『美少女ゲームの部屋―ドキドキ編②―』
「美少女ゲームでヒロインを攻略しないと終わらない――」
「さすがに長いあらすじは飽き飽きだろう」
「えぇ……じゃあどうするの?」
「シンプルに考えることこそ、成功の第一歩だ」
「おぉ、説得力あるね」
「では、こほん。後輩に狙いを定めたユウジであったが、ヤンデレな妹と化したもえぎに殺された。しかし俺達にはオートセーブがある。翼がある」
「端折り過ぎだよ! く、詳しくは前の部屋に戻ってください!!」
ゲーム再開。
〇〇〇〇〇〇〇〇
「まあしかし、オートセーブ機能があって助かった」
「究極の保険だね。いっそのこと、私達でオートセーブ保険を作ってみる?」
「オートセーブ保険に加入すると、どうなるんだ?」
「オートセーブされるんだよ。そして使う度に、過ちを犯す手前に戻れるの」
「現実にあったら、加入者が殺到するタイムリープ保険になりそうだな。けど保険というからには加入者には何かを納めてもらうんだろ? オートセーブ保険には、何を納めるんだ?」
「そうだなぁ、時間かな。戻れるんだし」
「命を削ってセーブするってことか……魅力的だが、代償が恐ろしいな」
「人生、簡単に元に戻れるなんて思ったら大間違い。ってことだよ」
「とりあえず、ゲームでのオートセーブは代償が無いから、ぱぱっと再開するか」
〇〇〇〇〇〇〇〇
『もえぎ:ふうん。そうだお兄ちゃん、明日って暇かな?』
『ユウジ:どうしたんだ?』
『もえぎ:たまには、一緒にショッピングしたいなって。駄目?』
もえぎの上目づかいCGが投入された。
『ユウジ:……そうだなぁ』
どうしよう?
○断る。
○一緒にショッピング。
○そんなことよりもディスコ。
「断っちゃいけないってことは、一緒に行くのか?」
「きっとそうだと思うけど……最後の気になるね」
「よし」
○そんなことよりもディスコ。
『ユウジ:もえぎ、そんなことより今宵はパーリナイだぜ!』
『もえぎ:え……お兄ちゃんどしたの?』
『ユウジ:ふううううううううううううううう!』
『もえぎ:うぎゃああ! ま、ママ! お兄ちゃんが壊れてバブリーになっちゃったよ!』
『ユウジ:(よし、これで妹からの尊敬を犠牲にして、どうにか駒鳥さんとの約束を守れそうだ)』
〇〇〇〇〇〇〇〇
「まさかの正解だったね……狂気過ぎるよ」
「もしや、こうやって妹の好感度を下げていかないと、各ヒロインのルートにはたどり着けないという高難易度の恋愛ゲームなのかもな」
「開発者の悪意が滲み出てる……そして同時に、異常過ぎる妹愛も炸裂してる……お兄ちゃん、是非とも私達も、こんな風に異常なまでの兄弟愛を――」
「お、駒鳥さんが家に来たみたいだ」
「ふふっ、無視も慣れると快感だね」
「(俺の妹が、ヤバい方向に目覚めようとしている。……これ、ラノベのタイトルみたいだな)」
〇〇〇〇〇〇〇〇
『亜里沙:おじゃましまーす』
『ユウジ:僕の部屋二階だから、こっちだよ』
『亜里沙:あ、はい』
緊張する……これから駒鳥さんと、あんなことをしようと考えてるなんて。
「こいつ、変態なんじゃないか?」
「お兄ちゃんの選択肢のせいだよ。詳しくはドキドキ編①を参考にしてね」
「誰に言ってるんだ?」
「オーディエンスへのサービスだよ」
「ふうん。お、展開があったな……って、どうしてこうなったんだ」
〇〇〇〇〇〇〇〇
画面には亜里沙とユウジが抱き合うようにこけてしまい、ユウジが彼女の身体を身体全体で受け止めているCGが表示されている。
『ユウジ:だ、大丈夫?』
『亜里沙:すみません、先輩……あ』
駒鳥さんの手から、いつも抱いている人形が落ちた。
それを僕が拾うと、駒鳥さんは奪うようにそれを引き寄せる。
『亜里沙:か、返してください!』
『ユウジ:え、あ、うん』
『亜里沙:……! す、すみません。条件反射で、先輩に……』
『ユウジ:気にしてないよ? それよりも、立てる?』
『亜里沙:はい……その、ありがとうございます』
駒鳥さんがぺこりと謝って来た。
〇〇〇〇〇〇〇〇
「ここは是非、お辞儀と共に揺れるツインテールのCGもしくはアニメーションが欲しいな」
「そんなマニアックな注文、受け入れられないと思うよ」
「なんだと?」
「あれ? なんか、主人公のお兄ちゃんが――」
「え?」
〇〇〇〇〇〇〇〇
ちゅっちゅしようとか考えてたけど……やっぱり駄目だよな。
駒鳥さんを怖がらせちゃうし、何より僕は……彼女の事が好きだから。
傷つけたくない。
もっと純粋に、好きでいたかった。
『亜里沙:先輩? アニメ始まりますよ?』
僕の部屋のテレビの前で、小首を傾げる駒鳥さん(CGあり)。
人形を抱いているけれど、彼女が人形のように見えてしまう。
華奢で儚げな少女。僕はいつの間にか彼女を好きになり、護ってあげたくなっていた。
先程、咄嗟に彼女が転んだのを大袈裟に庇ったのも、その表れだろう。
決めた。
僕は彼女に告白しよう。
……でも、タイミングはどうしよう。
告白はいつするべき?
○今日ここで。
○もう少しお互いを知ってから。
○信じて待ってみる。
〇〇〇〇〇〇〇〇
「お兄ちゃん、まさかの重要な選択肢だよ」
「そ、そうだな……ふ、ふふっ、余裕だ」
「声も手もブルブルだよ!! 最後のは論外だけど、二つとも微妙だよね」
「……まだ早い気がする。それに、ここには奴がいるからな」
「――っ! もえぎ!!」
「そうだ。奴に聞かれるのはマズい。そのためにも――」
〇〇〇〇〇〇〇〇
○もう少しお互いを知ってから。
そうだ。焦る必要はない。
もう少し、お互いの距離をつめてからにしよう。
こうして、楽しい駒鳥さんとの休日を終えた。
「終わったね、大きなイベント」
「なんとか、首の皮が繋がった感じだな」
「いよいよ告白かぁ……あれ、いつの間にか私、お兄ちゃんを応援してる。やっぱり、私はお兄ちゃん一筋ってことだね!」
「妙なアピールはよせ。途中で何度もヒトミやもえぎをプッシュしたじゃないか」
「なんのことかな?」
「……とりあえず、決戦は近そうだ。敵になるであろう他の勢力を見ておこう」
「これ、恋愛ゲームだよね?」
「そうだ」
現在の好感度。
ヒトミ……レベル30。
亜里沙……レベル37。
雫 ……レベル22。
もえぎ……レベル28。
「おや?」
「なんか、均等で上がってるね……何故?」
「か、関係ないだろ。駒鳥さん一筋を貫くべし!!」
「嫌な予感がするー」
告白編へ続く。




