『美少女ゲームの部屋―初恋編①―』
「美少女ゲームでヒロインを攻略しないと終わらない部屋。
そこで私とお兄ちゃんは、大人気美少女ゲーム『初恋はじめました。リメイク版(略して、はつはじ)』をプレイすることになって、主人公をユウジ。幼馴染のヒロインをヒトミって名前にしたんだよね」
「そうだな。それで後輩の駒鳥亜里沙、先輩の望月雫との出会いを果たし、ようやく恋が始まろうというわけだ」
「以上、あらすじでした」
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「いい感じに進んでるね、お兄ちゃん」
「ああ。行程はすっ飛ばしてるものの、着実に放課後イベントをこなしてるぞ」
「ん~~、でも攻略対象はまだ決まってないの?」
「俺は駒鳥さん一択なんだけど、選択肢が上手くいってなくてな」
『ユウジ:駒鳥さん、今から帰るの?』
『亜里沙:……』
スタスタスタ。
駒鳥さん、僕、何か悪いことしたかな?
「完璧に嫌われてるよ、これ」
「俺が何したっていうんだ……」
「散々やったでしょ。ほっぺた触ったり」
「……好感度チェックでも、駒鳥亜里沙のレベルが上がりにくいと思うんだが」
「そう言われてみると……」
現在の好感度。
ヒトミ……レベル5。
亜里沙……レベル10。
雫 ……レベル14。
もえぎ……レベル43。
「相変わらずの、もえぎ無双になってるな」
「――と言ってる間に、家に帰ってからの通称『もえぎタイム』に突入してるよ」
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『もえぎ:お兄ちゃん、宿題でわからない所があるんだけど、教えてくれないかな?』
『ユウジ:ああ、いいぞ。どれどれ? 意外だな、この教科苦手なのか?』
『もえぎ:そうなんだよ~。てへり』
もえぎの苦手科目はなんでしょう?
○物理
○英語
○美術
「知らん……そういえば、お前の不得意科目はなんだ?」
「私は家庭科だよ」
「ないな……こういう妹は、英語とかにしておくか」
○英語
『もえぎ:でもね、英語できるようになって、お兄ちゃんと海外旅行したいの』
『ユウジ:もえぎ……』
『もえぎ:そ、その時は、えっと、一緒に行ってくれる、かな?』
『ユウジ:もちろんだ!』
『もえぎ:お兄ちゃん大好き!』
「終わったか……もえぎタイム。しかし、こういう妹がいたら嬉しいとは思うだろうな」
「ここに関しては、完璧に趣味だよね……。
ちなみにこの『もえぎタイム』では、選択肢によって妹もえぎの見えないステータスが変化していき、もえぎの育成にも繋がってるんだよね。
なんという究極の妹ゲー。しかも毎日のように……もえぎタイムがあるという修羅」
「それさっき聞いたぞ」
「いわゆるサービス精神だよ」
「意味わからん。とにかく、明日も後輩一択で挑む」
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『ユウジ:お、ヒトミだ。そう言えば最近、話してないな。おーいヒトミ』
「あれ?」
「お兄ちゃん、ついに妹ルートを選択したんだね!」
「ややこしいな。こっちでは幼馴染のお前だろ」
「そ、そうだった……でも待って。こっちだと血の繋がりもないし、正式に結婚できるってことだよね。はっはっは! もえぎ、私の勝ちだよ!」
「……ちなみに、もえぎは都合のいい義妹設定らしいぞ」
「義妹でも駄目でしょ!」
「お前が言うと、すごく新鮮だな。とにかく、間違ってヒトミを選択し……あれ?」
「どったの?」
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『ユウジ:――!』
『ヒトミ:あ、ユウジくん。今から帰るの?』
『ユウジ:そ、そうだけど……どうして駒鳥さんが?』
『ヒトミ:あれ? ユウジくん、いつのまに亜里沙ちゃんと仲良くなったの?』
ヒトミの言葉の後に、亜里沙の立ち絵が出てくる。
『ヒトミ:私、亜里沙ちゃんに話しかけられて、それから仲良くしてるんだよ?』
『ユウジ:は、話しかけてって……駒鳥さん、どういうこと?』
『亜里沙:そ、その……すみません、先輩っ!』
『ユウジ:あ、ちょっと!』
「なんか、熱い展開になってきてるね」
「ヒトミを間違えて選んだんだけど、これってもしかして追っかけろってパターンか?」
『ヒトミ:ユウジくん』
『ユウジ:……!』
『ヒトミ:追わなくて、いいの?』
『ユウジ:僕は――』
どうする?
○追いかけるしかない。
○クラウチングスタートの体制を取る。
○ヒトミと下校する。
「なんか、明らかに誘導されてる気がする」
「お兄ちゃん、どれにするの?」
「これだ――」
○クラウチングスタートの体制を取る。
『ヒトミ:ユウジくん?! 急にどうしたの?』
『ユウジ:僕、陸上部だから……こうしないと気が済まなくて』
『ヒトミ:ユウジくん……帰宅部だよね?』
『ユウジ:ばれたか』
『ヒトミ:もう! 笑わせないでよ!』
『ユウジ:か、帰ろっか』
『ヒトミ:うん。久しぶりね、二人で帰るのって。小学校以来かな?』
『ユウジ:そ、そうだね』
こうして僕は、ヒトミと下校した。
駒鳥さんを追いかけるべきだったけど、陸上部じゃない僕には無理だ。
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「お兄ちゃん、やっちゃったね」
「なんだよこれ」
「きっとあれだよ。陸上部に所属していた場合は、二番でも追いかけるんだよきっと。でも、そうじゃないからジョークを言うだけの展開になったんだね」
「最悪だな、ユウジ。というより、部活勧誘イベントを無視した俺の責任か」
「お兄ちゃんは悪じゃないよ! 悪いのはこの状況で笑って――って、それじゃあ私ってことになっちゃう!」
「「……」」
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駒鳥さん……。
『ユウジ:明日、話せるかな』
「ま、まだチャンスはありそうだな」
「そうだね。ネバーギブアップだよ!」
『もえぎ:お兄ちゃん、今日は一緒にお風呂に入らない?』
『ユウジ:な、何言ってるんだよ!』
『もえぎ:き、昨日のお礼だよ』
『ユウジ:そ、そんな……』
どうすればいいんだ。
○兄妹だから大丈夫だぜ。
○もえぎにグヘヘヘへ。
○水着を着用しよう。
「全部入浴の選択肢じゃねえか」
「きっと、入り方で兄としてのレベルが測られてしまうんだよ……恐るべし、もえぎタイム。ちなみに、私が相手だと仮定してみたら――」
「もえぎの方を取る」
「まさかの義妹! もえぎは所詮、イラストなんだよ!」
「馬鹿言え。お前よりもよっぽど、妹らしいと思うぞ」
「なんと……がくり」
「はぁ、とりあえず三番にしておくか」
こうして、もえぎのやけに気合いの入った美麗なお風呂シーンのCGを堪能した後、好感度が表示された。
現在の好感度。
ヒトミ……レベル12。
亜里沙……レベル7。
雫 ……レベル12。
もえぎ……レベル47。
「……下がってる」
「あ、明日があるよ、お兄ちゃん!」
「絶対に……絶対に亜里沙のルートに入って、後輩彼女とラブを追い求めてやる!」
「あ、愛が深い……その愛が、ほしい!」
彼の初恋は、まだ実りそうになかった。
初恋編②へ続く。




