『美少女ゲームの部屋―出会い編①―』
「なんか、前回の部屋と連動してるね」
「お題の人は、愛に飢えてるのか?」
「とりあえず、今回は大型テレビとゲーム機が用意されてるみたいだよ。美少女ゲーム……つまり恋愛ゲームでヒロインを落とすまで終われない部屋なんだって」
「最早、罰ゲームだな」
〇〇〇〇〇〇〇〇
「そいじゃ、やってみようよ。もちろんプレイヤーはお兄ちゃんだよね」
「主人公が男だからって、俺じゃなくても――」
「いいからいいから。えっと、作品名は『初恋はじめました。リメイク版』だって」
「なんだよその、冷やし中華のノリ」
「うわっ、お兄ちゃん……このゲーム、CEROがD(対象年齢17歳以上)だよ、お色気シーン過多なのかな。お兄ちゃんの教育に悪いよ」
「俺は何歳児なんだ。条件はクリアしてるから大丈夫だ」
「えっとね、レビューとか見てみると――
『神ゲー、降臨』
『後輩の亜里沙ちゃんルート、すっごくよかった。感動した』
『幼馴染が欲しいと思いました』
『生徒会長の望月さんが可愛いです。天然すぎます』
『妹ちゃん、はぁはぁ』
『妹のもえぎたん、マジ天使』
『もえぎたん、結婚してください』
『もえぎたんと暮らせるなら、全人類を敵に回してもいいレベル』
『もえぎたん、私の初恋を返してください』
『もえ、もえ、もえぎたん。M・O・E・G・I! MOEGI!』
――すごいよ、かなりの高評価みたい! 美少女ゲームの革命的存在なんだって」
「後半のコメントは偏り過ぎてる気がしたけどな……まあいいか。ヒロインを一人、陥落させればいいんだろ?」
「陥落って……落とすんだよ、恋に。城じゃないんだから。でもまぁ、お兄ちゃんは既に私というヒロインのルートに乗ってるから、難しいかもしれないけどね」
「よし、始めるか」
「無視しないでよ!」
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画面に可愛らしいキャラクターが現れた。
『あなたの名前を教えてね?』
「しゃ、喋ったぞ。ボイス有りなのか?」
「有名な人気声優さんを使ってるみたいだね。とりあえず、お兄ちゃんの名前を入力してみようよ」
「そうだな」
『美少女:ユウジくんっていうんだね』
「……なんか、本当に呼ばれてるみたいで気恥ずかしいな」
「お兄ちゃんが、画面の美少女に照れてる……これはこれでレアだけど、なんか悔しい」
『美少女:ねえ、ユウジくん。私の名前、憶えてる?』
「は?」
幼馴染の名前を入力してください。
「お兄ちゃん、幼馴染だって。……えっとね、この作品では幼馴染のキャラクターがメインヒロインで、名前と誕生日を好きなように入力できるみたいだよ」
「幼馴染がいない場合はどうするんだ?」
「それは……妄想?」
「悲しいな、それ。まあ、大体が幼馴染なんていないだろうけど」
「そういうゲームだよ。と、とりあえずヒトミにしようよ! そうすれば私と始まる恋の物語だよ! いやっふう!」
「まあ、他に付ける名前もないから、それにしておくか」
「(よし。これでお兄ちゃんとの恋愛が……)くひひひ」
「笑い方、キモいぞ」
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「とりあえず、始業式を終えたな」
「ゲームだと、始業式の緊張感も気怠さも感じなかったね。描写が一切ないし」
「校長には登場してほしかったな」
「それだけはやめてほしいよ。校長の話だけでストーリー進まなかったら、シナリオライターが炎上するよ、確実に」
「だろうな」
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『ユウジ:(今日からこの学園で、僕の二年目の学生生活が始まるんだな)』
「おい、俺が急に一人称を僕にして語り始めたぞ」
「これはモノローグだよ。つまり心の声だね」
「心の声って……始業式が終わって、こんなこと呟くか? だるいってのが大半だろ」
「お兄ちゃん、そういう腐った思考は良くないよ。純粋にゲームを楽しもうよ」
「……納得いかんな」
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『先生:それでは、クラス替えもあったため、自己紹介をしてもらう。窓際の者から一人ずつ頼むぞ』
『生徒A:えぇと、私の名前は――』
『ユウジ:(自己紹介だ。ここで失敗したら、学園生活が破たんしてしまう。一年の時は失敗して友達が一人も出来なかった。二年生は、どうにかして乗り切らないと)』
「こいつ、他の生徒の自己紹介を聞かないで、自分の事ばかりか。そんなんだから一年生の時に失敗したんだと思うけどな」
「大体の生徒は、クラス替えしたての自己紹介で慌てると思うけど。あ、それよりお兄ちゃん、選択肢が出てきたよ」
「選択肢? なんだよそれ」
「こういう恋愛シュミレーションゲームって、プレイヤーが台詞や行動を選択することで、後々のストーリーに影響してくるんだよ」
「……随分と詳しいな」
「せ、説明書を読んでるからね。ほら、画面見て画面」
『ユウジ:ぼ、僕の番だ。ようし――』
どういう風に自己紹介しますか?
○真面目にしてみる。
○元気にしてみる。
○含んだ感じにしてみる。
「これは、現実の俺と直結させて考えた方がいいのか?」
「うーん、どうなんだろう? 好きなヒロインを狙う場合だと、ゲームと現実は分ける必要があるけど……ま、お兄ちゃんなら完璧だから、自分の意思でいいと思うよ!」
「そうか。俺なら、これだな」
○元気にしてみる。
『ユウジ:僕はユウジって言います。これからよろしくお願いします!』
『生徒一同:おぉ』
『ユウジ:(よし。掴みは上々みたいだ)』
「よし」
「よし。じゃないでしょ! お兄ちゃんなら迷わず三択目でしょ!」
「何言ってるんだ。俺は元気キャラで名を通してるんだぞ」
「嘘だ……完全に理想の自分をゲームの中に出現させてるタイプだ。つ、次からはお兄ちゃんの意思に合わせてよ! その方が面白いよ!」
「はぁ……わかったよ。お、お前の自己紹介みたいだ」
「え? 本当?」
『ヒトミ:ヒトミです。趣味は愛犬の散歩に、ウィンドウショッピングです。えっと、テニス部に入る予定です。皆さんと仲良くしたいと思いますので、よろしくお願いします』
「うっわ超絶、私そのものなんだけど」
「嘘つくな。愛犬なぞおらん」
『ユウジ:(ヒトミ……相変わらず可愛いな)』
「ちょ、お兄ちゃん。いくらモノローグでも曝け出しすぎだよぉ」
「この画面の中の俺は、何を考えてるんだ」
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『ユウジ:――!』
『ヒトミ:ふふっ』
ヒトミがこちらを見て微笑むCGが映し出される。
長い髪をなびかせ、こちらを見て微笑む美少女だった。
『ユウジ:(もしかして、俺を見て……よし、この学園で僕は、恋愛をしよう!)』
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「急に発展しすぎだろ!! 単純すぎないか!?」
「まあまあ、恋愛ゲームの前提でユーザーが手に取ってるんだから、多少の強引さは目を瞑らないと」
「……納得いかん」
「とりあえず、OPムービーだね。見よう見よう! わぁ、アニメーションなんだね」
こうして、長い美少女ゲームの部屋が始まったのだった。
出会い編②へ続く。




