『美少女ゲームの部屋―出会い編②―』
「美少女ゲームでヒロインを攻略しないと終わらない部屋。
そこで私とお兄ちゃんは、二人で大人気美少女ゲーム『初恋はじめました。リメイク版(略して、はつはじ)』をプレイすることになって、主人公をユウジ。幼馴染のヒロインをヒトミって名前にして、OPムービーまで進めました」
「あらすじ御苦労。妹よ」
〇〇〇〇〇〇〇〇
~♪~♪。
「なかなか良い歌だったな」
「うん。――あ、そうだ。OP明けからは、放課後の移動ができるようになるんだって。あ、ほらほら。校舎の画面があるでしょ?」
「ああ。よく見ると、二頭身のキャラクターが一つのルーティンを繰り返してるな」
「複雑な言い回ししないでよ……と、とにかく、ここからは、そこにいるヒロインの子達を選んで、個別もしくは団体のイベントを発生させていく必要があるみたいだね」
「ふうん。あ、これはヒトミだな」
「ほんとだ。行ってみる?」
「いや、他のヒロインに会ってみよう」
「えぇ~~ヒトミ一択じゃないの?」
「……まずは廊下に行ってみるか」
〇〇〇〇〇〇〇〇
『ユウジ:やべ、今日の夕方アニメは見逃せない!』
「これ、モノローグじゃないみたいだね」
「こいつはなんてことを口走って走ってるんだ……」
『???:わわっ!』
ドンッ!
『ユウジ:いつつ、大丈夫?』
廊下の角を曲がったところで、僕は誰かとぶつかってしまい、尻餅をついた。
「ちょっと待て。状況説明もユウジの視点で進むのか?」
「そうみたいだね。そういう小説も多いし、普通なんじゃないかな?」
「こいつ、ぶつかっておいて状況説明してる場合か」
「お兄ちゃん、それ、どの小説にも言えるよ」
〇〇〇〇〇〇〇〇
画面が変わり、尻餅をついたツインテールの美少女のCGが映し出される。スカートからは白いものが見え隠れしていた。
『ユウジ:だ、大丈夫? 怪我とか、してない?』
『???:あ、大丈夫です。親切にありがとうございます』
「ツッコミどころ、多すぎないか?」
「お兄ちゃん、ここは我慢だよ。こういうゲームは、ありふれたワンシーンも必要なんだから。大人なら目を瞑らないと」
「……」
『ユウジ:もしかして、一年生?』
「こいつ、随分なナンパ野郎だな。自分でぶつかっておいて」
「お兄ちゃんが、最初の選択肢で元気な挨拶するからじゃないの?」
「……」
『亜里沙:あ、はい。一年の「駒鳥 亜里沙」です』
CGが終わり、立ち絵が映し出される。
小さな身体で制服の下にカーディガンを着ているツインテールの少女。髪色は黒だった。丸い目と顔の愛らしい人形のような少女だ。
彼女は何故か本物の人形を抱きかかえていた。
「……この子、可愛いな」
「まさかの、お兄ちゃんの本気宣言!? 本当にツインテールが好きなんだね」
「違う。好きじゃなく、大好きだ」
「……」
〇〇〇〇〇〇〇〇
『ユウジ:僕はユウジ。さっきはごめんね』
『亜里沙:いえいえ、こちらこそです。でも、ぶつかった相手が先輩でよかったです』
『ユウジ:ど、どういうこと?』
『亜里沙:優しそうな方でしたので。それに、ぶつかる直前に聞こえていたんですけど、もしかして先輩も、今日の夕方アニメをチェックしてるんですか?』
『ユウジ:もしかして、駒鳥さんも?』
『亜里沙:はい。戦友ですね』
そう言って駒鳥さんはニッコリと笑う。
『亜里沙:あのぉ、またお話しできるといいですね』
『ユウジ:そ、そうだね』
まずい。このまま別れてしまいそうな流れだ。どうしよう?
○アニメについて、もう少しだけ熱く語る。
○連絡先を交換しておく。
○彼女のほっぺたを触る。
「究極の選択肢だな」
「そこまでっ!? まだ出会って間もなくだよ!? 二番はともかく、三番は不審者だよ!」
「妹よ、男には登れない壁があるとき、そこに挑む習性があるんだ」
「も、もしかして!」
○彼女のほっぺたを触る。
ふにゅ。
『亜里沙:な、なんれふ?』
『ユウジ:あ、ごめん。なんだか駒鳥さんのほっぺたが、その、気持ちよさそうで』
「「(終わった……何言ってんだこの主人公)」」
『亜里沙:そうれふかぁ。面白い方でふね』
『ユウジ:あ、あはは……。今日はとりあえず、帰るね』
『亜里沙:はい。また会いましょう』
駒鳥 亜里沙。可愛かったなぁ。アニメ好きみたいだし、また話してみたいなぁ。
「なんか、進んだみたいだね」
「計算通りだな」
「お兄ちゃん……」
「ん? まだ行動できるみたいだぞ」
「ほんとだ。今度こそ、ヒトミにアタックを――」
「よし、生徒会室に行ってみるか」
「……」
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『ユウジ:ここって生徒会室なのか。始めて来た……』
『???:あら? 生徒会室に何か御用ですか?』
『ユウジ:あ、いえ。そういうわけでは――たまたま通りすがったもので』
クリーム色のウェーブがかった長髪をなびかせる美少女の立ち絵が現れた。スタイルが良く、気品にあふれた上級生キャラクターだ。
「この人は先輩キャラみたいだな」
「なんか、見た目からして天然のオーラだね」
『???:そうだったんですね。あ、お茶でも飲みますか?』
『ユウジ:い、いえ。通りすがっただけですよ!?』
『???:わたくしですか? 生徒会長の「望月 雫」と申しますよ?』
な、何なんだこの人は。いきなり自己紹介し始めたぞ。か、会話が噛み合わない。
とりあえず、失礼の無いように断ろう。
○用事があるという。
○先輩の胸を揉ませてください。
○そこにあるのはなんですか? 夢ですか?
「ここで選択肢なんだね……しかもカオスすぎるよ。これって本当に高評価のゲームなのかなぁ? ……お兄ちゃんは、どうするの?」
「もちろん、これだろ」
○先輩の胸を揉ませてください。
『ユウジ:先輩の胸を揉ませてください』
『 雫 :いいですよ? 服の上からにしますか? それとも――』
『ユウジ:じょ、冗談ですよ!!』
『 雫 :ふふっ、知ってますよ? でも、少し本気にしちゃいました』
「「(何この人……)」」
「お兄ちゃん、まさかの選択肢が好感度を上げてる可能性について」
「ああ、俺も驚いているところだ」
『ユウジ:そ、それじゃあ先輩。僕は帰りますね』
『 雫 :はい~。また会いましょうね』
こうして、僕は帰ることにした。
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「ほ、放課後パート長すぎないか?」
「これの繰り返しで、ヒロインとの溝を埋めてくんだよ」
「既に二名ほど、溝を感じないんだが」
「と、とにかく、家に帰ってもイベントがあるみたいだよ」
「家に……例の狂気的な人気を誇る妹の出現ということか」
『ユウジ:ただいま~~』
『もえぎ:おかえり~~! お兄ちゃああん!』
『ユウジ:うわっ! 帰って早々抱き付くなよ!』
『もえぎ:えへえへ~。これはね、もえぎなりのスキンシップなのだよ。昼間、お兄ちゃんに会えなかった分のエネルギーを充電するためなんだね』
『ユウジ:まったくもう……』
『もえぎ:お兄ちゃん、大好きだよ!』
『ユウジ:はいはい』
「これは、ちょっとあれだな。妹がいない奴の願望が伝わってくる」
「何この妹。ありえない。お兄ちゃんの事をお兄ちゃんって呼んでいいのは、私だけなんだから!」
「……ゲームに没入しすぎる妹より、まだマシか。こう考えると、もえぎたん萌えが理解できる」
「お兄ちゃん! 何言ってるの!? ここにいますよ! もえぎ越えの逸材! ほら!」
「はいはい。……お、なんか好感度をチェックできるみたいだな」
「聞いてるの!?」
「うるさいな。えっと……」
好感度をチェックすると、次のようになった。
現在の好感度。
ヒトミ……レベル2。
亜里沙……レベル3。
雫 ……レベル3。
もえぎ……レベル30。
「……これは一体、どういうことなんだ」
「え、えっと、禁断の兄弟愛、もえぎルートも存在するみたいだね」
「本気か?」
「ユーザーの間ではわざと入り込む人が多いみたいだけど、制作サイドは当初、ゲームオーバーとして作ったんだって。でも、あまりに好評だったから、今プレイしてるリメイク版では、もえぎルートが濃厚かつ背徳的に作りこまれてるみたいだよ」
「なんか、もえぎの為のゲームになってないか?」
〇〇〇〇〇〇〇〇
「とりあえず、お兄ちゃんの目標はどうするの? やっぱりヒトミちゃん?」
「いや、亜里沙を目指すつもりだ」
「……」
「本気だ」
「お兄ちゃん、目が怖いよ」
初恋編へ続く。




