だね」
「暖房ある中でこんなん着たら死ぬだろ」
「大丈夫だよ! 炎天下の中で来てる同士だっているんだから! きっと同志たちは夏の夜、誰に気付かれることなく着ぐるみの辛さを語り合う友を探してはしご酒してるんだよ!!」
「してないだろ。してたとしても全員ではないだろ」
「ゆるキャラは集まってると思わない?」
「おい、あれの中身の話をするな」
〇〇〇〇〇〇〇〇
「とりあえず着てみよっか。私はクマさんね。んしょ」
「……はぁ。なんで大福なんだよ。そしてこのフォルムなんなんだよ」
ひらり。大福の着ぐるみから何か落ちてくる。
「なんだこれ、説明書? えっと、なになに?」
『これは大福の着ぐるみです。中身はもちろん餡子ではなくあなたです!! さあ、これを着て大福になりましょう! 白いだけのボディ、機能性を重視した縦長の餅と、そこから出てくる両腕両足……降りかかっている雪のような白い粉を表現するのに苦労しました!! 今日からあなたも大福!! 制作 大福サークルMOCHI』
「お兄ちゃん! みてみて! クマさんだよ!」
「……」
「お兄ちゃん?」
「変わってくれないか?」
「え、嫌だよ」
「お兄ちゃん好き好き設定なんだから、兄の頼みくらい聞いてくれたっていいだろ!!」
「せ、設定じゃないし! でも、それとこれとは話が別だよ! こんな成人もしてない女の子を捕まえて、餅の餡子にしようなんて、お兄ちゃんの鬼畜!!」
「何とでも言え! 大体なぁ、着ぐるみって言ったら目があるんだよ! しかしこの大福を見てみろ! 目どころか豆大福ですらないんだよ!」
「キレるとこなの?! いいから、着ぐるみ着てくれないとお題が終わらないよ!!」
「や、やめろ! こっちに来るな、クマ野郎!」
〇〇〇〇〇〇〇〇
十分後。
「はぁ、はぁ……」
「お兄ちゃん、すっごく似合ってるよ!!」
「大福の着ぐるみが似合ってるって言われて嬉しいと思うのか?」
「大福サークルMOCHIからは歓喜の嵐だね」
「この特殊な連中と一緒にしないでくれ。……しかし、やっぱり暑いなぁ。お前はさっきから着てるけど平気なのか?」
「うーん、さすがに汗びっしょりかも。……あ、いまドキッとした?」
「してない」
「またまたぁ。妹が着ぐるみの中で汗びっしょりになる姿を想像したんでしょ? もう、お兄ちゃんたら」
「……」
「汗で透ける下着とか、肌に張り付くところとか、ものっっっすごく想像したんでしょ?! お兄ちゃん、変態さんだね」
「お前が変態だ」
「おぉ、大福に言われると不思議な感覚になるよ」
「いまここで大福タックルをかましてやってもいいんだぞ?」
「そ、それはさすがに……べたべたになりそう……ハッ!」
「やめろ。お前の変態トークは聞き飽きた」
「餅でベトベトになった妹を想像して背徳感に――」
バタッ!
「……ヒトミ? おい、どうした?」
返事がない。
「まさか、熱中症じゃないだろうな。着ぐるみの中は人口サウナ状態だし……ったく仕方ないな。――って、この大福一人じゃ脱げん!!」
大福慌てる。
「くっそ、着ぐるみなのに視界ゼロってどうなんだよ!! あっ!」
ガッ! 大福慌てて転ぶ。
「これはマズい。ヒトミ! 平気か!」
大福、もがく。そしてどうにか立ち上がり……。
「よしっ、今そっちに――へぶ!」
ドシイインッッ!!
壁に激突して仰向けになり、完全に身動きがとれなくなった。
「終わった……」
〇〇〇〇〇〇〇〇
「お兄ちゃん、すっごくシュールな絵だね」
「は?」
「でも、私の為に必死に走り回る大福お兄ちゃんの姿、涙ものだったよ!」
「お前、何で普通に話してるんだ。外はどうなってるんだ?」
「あ、私はもう平気だよ。さっきは熱中症で少しくらっと来たけど、もう平気だから」
「そうか。それなら早く俺のこれを」
「もう少し見たいからそのままにしておいていいかな?」
「おい」
「冗談冗談。でも大丈夫だよ。すぐに終わるから」
「は?」
プツン――。




