『卒業アルバムの部屋』
卒業アルバム:思い出のつまった本。黒歴史も同時掲載されており、人によって毒にも薬にもなる。
「今回は卒アルの部屋だよ。しかし、私達に卒アルはない! 理由はない! 過去は振り返らないのだよ、我々は」
「なんだそれ。まあ、確かに卒業アルバムは隠しておきたい黒歴史だよな」
「中二病時代のノートみたいな扱いだね」
「黒塗りのノートに白の文字で『伝説の始まり』とか書いてるやつと一緒にするな」
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「お兄ちゃんは卒業アルバムに思い入れとかある?」
「そうだな……笑顔を撮るまで随分と時間がかかって取り直しの嵐だった」
「それは災難だったね、写真屋さん」
「俺だろ」
「お兄ちゃん、アルバムの写真くらい笑っておこうよ。一回笑えばいいんだから」
「馬鹿か。一回笑っただけで一生残る可能性もあるんだぞ」
「――!」
「第一、笑顔を作るにしても周りからの視線があって恥ずかしすぎるだろ。俺は自分一人で撮った方が断然上手く映るタイプなんだよ」
「ってことは、証明写真が得意ってこと?」
「そうなる。ふっふっふ、これを見ろ」
「こ、これは――! お兄ちゃん、もしかしてわざわざ撮ったの?」
「馬鹿言え。バイトの面接用に撮ったんだよ」
「え、バイトするの!?」
「……面接で落ちた」
「いよっしゃあ!! これで放課後は常に妹タイムだね」
「……」
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「でも、この写真すごいね。証明写真なのにすっごい笑顔。これじゃあ実際とのギャップで面接落ちても不思議じゃないよ。……ところでお兄ちゃん、物は相談なんだけど」
「やらないぞ」
「えー、せめて写真ちょうだい! こういうのって一枚だけじゃないでしょ!? プリクラみたいに何枚も取ってるんでしょ!?」
「そうだとしても、お前にだけは渡さん」
「そんなぁ……滅多に見せない兄の笑顔を見たいと思う、妹の純真を踏みにじって楽しいの!?」
「使用目的を言え」
「そりゃあ、スキャンしてどこにでも持ち歩けるようにスペアをありったけ作るに決まって――」
「だから渡したくないんだよ」
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「そういえば、卒業アルバムって芸能人の人たちが晒されてるよね」
「晒されてるって……言葉選べよ」
「でもさ、ああやって晒されるとしたら卒業アルバムの写真は命取りだね。整形を疑われるかもしれないよ」
「しなきゃいいだろ。してまで芸能人になりたいのか?」
「私はなりたくないよ!」
「恐ろしいまでの迫力だな」
「だって私が有名人になったら、お兄ちゃんに迷惑がかかるもんね!」
「安心しろ。お前は芸能人になれない」




