『○○可愛いの部屋』
○○可愛い:○の部分に悪口を入れてね。
「お兄ちゃん、大発見だよ」
「開始早々の大発見ごくろう」
「あのね、今回って○○可愛いの部屋でしょ? お題が出て考えてみたら、すごいことが判明したんだよ」
「すごい事?」
「お兄ちゃんは、○○可愛いって言ったら、何を思い浮かべる? 最近は多いよね、この使い方」
「マジ天使より多いのか?」
「確実に多いと思うよ」
〇〇〇〇〇〇〇〇
「そうだなぁ、ウザくても可愛いからウザ可愛い。キモいけど可愛いからキモ可愛い。死ぬほど嫌いだけど可愛いから死ぬ可愛い。こんなもんか?」
「最後のだけは違うよね。二つの言葉が合体しても、意味が通らないよ。むしろ変化してるよ」
「――で、何を発見したんだ?」
「あ、そうだった。実はね、○○可愛いの『○○』の部分を取ると、悪口になるんだよ!」
「知ってる」
「え、知ってるの?」
「第一、悪口と合わせて使うことで柔らげつつ、相手を馬鹿にする手法なんだぞ、あれ」
「そう思ってるのはお兄ちゃんだけな気がするのは、私だけなの?」
「例を挙げてみよう。例えばキモくて可愛いものを見つけた時に、友達と一緒の時はどんな反応をするべきだと思う?」
「そりゃあ、キモ可愛い……ハッ!」
「気付いたか。何でも最後に可愛いを付けることによって、女子の間では会話が続くことになる。これが例えば、これ可愛いねって言っても他の人と歓声が違った場合は通じることなく、翌朝から登校拒否したくなるほどのイジメに遭う」
「それは、ないと思うけど」
「対してキモいねっていうと『え、何こいつ。歯に衣着せぬタイプじゃね? ひくわー』って感じになって、メールアドレスを勝手に出会い系サイトに登録される」
「うん。お兄ちゃんが女子世界にどんな偏見を抱いてるのかは大体わかったよ」
「そのための○○可愛い表現に行きついたというわけだな」
「……でもそうか。誰かが使わない限り生まれないよね、造語って」
「流行語もそうだな。こういう言葉って、その時代に生きてる人が使ってるから時代を表現してるものも多いのかもな」
「じゃあ、さっきの○○可愛いもそうなるの?」
「物事を直接的に表現することが憚れるようになって、生まれた表現なのかもしれないな。もしくは、意見を言いにくい社会になった証拠でもある」
「ブログ炎上が始まった時期なのかな?」
「さあな。なにせ、一つ重要なことは、○○可愛いと言われても騙されないことだ。そう言ってきた奴はきっと、悪口をカモフラージュしてストレス発散しているに違いない」
「全てがすべてそうとは限らないけど、あまり使いたくなくなっちゃうね」
「造語なんて、使わなくてもいいんだ」
「それを言ってしまったら、この作品が成立してこない気がするね。根っこから否定するのは良くないと思うよ」
「それもそうだな。時に造語も面白い」
「妥協だね、お兄ちゃん」
「はいそうです。妥協ですが、なにか?」
「これも時代背景に見合った表現なのかな?」




