『言葉遊びの部屋』
言葉遊び:言葉を使った遊び。たくさんある。
「言葉遊びっていったら、しりとりが馴染み深いよね」
「回文とか、早口言葉なんかも言葉遊びの部類だな」
「……」
「どうしたんだ、急に黙って。いつも騒がしい奴が黙るときが一番驚くんだが」
「いつかの部屋でお兄ちゃんが後半に連発してた洒落も言葉遊びだね」
グサァッ!
「とりあえず、回文でもなく、恥ずかしい洒落でもなく――」
グサグサァッッ!
「今回は『しりとり』と、『つみあげうた』っていうのをやればいいんだって」
「やればいいって、誰が言ったんだ?」
「そりゃあ、お題の人」
「お題の人ねぇ。もう神様か何かに思えてきたな」
「そんなことより! どっちから先にやる?」
「そうだなぁ、しりとりにするか」
「うん。それじゃあ」
「待て。ルールを設けないと、しりとりは尺を使いすぎる」
「それもそうだね、どうしよっか。……あ、二人離れてしりとりをして、文字数ごとに一歩ずつ進むの」
「ほう、それで?」
「それでね、先に相手に近づいてキスした方が勝ちってどうかな?」
「却下」
「そんなぁ」
「第一、どうして先にキスした方が勝つんだよ。それなら多く文字数言った方が勝つ仕組みじゃないか」
「違うよ。自分が多く言いすぎると相手に有利に働くから、そこは心理戦の極みなの」
「……確かに面白そうではあるが、結末が気に入らない」
「全国の妹同盟は血涙を流して歓喜のあまりに狂乱して踊りだすシナリオだよ! やろうよ! そしてズンズン一線を踏み越えていこうよ! オーバァァァァアアア!」
「どれだけ支持率の高いシナリオなんだ。とりあえず却下だ。狂気の妹よ」
「ぶぅ」
〇〇〇〇〇〇〇〇
「もうルールとか細かいことなしに始めることにしよう」
「いいの?」
「ああ。すぐに終わりそうだからな」
「?」
「じゃあ俺から、あひる」
「る、ルビー」
「ビール」
「る、るる、ルール!」
「ルーブル」
「ルーブル!? る、るるるるルイジアナ!」
「ナムル」
「な、むる……あぁもう!」
「どうした? ナムルだぞ。それともナイルの方が良かったか?」
「『る』ばっかりずるい! 何も思いつかないもん!」
「しりとりは、『る』が鬼門なんだ。るを制するものはしりとりを制すってな」
「わ、わけわかんないよ」
「とりあえず、しりとりはここまでにしよう。これ以上は何故か不毛な気がする」
〇〇〇〇〇〇〇〇
「じゃあ、つみあげうた? これなに?」
「多分、文章の後ろに文をつぎ足して新しい文を作っていく遊びだったような……」
「ふうん。例えば?」
「妹は馬鹿」
「ちょっ!」
「妹は馬鹿だけど可愛い」
「いやぁ、そんなことは……」
「とまあ、こんな具合だと思った。うろ覚えだけど」
「とにかくやってみるしかないね。順番どうしようか」
「俺がやろう。それじゃあ、妹は馬鹿」
「どうしてそこから!」
「いや、この方が入り込みやすいかと思って」
「そんなわけ……ハッ!」
「?」
「(妹は馬鹿。から始めたら、お兄ちゃんの私に対する感情が駄々漏れの文になっていくに違いない。ここは、傷つくのを恐れず挑むべし! 耐えて、私のハート!)うん。そうしよ」
「随分と長考してたな……。まあいいや、妹は馬鹿」
「ぐっ! 思った以上に破壊力がある……。妹は馬鹿だけど可愛い」
「妹は馬鹿だけど可愛いから悪い男に引っかかりやすい」
「ちょっと!」
「どうした? あ、そういうことか」
「え?」
「妹は馬鹿だけど可愛いから悪い男に引っかかりやすい『ちょっと!』妹が叫ぶ」
「つ、続いてる。え、えと」
「妹は馬鹿だけど可愛いから悪い男に引っかかりやすい『ちょっと!』妹が叫ぶ。『つ、続いてる。え、えと』どうやら悪い男に騙されていることをつゆ知らず、関係は続いている、などと嘘の言葉を吐き捨て、彼の弁論をしようというのか。やはり馬鹿だ」
「……」
「ヒトミ?」
「お兄ちゃんの阿保ぉぉっ!」
「……そして、『お兄ちゃんの阿保ぉぉっ!』と言い残して部屋を出て行った。この時彼女を説得できていればあんなことには。兄に残ったのは後悔だけだった。って、あいつ本当に出て行ってのか。仕方ないな」
ユウジはヒトミを追いかけるべく立ち上がり、開け放たれたドアに近づいた。
「ヒト――。え?」