『終末論の部屋』
終末論:世界の終わりとか、そんなやつ。
「お兄ちゃん、終末論って何?」
「人間とか世界の終末の事だったはずだ。天国とか地獄とか」
「……う~~ん。つまり、世界が明日終わるとしたら何がしたいかってこと?」
「絶対に違うとだけ言いきれるな」
「え~~。でもでも、お兄ちゃんなら何したい?」
「何って?」
「世界が明日終わるとしたら、最後の一日に何がしたい?」
「そうだなぁ。太平洋を泳いでハワイを目指すかな」
「な、なんで?」
「いや、どうせ溺れて死んでも明日世界が終わるとしたら関係ないだろ」
「お兄ちゃん、考え方がイヤだよ。根本的にナンセンスだよ。ハイかローなら、ローだよ」
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「大体、一日で世界が終わる方法なんて、そう簡単に思いつかないだろ。核戦争が起きても、世界全てが終わるには数日かかりそうだし」
「隕石衝突とか?」
「星全体を破壊するような規模の隕石だとしたら、諦めがつくな」
「私は、たとえ世界が滅んでもお兄ちゃんを愛するよ!」
「その時は二人とも滅んでるだろうけどな」
「魂になっても愛するってことだよ!」
「俺は天国に行けると思うけど……お前は無理だろ」
「そんなことないっ! 悪い事してないもん!」
「しただろ。寝顔を写真で撮ったり」
「寝顔? 何の事?」
「あれ。……そんな話、しなかったか?」
「憶えてないよぉ。お兄ちゃんは冗談キツイなぁ」
「そっか、気のせいだな。……まあ、なんにしても。そういうことは考えない方が楽に生きていけると思うよな」
「私は、いつだってお兄ちゃんの事しか頭にないですけど?!」
「そこは半ギレするところじゃないだろ。ヒステリーか」
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「でもでも、地球最後の日にはやっぱり好きな人と一緒に過ごすのが最高にロマンチックだと思うなぁ」
「はいはい。地球が最後って地点で最高にロマンチックですね」
「あ、馬鹿にしたでしょ!」
「だって地球が最後なんだぞ? 何をしたって無駄じゃないか」
「甘いね、お兄ちゃん。角砂糖の端っこの部分みたいに甘いね」
「角砂糖はどこをとっても等しく砂糖だと思うが」
「何をしたって無駄って発想が駄目なんだよ! 人間っていうのはしぶとく狡猾な生き物だから、最後の最後まで希望を捨てちゃいけないのだ! 泥水をすすって生きよ!」
「急に熱血キャラに転換したな」
「ほらほら、愛の力で地球が救われるなんて、すっごく夢があるでしょ?」
「夢はあっても地球は滅ぶぞ」
「最高のシチュエーションだよ! 終焉を前にして愛の力が絶えることはない。――なんて、映画の宣伝で使い古されたようなありきたりなキャッチフレーズだけど、実際にそうなったらすごく胸キュンストーリー爆発だよ!」
「地球も粉々に爆発する」
「……お兄ちゃん、ちょいちょい水差すような意見言ってくるのやめてよ」
「続けないのか?」
「続けようにもネタ切れだよ! 地球が最後の日なんて、お題が難しすぎるよ!」
「ま、最後にならないことが一番だろ」
「そうだよ。大体、このお題がおかしいんだよ」
「まあそう言うな。お題を考える奴も必死なんだ。ネタ切れという終焉との戦いに」
「それもそうだね」
「案外、このお題の終末も近いのかもしれないぞ」