『美少女ゲームの部屋―ドキドキ編①―』
「美少女ゲームでヒロインを攻略しないと終わらない部屋。
そこで私とお兄ちゃんは、大人気美少女ゲーム『初恋はじめました。リメイク版(略して、はつはじ)』をプレイすることになって、主人公をユウジ。幼馴染のヒロインをヒトミって名前にしたんだよね」
「そうだ。後輩の駒鳥亜里沙、先輩の望月雫の二人のヒロインと、強烈な妹キャラもえぎの出現。そして混沌となっていく学園生活の中で、俺の見つける答えとは――」
「なんか、聖杯うんたらみたいな壮大な言い方だけど、実際はお兄ちゃんの狙う後輩ヒロイン、ツインテールキャラの亜里沙の攻略が順調なんだよね」
「そしてついに刃が――」
「交わりません。続きをどうぞ」
「血が……血が足りないなぁッッ!!」
〇〇〇〇〇〇〇〇
「ようやく駒鳥さんを射程圏内に捉えた感じだな」
「お兄ちゃん、露骨に駒鳥さんのイベントばかり選んでるけど、他のヒロインはどうするの?」
「は? 俺は決めたものに一途に生きる人間なんだ。大体、駒鳥さん以外のヒロインとイベントを起こせば、彼女の好感度が下がるだろう?」
「でも、ゲームはそう簡単じゃないみたいだね」
「え?」
〇〇〇〇〇〇〇〇
『ヒトミ:むぅ』
学校に来ると、隣の席のヒトミが頬を膨らませてこちらを見ていた。
『ユウジ:ど、どうしたの?』
『ヒトミ:最近、冷たくない?』
『ユウジ:そんなことないと思うけどなぁ』
『ヒトミ:じゃあ、放課後一緒に帰ってくれる?』
〇〇〇〇〇〇〇〇
「おい、邪魔するな。放課後は駒鳥さんとアニメ談義をする方がいいに決まってるだろ」
「わ、私だけど私じゃないよ! ゲームの中の幼馴染系メインヒロインだよ! えっと、ちょっと待って。調べてみるよ」
「……」
「えっとね、メインヒロインはもえぎの次に厄介なキャラクターみたいだね。元から主人公に淡い恋心を抱いてるせいもあって、たまにヤキモチを焼いてくるみたい」
「元から……? 始業式にはそんな素振りなかった気がするけどな」
「女の子は複雑なんだよ。でも、今回は一緒に帰るしかなさそうだね」
「……はぁ」
〇〇〇〇〇〇〇〇
『ヒトミ:ユウジくん、一緒に帰ろっ』
『ユウジ:うん。いいよ』
『ヒトミ:ユウジくん、今日も帰ろうよ』
『ユウジ:そ、そうだね』
『ヒトミ:ユウジくん、もちろん今日もだよね?』
『ユウジ:あはは』
〇〇〇〇〇〇〇〇
「なんで断る選択肢が出てこないんだよ! これまでは散々選択させてきただろうに!」
「確かに、このままじゃマズいよ。好感度チェックしてみないと」
「……なっ」
「あちゃー」
現在の好感度。
ヒトミ……レベル27。
亜里沙……レベル21。
雫 ……レベル14。
もえぎ……レベル40。
「株価暴騰だね」
「嬉しくねぇ……」
「あ、そうだ。折角番号交換したんだから、連絡してみたらどうかな?」
「その手があったか。天才か、お前は」
「(……単に、お兄ちゃんの女性経験が皆無だから、方法に行きつかないだけだよ)」
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『ユウジ:そういえば最近、駒鳥さんと話してないな。よし、休日に会えないか誘ってみよう』
僕はこないだ知った番号に、メッセージを飛ばす。
すると、数分後に返事が来た。
『亜里沙:『もちろん、大丈夫だよ。休みの日に家に行くね』』
『ユウジ:よおし、これで駒鳥さんと遊べるぞ』
「すごいなこいつ、いきなり家に誘い出したぞ」
「選択肢あるかと思ったんだけど、なかったね……おりょ?」
駒鳥さんを家に呼んで、何をしよう?
○一緒にアニメ映画を観賞する。そのあと感想を言い合う。
○アニメ談義。最近の傾向と特徴について、ネットのような議論を展開する。
○ちゅっちゅする(希望)。
「お兄ちゃん! ここは慎重に選ぼう! 初デートで三番の選択肢を選ぶなんて、最低ゲス野郎のすることだよ! しかもまだ付き合ってないし!!」
「そ、そうだよな。おのれ右親指!」
○ちゅっちゅする(希望)。
「右親指イイイイ!」
「お兄ちゃんの意思だよ。それは確実に、お兄ちゃんの指だよ。……あ、お兄ちゃん。もえぎタイムの時間みたいだよ」
「説明しよう。もえぎタイムとは――」
「そういうのいいから。もえぎちゃん待ってる」
「お前は、相変わらずの妹押しなのか……最初はあんなに罵倒していたくせに」
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『もえぎ:お兄ちゃん、携帯電話握りしめて何してんの?』
『ユウジ:も、もえぎ?! 何でもないぞ!』
『もえぎ:ふうん。そうだお兄ちゃん、明日って暇かな?』
『ユウジ:どうしたんだ?』
『もえぎ:たまには、一緒にショッピングしたいなって。駄目?』
もえぎの上目づかいCGが投入された。
『ユウジ:……そうだなぁ』
どうしよう?
○断る。
○一緒にショッピング。
○そんなことよりもディスコ。
「なんか、このゲームって押したくなる選択肢多くない?」
「何言ってんだ。一択だろ」
○断る。
『ユウジ:ごめん、明日は予定があるんだ』
『もえぎ:予定? もしかして、彼女が出来たとか?』
『ユウジ:か、彼女ってわけじゃないけど』
『もえぎ:ふうん。へぇ』
『ユウジ:もえぎ? どうしたんだ?』
『もえぎ:何でもないよ? うん、何でもないから……』
もえぎは不気味な笑顔を浮かべたまま、部屋を出て行った。
僕はこの時、明日の惨劇を知るはずもなかった。
DEAD END。
真っ赤なアルファベットが黒の画面に出現した。
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「……なんだこれ」
「ちょ、ちょっと待ってね。……えっと、攻略サイトによると、もえぎタイムで選択肢を誤った場合、状況によってはデッドエンドに直行します。
特に他のヒロインとの進展がバレてはいけません。なぜなら、もえぎは初期状態から兄を愛しているからです。――って書いてあるよ」
「……まさか、ヤンデレ妹に死ぬほど愛される要素があるとはな。盛り込み過ぎだろ」
「キミも、もえぎたんと一緒にドキドキの青春を送ろう。だって」
「心臓に悪すぎる! そっちのドキドキはいらん!」
「あ、そういえばお兄ちゃん、セーブしてあるの?」
「安心しろ。このゲームはオートセーブ機能がある。選択肢の前でセーブされているはずだ」
「おぉ、さすがだね。デッドエンドを見越してるね」
「さて、もえぎの選択肢に戻るか」
ゲーム再開。
ドキドキ編②へ続く。




