『美少女ゲームの部屋―告白編①―』
「隊長、美少女ゲームを御存知ですか?」
「ああ、知っている。可愛いヒロインを落とし、恋愛を楽しむという趣向のゲームだろう。ヒトミ隊員、それがどうした?」
「実は前回、後輩の駒鳥亜里沙への恋に気付いた主人公が、ついに告白へと動き始めるようです」
「成程……夜明けは近いか。総員準備、告白イベントへと直行せよ。ただし、もえぎタイムのデッドエンドだけは避けるべし!!」
「はっ!!」
「以上、前回までのあらすじだ」
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『先生:もうすぐ夏休みだが、もう二年生だ。気を引き締めて、来年の受験に備えるように。では、終わります』
ホームルームが終わり、先生の残した単語に盛り上がる。
『生徒C:ヒトミちゃん、夏休み楽しみだね』
『ヒトミ:うん。楽しみだよね』
『生徒T:そういえば、また告白断ったんでしょ? 』
『生徒R:え、うそっ』
『生徒T:ほんとほんと、サッカー部のエース先輩を振ったんだよね?』
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「モブキャラ多すぎないか?」
「た、確かに……Tの時点で二十人規模になってる。制作サイドは、もえぎよりもモブに力を入れるべきだったような気がするよ」
「しかし、ヒトミが告白を断ってる事が隣の席で話題になっているのに、この主人公は聞き耳立ててずっと座ってるのか?」
「そ、そこは触れないであげてよ。あ、動きがあったみたい」
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『ヒトミ:ふぅ……あ、見られちゃった?』
『ユウジ:大変そうだね』
『ヒトミ:まあね。断る私が悪いんだけど、ちょっとあれで』
『ユウジ:ふうん……何か困ってたら相談してよ。幼馴染なんだから』
『ヒトミ:……うん』
ヒトミは元気の無いようすのまま教室を出て行く。
ようし、今日は駒鳥さんに想いを伝えようかな。
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「こいつ、最低じゃないか?」
「さ、最低だけども、お兄ちゃんじゃないから大丈夫だよ」
「……選択肢が無いのに最低ってのは、結構つらいな」
「もしかして、お兄ちゃんが変な選択肢を選び続けた結果、この数か月間でゲームの中のユウジは一段とマイナスに成長してしまったんじゃ――」
「さ、放課後だな」
「……」
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『亜里沙:え、明日ですか?』
『ユウジ:そう。明日、放課後時間あるかな? 一緒に行きたい場所があるんだ』
『亜里沙:わ、わかりました』
そう言って駒鳥さんは抱きかかえる人形を、さらに強く抱きしめた。
よし、これで準備万端。明日の告白を待つだけだ。
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「どうやら腹をくくったらしいな」
「早すぎる気もするけど、駒鳥さんの好感度は高いから、成功するよきっと!」
「だがその前に、関門がある」
「もえぎタイムだね」
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『もえぎ:あ、おにいたん、お帰りなさいだお?』
『ユウジ:ど、どうしたんだ? その話し方』
『もえぎ:えへへ~~。電気街のメイドカフェにいる店員さんを参考にしてみたんだよ? どうかな? 萌え萌えになった?』
『ユウジ:そのワード、かなり久しぶりに聞いた気がするけど……メイド服、似合ってるよ』
『もえぎ:やた。……ご主人様、メイドのもえぎに、命令ください』
『ユウジ:もえぎ?』
『もえぎ:のんのん。ここではメイドのもえぎだよ? お兄ちゃんのメイドとして、ごほーし、してあげる!』
『ユウジ:ご、ご奉仕って……』
ゴクリ。喉が鳴った。
『もえぎ:さあ、お兄ちゃん? 命令ください、にゃ?』
ど、どうしたらいいんだ?
メイドもえぎに、命令しよう。
○一緒に風呂に入ろう。
○抱き合って眠ろう。
○脱げ。
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「「……」」
「さ、最後のはさすがに……アウトなやつだよね」
「ああ。だが、もえぎに嫌われる必要がある以上、選ぶしかないだろう」
「ま、待ってよ! もし、もしもだよ? これがもえぎルートのきっかけになったらどうするの? あんな変態奇行妹なら、確実に悶え死ぬ歓喜の選択だよ!?」
「な、なんて説得力のある……さすが同類」
「あんなのと一緒にしないでよ!!」
「だが、物は試しということで」
「あ、ちょっと――!」
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○脱げ。
『ユウジ:……脱げ』
『もえぎ:ご主人様……もちろんです!!』
『ユウジ:なっ! と、取り消し! 冗談だから!』
『もえぎ:もえぎの愛、たぁんと召し上がれ。むぎゅうううう!!』
全裸のもえぎが抱き付いてきて、僕に身体を擦りつけてくる。
頭が熱くて、何が何だか……。
ガチャリ。
『 母 :うるさいわね、何して――』
『ユウジ:……』
あ、死んだ。
DEAD END。
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「社会的に死ぬということか……恐ろしすぎる」
「最強の生殺しだね」
「仕方ない。オートセーブで戻って、最初の選択肢を選んでみるか」
「おっ、今度は何事もなく、もえぎの好感度にも変化なく終わったみたいだよ」
「遂に放課後だな」
「進行が異常なまでに速いけど、気にしない!」
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『ユウジ:あ、あの、駒鳥さん』
『亜里沙:は、はいっ!』
駒鳥さんと二人、下校の途中で浜辺に立ち寄った。
夕日をバックに、僕は何度も唇を濡らして、言葉を頭の中で繰り返す。
出来る。
大丈夫だ。
だって僕は誰よりも――。
『ユウジ:駒鳥さん、僕と――』
そう言い出す瞬間、砂浜に足音が響いた。
『ヒトミ:その告白、ストップ!!』
『ユウジ:ひ、ヒトミ!?』
『亜里沙:どういう……』
『ヒトミ:ユウジくん、私、その……』
ヒトミはモジモジとしながら、こちらを見て来た。
顔は夕焼けのせいでオレンジ色に見えたが、きっと赤かっただろう。
『ヒトミ:私も、ユウジくんの事、大好きなのっ!!』
『ユウジ:……!』
『亜里沙:先輩……』
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「……なんだ、これ」
「まさかの、幼馴染乱入だね。おっと、続きは次回だよ!」
「また延長か」
「ふっふっふ。まだまだ続くよ、長寿アニメの様に」
「老後の恋愛まで描く気かよ」
告白編②へ続く。




